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婚約破棄され続きの騎士は想いが重い王女の愛で進撃す!  作者: ふみんのゆめ
漢の怒涛篇

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39.漢、激闘の最中、配下に怒る(嬉しくなってもいる)

 なにやら後方が騒がしい。


 激戦と乱戦の両面を伏せ持つ戦況でなければ、もっと注目はされていたはずだ。


 多勢に囲まれたユリウスの騎兵団である。帝国兵の迎撃に忙しい。ともかく目の前の敵だ。周囲を意識する余裕はない。


 指揮官の騎士団長はひたすら前を目指している。

 敵兵ですら気づけなかったくらいだ。


 ユリウスたちが感知できなくても不思議ではない。


 ようやくユリウス率いる騎兵たちが認めた時は、すでにその存在は近くにあった。後方から攻め立ててくる帝国兵を踏みつけて、白き獣が飛ぶ。


 ユリウスの頭を越えていくと同時だ。


 宙を舞う白き獣から、ある人影が飛翔した。着地する寸前に踊るような縦横無尽さで剣が舞う。


 一瞬の間の置いた後だ。


 ユリウスの前方で展開していた帝国兵たちが一斉に血飛沫を噴出させた。


 ただし剣で敵を葬った人物も多くの血を流していた。攻撃を受けていないにも関わらず、甲冑の隙間から滴らせるほどだ。ぼたぼた地面へ落として止まらない。


 ここまで連れてきた白き獣が口を利く。


「大丈夫なのか、ヨシツネ。やはり無茶がすぎているようだ」

「無茶は百も承知で来てるんだ。ルゥナー、そんなこと気にすんな」


 そうだな、と白き狼は承服すれば全身から煙りを立たせる。みるみるうち人間へなっていく。切れ長の目が印象的な青年が現れた。


 するとヨシツネが笑いながら言う。


「わりーな。なんかずいぶんムリさせたみてーだ」

「大したことはない、と言いたいところだが月の力なしで狼の姿はしんどかった。これに見合う対価を求めたい」

「それに関してはオレより、あそこの団長さんに求めてくれ。なにせこの戦の後は王様になるお方だからな」


 まったく、と人間体のルゥナーは首を横に振る。


「ずいぶん不確かな取り引きだ、これは」

「莫大な利益を得るには、それ相応のリスクはあるもんだろ」


 まだ軽妙に交わされていきそうな会話は、怒声によって中断された。


 バカヤロー、とユリウスが飛ばしてきた。


「なにをやっている、ヨシツネよ。おまえは怪我人だぞ。なのにバザールを担ぎ出してまで、ここへ来る。帰って寝てろっ」


 叱咤が心配のあまりくらい誰でもわかる。だからこそヨシツネは太々しい態度を選ぶ。ユリウス、と呼び捨てては剣先まで向ける。


「悪いが、オレの命の捨て先は自分で決めさせてもらう。ハナナの王様は悪い人じゃないが、身代わりなんて御免だ。命を引き換えていい相手は団長のみ、ユリウスその人と決めているんだ。だから今回だけは言うことを聞けない」


 バカヤロー、とユリウスはまた叫んだ。ただ前回よりだいぶ力強さは失われている。照れもあるのだろう、続く言葉が出てこない。


 覚悟を表明したヨシツネが次に向ける矛先は自分らの騎兵だった。特にミケルやリースといった剣戟隊へ、なにやってんだ! と始めた。


「おまえらが団長の後ろにいて、どうすんだ。何がなんでも突破口を作るんだよ、ユリウスという闘神(とうしん)のために前へ出て道を切り開け。命を捨ててでもな!」


 ちょうど並んで戦っていたミケルとリースは顔を見合わせた。うなずき合えば、気合いの声と共に駆け出す。剣を持つ騎兵も続々追う。


 剣戟隊長ヨシツネの檄に応えて守勢から攻勢へ切り替えた。


 行く手を塞ぐ帝国兵も人間と巨大狼の闖入に途惑いはした。けれど敵が向かってくれば、目は覚ます。いくら敵が気迫を漲らせようとも、所詮は少数でしかない。むしろ無理やりな突出と捉え、餌食とするべく構えた。


