第3回
埼玉文学賞落選作品(笑)
ー「桜汰くん?...桜汰くん?」
「...え?何?」
その声に反応するように、私は窓の外を見ていた顔をその声の方に向けた。
「桜汰くんて、いつも窓の外を見てるよね」
そこには、私の前の席の、椅子に座りながらも体をこちらに向けた一人の女の子が私の方を見ていた。
「そんなことないよ...」
私は、そう言われた事に対しとても恥ずかしくなり、強く否定した。
「桜汰くんは何をお願いするの?」
女の子は、そう言って私の手元に視線を落とした。
「え?うん、今、考えてるトコ...」
私は、短冊を隠すかのように手で覆った。
「そうなんだ〜」
そう言ってその子は私に笑顔を見せた。
その女の子の名前は、『白矢風月』ショートカットで、笑うと左右のヤエバが印象的の、とても可愛らしい女の子だった。私はしばらく女の子同士で話している白矢風月の後ろ姿を気にしながら、もう一度短冊に視線を落とした。
プロ野球選手とか宇宙飛行士になりたいって書いても、そんなのにはなれないのは分かってるよ。先生も、なんでそんな事書かせるんだろう...。
私は、短冊の左下の隅に小さく自分の名前を書き、後は何も書かずペンを置いたー
「確か、プロ野球選手だったかなー...」
私は、とっさにそう嘘をついた。そしてそんな自分が嫌になった。
「そうですかー、やっぱり普通、プロ野球選手とかですよね...」
そう言って鈴木さんは、意味深に自分の手元に視線を落とした。
「え?鈴木さんは、なんて書かれたんですか?」
鈴木さんは私の言葉に反応して一度こちらに顔を向けたが、直ぐに視線を再び自分の手元に落とした。
「僕は少々変わった子でしてね。普通は、逢沢さんのように将来なりたい職業とか夢なんかを書くんでしょうが、短冊に...『新しい先生』って...。というのも、その時の担任の男の先生があまり好きではなくて、単純に新しい先生がほしいなって...。今では、その先生に悪い事したなーって思いますよ」
鈴木さんは下を向いたまま苦笑いをした。そしてそんな自分の話題を変えたかったのか、早口で私に問いかけた。
「逢沢さんは、どんな子供だったんですか?」
「私ですか?そうですねー...」
私はどこか冷めた子供だった。とても現実的で、合理的でもあり、無意味な事が大嫌いだったー
第4回へ続く...




