表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/25

21話 いい人仮面の正体

「おふ、母上。いい人仮面がルール違反って、そりゃどういうことだよ」


 マルクがサリア=ル夫人に詰め寄り、夫人は頷く。

 しかしこの親子、衆目があってこれなのだから、普段の話し合いはとても王族とは思えないほどフランクなようである。


「あなたは気がつかないのですか、マルク。いい人仮面の正体に……」

「正体も何もこいつこういう奴だろ? 仮面付けてるただの騎士」

「そんなわけあるわけあるわけあるありますか!」


 舌がもつれたようである。

 すぐにサリア=ルは続けた。


「マルクよ、素直なのも大概におし。仮面を付けた騎士は正体を隠している仮面を付けていない人よ。正体がそのまま仮面を付けた騎士というわけではないの」

「そうなのか?」


 マルクはいい人仮面に確認するが、そんなことを確認するということは、本当にただただ仮面を付けただけの知らない騎士くらいに思っていたらしい。もしくは生まれてこの方ずっと仮面を顔に付けている人。それならある意味仮面が素顔だ。


「はい。申し訳ありません、マルク様。ボクには正体があるんです……」

「へー。どんなん?」


 ごく軽い感じで聞くマルク。

 いい人仮面はちらりとアレリアを見ると、覚悟したように仮面に手をやった。


「ボクは、ボクの正体は……」


 そっと、仮面を外す。


 出てきたのは、大きくてぱっちりした濃ピンクの瞳……。は言うまでもなく仮面を外す前から見えていた。顔の上半分しか隠していないシンプルな作りの仮面に彼女の正体を隠すような力はほぼない。だから仮面をしていようがしていまいがいい人仮面はエメリーヌにしか見えない。少なくともアレリアにはそうだった。


 しかしマルクは違った。


「……エ、エメリーヌ!?」


 どよどよ……………と観客席からもどよめきが起こる。


 マルクの驚愕は本物だったし、闘技場に詰めかけた観客たちのどよめきも本物だった。

 一人アレリアだけが違う意味で驚愕していた。


(みんな本当に気付いていなかったの!? そちらのほうが驚愕じゃない!?)


「はい。ボクは……エミィは……エメリーヌ・パラド……。エミィですの……」


 神妙な顔つきのエメリーヌ。言葉遣いも直してきた。


「わ……分からなかったぜ。でも確かに言われてみればそんな感じだわ。髪の色とか声とか背格好とか、そういえばエメリーヌも二刀流だったっけ」


 それ全部大事! 気づけよ! とアレリアは心の中でツッコミを入れる。


「もう分かったわね、マルク。彼女の規約違反が」


 サリア=ル夫人が規約違反としたのはマルクの落とし穴ではなく男装して出場していたいい人仮面のことだった……。


「ああ。この大会、女の参加は許可していない……つまりエメリーヌは本当は参加資格がなかった。なのに仮面を付けて男のフリして無理矢理出たってことは、失格扱いになる。つまり……」


 マルクは腕を組んで考えこむフリをしていたが、やがて顔を上げるとニヤリと顔を輝かせた。


「この大会、俺が優勝ということだ! つまりアレ姉は俺のもの!」

「違いますこの大会自体が無効ということです! 従って優勝賞品も無し!」

「なんでだよ!」

「考えてみなさい、この大会、どこから彼女が勝ち上がってきたか。そう、最初の試合である準々決勝からです。準々決勝から無効。準決勝も無効。決勝戦も無効。マルク、あなたは無効と戦っていたのよ……!」

「な、なにぃ……」

「つまり無効! 全部無効です!」


 夫人は腕をバッテンにして観客に宣言する。


「あえていうならリヒャルト殿下が行った準々決勝のみ有効です。ですがここまで無効続きの試合が続いてしまったのですから、リヒャルト殿下の準々決勝も理事長権限でノーゲームとします。この大会自体を無効とします!」

「まあいいだろう、そのほうがさっぱりしてる。大会は最初からやり直しだ、そいつ抜きでな」

「と思ったマルク、あなたは甘い」


 サリア=ルは今度はマルクをビシッと指さした。


「理事長である私が知ったからにはこんな大会無効です! またやるにしても優勝賞品は別!」

「なんだと!? アレ姉との婚約権が目玉の大会なんだぞ、これ!」

「だからそれが駄目なのよ! 人の婚約権なんか! 勝手に優勝賞品にしたらいけません!」

「ぐぬぅ……」


 大正論である。

 さすがのマルクも理事長先生であるサリア=ルに学校行事の開催を否定されてしまえばできないので、悔しそうに唸っている。

 とにかく、アレリアは助かったのだ。


「さて、いい人仮面ことエメリーヌ」

「はい……」

「あなたが何故こんなことをしたのか、聞きましょう。ものによっては罰則アリよ? 心して答えなさい。あなたは正式に開催された臨時行事である剣闘大会に規約違反と知りつつ出場し、かき乱し、大会自体を無効にさせました。申し開きはありますか?」