 帝国兵の一人が額を矢で射抜かれた。次々に後を倣う兵が続出した。今までにない正確さで飛んでくる。援護には充分で、ユリウス騎兵団の剣戟隊は一気に斬り込んだ。


 まったくどうやって、とユリウスは後ろを振り返った。


 見事な射当ては誰が、などと問うまでもない。ただ疑問はある。右腕は使い物になっていないはずだ。どうやって弓を放っているか。見たら、おおっ! と唸ってしまった。


 ベルの右腕は回復していない。左腕で弓柄を握って、狙いはつけている。矢を放つ役目は忍び装束の少女だ。ぴたりキキョウが寄り添っては矢筈をつかんで引く。合図をもって離している。


 弓兵隊長の登場により、矢がいいポイントを突くようになった。ベルの指示だけで様変わりしていた。無論、帝国の弓兵も見逃しはしない。隊長と一緒にいる少女を狙う。一斉に矢を放った。


 無防備に見えたベルとキキョウだが、どの矢も届く寸前に払い落とされていく。忍び姿の護衛が就いていた。まだ傷は癒えていないサイゾウが顔色一つ変えず、飛んでくる矢から二人を守っていた。


「おおっ、スゴイな」


 ベルとキキョウにサイゾウといった連携に、ユリウスはいたく感激した直後だ。


「どうしてどいつもこいつも……バカだぞ」


 逃げろといった連中が戦場へ舞い戻ってきた。本当は自分たちの幸せだけを考えてくれれば良かった。


 これだけで終わらない。


 イザークが戦っている方面へ向かう騎兵集団がいる。長槍を手にした先頭がオリバーと認めれば、傷の療養から戻ってきたらしい。完全に治癒したとは考えられないが、魚人(ぎょじん)族のムート立国の守備兵に就いたルゥナーが駆けつけるくらいである。豪雨によって戦線は三日間膠着をしていた。状況が伝わってくれば、居ても立ってもいられなくなったのだろう。


 ユリウスの下に集う騎兵のいずれもが見過ごすなんて無理みたいだ。


 配下とする者だけではなかった。


 いつの間にかそばに立つ少年が力強く呼びかける。


「ユリウスを絶対にウインとかいうヤツのところまで行かせるよ。ボクが飛んでくる矢から守るから、ひたすら前へ進んで」


 ハットリが決意を伝えてくる。


 ついユリウスは大笑いしそうになった。誰も言うことを聞いてくれない。なのに嬉しすぎて、気合いは最高潮へ達す。


 うおおぉおおおおー! ユリウスの雄叫びが騒がしいはずの戦場を圧していく。


 皆の協力と自らの力で、壁みたいな帝国兵の人海戦術を打ち砕く。


 あれほど停滞していたユリウスの進行が動き出した。


 重症を押して来た四天(してん)の二人による身など顧みない姿は、さらなる奮戦を呼ぶ。ユリウスより先にミケルやリースが出て斬り込む。微かに退いた帝国兵の間隙を突いてユリウスの大剣が唸る。活路が開けていく。引っ切り無しで飛んでくる矢を叩き落とせない分は身体で受け止めるサイゾウとハットリだ。絶対に守り切るとした強い意志がこもっていた。


 前へ、前へ。


 本営を前面で守る陣を削っていく。徐々に徐々に帝国兵は押され、侵入を許していく。


 必死に向かってくる帝国騎兵の一群をユリウスが薙ぎ払った時、その瞬間は訪れた。


 ついに帝国兵団の陣形を打ち破った。


 五千の兵で、四十万以上がひしめく兵の陣を突き抜けた。


 総指揮官ウイン皇弟がいる本営は間近だ。開けた光景に希望をぐっと手繰り寄せられたはずだった。


 まさかの、絶望が待っていた。


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