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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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43.、漢、新たな応援を得る(だが、しかし……)

 やはり騎兵団は違う。


 大剣を振るいながらもユリウスは妙に感心してしまう。いくら隊列を崩しても、元へ戻すまで早い。賢國(けんこく)では帝国の騎士団長に当たる将軍が命令だけでなく、自らも手にした武器で戦う。背後に引っ込んでいないから、配下の騎兵たちも勇猛をもって前へ出てくる。


 長年に渡って戦ってきた相手であった。


 敵に対する感慨は賢國側もまた同様だ。圧倒的に有利な数を擁しても、一向に押し込めない。ユリウスの豪腕が第一の原因だとしても、共に戦う騎らの奮戦は目を見張るものがある。これだけ四方から攻め立てられても、折れる気配さえない。


 それでもいずれは、と賢國側は確信している。


 寡兵ゆえに、いつか力尽きる。勇敢に応戦しているが、どの騎兵も傷だらけだ。疲労の影も薄ら忍ばせ始めている。ユリウス率いる騎兵団は壊滅するだろう、そう遠くない時期に。


 優勢とする考えが支配するゆえに、わずかな油断を招いた。


 黒い人影が宙をゆく。

 不意を突く形で、ユリウスの頭上を越えてくる。

 盾を並べた賢國の防御陣の背後まで飛び、降り立つ。

 着地するなり剣が舞う。周囲の賢國騎兵を斬り捨てていく。


「団長、今だ!」


 ヨシツネの声に、ユリウスは叫び返す。


 バカ野郎ぉおおおー、と。


 見ればヨシツネは防具を外している。傷口が開いたか、黒の鎧下着は赤を混ぜ込む。いかに重傷か、傍目でわかる。飛翔の体力がないため、身を軽くしたのだろう。まさに裸同然で敵中へ飛び込んだ。ユリウスの前面を塞ぐ賢國の陣を乱すために。


 ヨシツネの命がけは実を結んだ。


 ユリウスの大剣は少しの綻びも見逃さない。背後に気を取られた賢國の防御陣は一瞬とはいえ力が抜ける。そこへ狙い澄ました渾身の横振りをかませば、盾ごと賢國騎兵は払い除けられた。


 行手は開けた。しかし間に合わない。


 剣しか持たないヨシツネへ賢國の刃が迫る。身を守る防具は捨ててきた。覚悟してきたと言わんばかり、にやり笑っている。


 ヨシツネー、とユリウスは叫ぶ。前は開けても敵兵はいる。距離もある。


 それでも諦めずに大剣を振るう(おとこ)の頭が蹴られた。


 程なくしてヨシツネを囲んでいた賢國騎兵が次々にうめき倒れていった。


「なに、こんな危ない所へ来てんだ。姫さんのそばにいなくていいのかよ」


 命を救われたにも関わらずヨシツネは悪態を吐かずにいられない。


「私はご報告へ伺っただけですわ。それなのに、なんですか、その出立ちは。殺してくれと言っているようなものですわ」

「しょうがねーだろ。オレにも事情があるんだよ」


 手裏剣を放つ手を止めないツバキへ、ヨシツネは答える傍ら剣を地面へ立てる。自力で膝が伸ばせない。頭がぼぅとすれば、情けないが返事するだけで精一杯だ。そう言えば、普段ならもっといい切り返し出来ただろうに、なんとも冴えない言い訳をかましていた。


 自嘲で笑いたくなったヨシツネの目が捉えた。 


 あれはアーチとかいう名の将軍だったか。ひょろりとした痩せ型だが、見た目で油断すると痛い目に遭う。長槍の遣い手で、繰り出す速さは大陸中においてイザークに次ぐ。今まさに手にした愛用の武器を突き出す。忍びの者か、とツバキの正体を見極めたうえで攻撃してくる。


 させるか! とヨシツネは最後の力を振り絞った。ツバキの前へ、長槍の穂先を受け止めるべく身体を投げ出した。


 ぬっと巨大な影がヨシツネだけではない、ツバキも覆う。


 ユリウスだった。二人を庇って、長槍を受け止めた。

 自身の身体を使って。

 その証拠に地面へ、ぽたぽた赤い雫が落ちている。


 やったぞ! とアーチ将軍の歓喜も聞こえてくる。ユリウスの心臓を貫いたぞ、あの闘神を仕留めたぞ! 歓喜とした声が周囲一帯へ響き渡った。

 嘘だろ、とベルが茫然自失とするなか、ユリウスの騎兵たちにルゥナーも声を失う。


 団長ぉおおおー、とヨシツネが悲痛に塗れるまま叫んだ。


「どうして、ユリウス様」


 みるみる瞳が潤んでいくツバキは信じられないとばかり尋ねる。


 答えはあった。


 ツバキがいなくなったらプリムラが悲しむからな、と。


 衝撃による戦線の停滞は数瞬のうちに破られた。


 歓声と共に賢國と帝国の連合兵団が襲いかかってきた。

 ユリウスのいない騎兵団へ一気呵成とばかり攻勢をかける。掃討戦だった。


 指揮官なき今、ただただ応戦するしかない。


 ミケルやリースの甲冑は破損箇所が増え、流れる血の量も多くなっている。


 ここぞとばかり射られる矢にベルは身体をもってキキョウへ届かせない。だがそれもどこまでやりきれるか不明だ。


 周囲の騎兵らも同様な状態だ。目的もなく本能で戦っているだけに限界は近い。


 ユリウスの騎兵団は先を失い、壊滅を待つだけの集団になっていた。

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