「ありませんの。本当に……申し訳ありません……」


 しょぼくれるエメリーヌに、マルクが首を傾げる。


「でもなんでこんな大会に出たんだ? お前の強さは本物だし、もしかしてただの腕試し?」

「違いますの」


 エメリーヌは即答した。


「別に、人間相手に戦って勝っても……意味はあまりないですの……」

「じゃあなんで。あ、もしかしてお前が俺と婚約するためにはアレ姉が邪魔とかいうあれか? ええっと、アレ姉がお前と婚約したら俺はアレ姉と婚約はできなくなるからアレ姉は婚約できなくなるから俺がリヒャルトが婚約する……だっけ? 頭がこんがらがってくるぜ」


 なんか違う。

 まあとにかくマルクとアレリアが結ばれることはなくなる、ということが大事である。


「だいたい合ってますの」


 合ってるらしい。


「エミィがこの大会に出場した目的は、勝ち上がってアレリア様との婚約権を得ることですの」

「なるほど。同性であっても結婚したくなるアレ姉の魅力、半端ないな」

「そんな、畏れ多いですわ。優勝して婚約権を得たら破棄するつもりでしたの。それでアレリア様には自由になってもらうんですの」


 アレリアはハッとした。

 いま、この子はなんと言った……?


「エメリーヌ、それは……。どういうことですか」


 さっと、エメリーヌはアレリアの前に片膝をついて跪いた。それはまさに騎士が姫君に対してとる所作であった。


「姫、今までエミィがしてきた数々のご無礼をお許し下さい。エミィ、分かったんですの。エミィはアレリア姫が羨ましかったんじゃなくて、アレリア姫に……アレリア姫に……」


 グズッ、と鼻をすする音がする。泣いているのだ。


「アレリア姫に、近づきたかっただけですの。綺麗で、ずっと憧れてて。お姫様みたいって……お姫様なんですけれど。なのにあんなことしてごめんなさい。なのに姫はエミィのこと助けてくれたんですの。ご自分だってお辛いのに。エミィのこと許してくれて……あんなことしたのに……。エミィ……、アレリア姫がお辛い状況だなんて知らなくて」


 エメリーヌは顔を伏せたまま続ける。


「エミィは騎士です、お姫様じゃないです。だから騎士としてできることで、アレリア姫をお護りしようと思って……。だから男装してこの大会に出て、優勝して、婚約権とって、婚約破棄しちゃえって思ったんですの。そしたら姫が自由になれるって」


「そう……。ありがとう、エメリーヌ」


 もらい泣きではないが、アレリアもじーんとしてきた。

 エメリーヌもエメリーヌなりにアレリアのことを守ろうとしてくれたのだ。


 やはり前世とは違う……それがアレリアの心に染み入る。

 愛する婚約者、父や母。幼かった妹までも巻き添えに……。

 前世は全てに裏切られたけれど、今世は違うのだ。


 前世とは違う人生を、アレリアは歩んでいる……。


 アレリアはすぅっと息を吸い、身体の中の高ぶった熱を冷まそうとした。


「……あのね、エメリーヌ。もしよかったら、可愛いお姫様になってみる?」

「え?」


 と顔を上げた彼女の顔は、やはり泣き濡れていた。

 それを見たアレリアはたまらず、涙がこみ上げてきてしまう。


「あ、あのね、エメリーヌ。もしお姫様に憧れているのなら、わたくしのドレスを貸してあげるわ。少し寸法を直さないといけないけれど、そんなの大したことなくてよ。お化粧の方法も教える、ヘアアレンジも。それから、レース編みや刺繍もね。そ、それから、それから……」


 アレリアは涙をこぼしながら、跪くエメリーヌに抱きついた。


「だから、もういいの。ありがとう、エメリーヌ。本当にありがとう。これからは仲良くしましょう?」

「姫……!」


 エメリーヌは顔を輝かせるが、泣きながらも少し困ったような顔をする。


「でも姫、エミィは騎士ですし、そんな……お友達になれるのは嬉しいんですけど、やっぱりエミィは騎士ですし、姫のこと守りたいですの。犬としてもそんな感じですし」

「犬かぁ……」


 ここに来て犬。エメリーヌの価値観の根底にあるのは犬である。それを否定するのはかわいそうだ。


「そうね。あなたのしたいようになさるのが一番ね、エメリーヌ。でももしお友達としてお話ししたり、お洒落を楽しみたかったらいつでも言ってね。そういうのならわたくし得意ですから」

「ありがとうございます、姫。そのお心遣いだけでエミィ、昇天しそうですの!」

「しないで昇天……」


 ぎゅっ、とアレリアは彼女の肩を抱き締める。


 ポン、と手を打ったのはサリア=ルである。


「じゃあエメリーヌ、あなたアレリア専属の騎士になっちゃいなさいな」

「え?」

「え?」


 と、アレリアとエメリーヌは同時に聞いてしまった。


 専属騎士? なんだそれは。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