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15話 存在感

 観客席をあとにしたアレリアは、リヒャルトの選手控室に向かった。

 が、控え室エリアへ続く廊下には沢山の女生徒たちが押しかけ黄色い声を上げていてなかなか通れるものでもない。


「キャーッいい人仮面様素敵!!!! 見えるのがいいわ!」

「顔は見えないけどきっと格好いいに違いなくてよ!!!!」

「見えた! 私にも見えましてよーっ!!!」

「見えない相手によくやりましたわ、いい人仮面様!!!」

「リヒャルト様はよく見えないから見えるいい人仮面様推しですわ!!!!!」


 勝者への賞賛というよりは見えることの安心感が人気の秘訣のようである。


 そんな中をかき分けていくのだが……。


「あら? あれってアレリア様?」

「やだ、表敬訪問? 自分でこんな大会開催しておいて……自分を取り合う男たちを見て良い気分になってるのよ」

「さらにちやほやされるためにいい人仮面様に会いに行くのだわ」

「ほんと、お姫様扱いがお好きな方ですこと!」


 なんて言葉をわざわざ聞こえるようにさえずっている。新たなる推しがすぐ近くにいる興奮に気分が高まりすぎて攻撃的になっているのだろう。

 それに事実が違うのだが……いちいち訂正するのも馬鹿らしく、アレリアは彼女たちの隙間を縫って前へと進んでいった。


 しかし……。


「部外者は立ち入り禁止です」


 ようやくたどり着いた控え室エリアへの入り口で、リヒャルトの従者らしき騎士階級の生徒が通せんぼしていた。


「わたくしは部外者ではありませんわ。選手たちが目指す優勝商品ですわよ。わたくしの表敬訪問を喜ばない選手がいますかしら。すぐに通して下さる?」


 アレリアは女生徒達を背後に回し、彼女たちの悪口を思い出しながらそう言ってみた。


「なんと仰られようとも駄目です。殿下はお怪我をなされていますので」

「なっ……、本当ですか? 大丈夫なの?」

「我々ゼルデモンドの者が手当しています。皇太子殿下に命に別状はありませんし、部外者の方は立ち入りをご遠慮願います」


 部外者――それはつまりこの場合は他国民という意味らしい。


 ゼルデモンド帝国の皇太子を打ち負かしたいい人仮面はどこの者かは明かされてはいないが、ゼルデモンドの者ではない、と判断したのだろう。試合中のことなので処罰はされないが、それでも要注意人物である。それがすぐ近くの控え室にいるのだ。

 そりゃあ他国民を厳重警戒もするだろう。


「……でしたらいい人仮面さんに会うわ。それならいいでしょう?」


 騎士階級の生徒達が通せんぼしているのは控え室エリアへの入り口であり、そのなかにはもちろんいい人仮面の控え室もある。

 ここさえ突破できればリヒャルトの控え室に行くことも可能だろう。


「いけません」

「別に良いだろ? 他でもないアレリアが来てくれたんだぞ」

「駄目です。リヒャルト殿下の手当中ですので、部外者はお引き取り下さい」

「……通しなさい。命令だ」

「駄目です。我々に命令できるのはリヒャルト皇太子殿下だけです」

「リヒャルト殿下! お怪我は大丈夫なのですか?」

「殿下? 何を言って……」


 騎士階級の生徒は後ろを振り向いた。


「うおおおお殿下!? なんで!?」


 そこにいたのはもちろん、青い髪に灰色の眼の長身痩躯、よくよく見れば超美形、ただしその機会はかなり少ない帝国の皇太子リヒャルトである。

 彼は先ほどまでの黒い重装鎧をすでに脱いでおり、白を基調とした男子制服姿だった。それが普通に立っている。見た感じ怪我はしていないようだ。


 騎士階級の生徒は深く頭を下げた。


「もっ、申し訳ございません殿下っ! 臣下ともあろうものが気付かないとは……」

「うん……まあ、いい。この存在感のなさを活用していこうと思っていなかったら心が折れていたところだけどね」


 と言いつつ目が遠い。


「リヒャルト殿下、お怪我は……」

「アレリア、とにかく入りなさい。話は後だ……、とその前に」 


 こほん、と咳払いをしてからリヒャルトは押しかけた女子生徒たちに告げた。


「この大会はマルク殿下の企画立案によるものです。もちろん優勝商品のアレリア嬢との婚約権もマルク殿下が勝手に掛けました。だからアレリア嬢はきっぱりと被害者です。皆、自分の婚約権を勝手に優勝商品にされたらどう思うか、己が身に置き換えて考えてみるように」


 その言葉にざわつく女子生徒たちの視線がアレリアの背中にまとわりつく。それから庇うように、リヒャルトはアレリアを廊下の中へとエスコートしてくれた。


「差し出がましかったかな。でも君が一方的に悪く言われるのが我慢ならなくてね」

「あ……ありがとうございます、殿下……」


 見ていてくれたのか。守ってくれた……そのことにアレリアの心が暖かくなる。


 暖かくなりつつもちょっとした疑問はある。

 リヒャルトはあの女子生徒たちがアレリアを悪く噂しているのを聞いていたということだ。ということは、けっこう前から出入り口を守っていた騎士の生徒の近くにいたはずだ。

 いつからいたというのだろう、この人……。


「いやあ、しかしいい人仮面はあっという間に凄い人気になったね。格好いいもんな、あの二刀流」

「……え? あ、ええ。二刀流ですわ。二刀流」


 本当は二刀流じゃなくてちゃんといい人仮面が見えるから、なのだが。それを存在感の薄い彼に言うのはさすがにはばかられた。

 もしかしたらリヒャルトは知っていてわざと二刀流のせいにしているのかもしれないし。だとしたらもう余計に二刀流は格好いいと強調せざるを得ない。


「二刀流格好良かったですものね。スタンドでもみんな二刀流に釘付けでしたわ」

「僕も初めてなんだ、二刀流と戦ったのは。いやあ、してやられた。みっともないところを見せてしまったな」

「あ、あのっ、お怪我は大丈夫なのですか?」

「ああ、大したことないよ。みんな大袈裟で困ったものだ、ちょっと脳震盪を起こしたくらいであとは軽い打撲だけだというのに」

「脳震盪って、けっこう大変なのでは?」

「まあ安静にしているほうがいいだろうけどね。すぐに気がついたし……。いい人仮面への用事が済んだら控え室で休もうとは思ってる。みんなの気がすむようにしたほうがいいからね」

「いい人仮面さんに何か……?」

「うん」


 と、彼は微笑んだ。


「次の試合まで時間があるからね。その間にちょっと話しておくことがあるんだ」



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