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あびす! 〜島育ちの女子高生たちが自宅のガレージで深海探査機を作ったら、世界のエネルギー覇権を揺るがす大発見をした件について〜  作者: YKO


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第2潜 涙の過去とめんだこ1号の誕生 ③

背後から、甲高い、聞き覚えのあるような、しかし何より聞きたくない軽い調子の声が背中越しに飛んできた。



「――おっ、あかねっちじゃん! ひさしぶりー、元気してたぁ?」



ビクッ。


その声を聞いた瞬間、朱音の全身の血がサーッと引き、まるで雷に打たれたかのようにその場でピタリと硬直した。


恐る恐る振り返ると、そこには派手なメイクに今風のブランド制服を着崩した、かつての中学の同級生――あのいじめグループの女子高生が3人、ニヤニヤとした嫌らしい笑みを浮かべて立っていた。



「え……嘘……?」



誰だろうと、菜月と凪が怪訝な顔でその一団を鋭く警戒するように見据える。



「ってかさー、あんた、どっかの田舎の島に引っ越したって噂で聞いたんだけどさ、なんでこんな東京の原宿にいるわけ?」


「そういや、まだあんた魚とか見てんの? 魚好きなら、島のほうが生息地がいっぱいあってお似合いなんじゃない? あんたの大好きな、あの『キモい魚』と一緒にさあ!」



浴びせられるのは、当時の記憶をえぐるような容赦ない嘲笑の言葉だった。


それは、朱音の心の傷を直接爪で抉るような、悪意に満ちた言葉の暴力だった。



「っ……ぁ……息が、できない……」



朱音は耐えきれずその場で膝を折り、両手で頭を抱えて口元を覆い、その場にうずくまってしまった。


過呼吸気味になり、全身が小刻みに激しく震えている。



「げ、またゲロすんのかよ。やめてくれよなこんなお洒落なとこでさ、なぁ、あかねっちよぉ」



ヘラヘラと下品に笑いながら、さらに面白半分で近づいてくる女子高生のひとりに、凪が素早く一歩前に割り込み、朱音の震える肩をしっかりと抱き寄せた。



「……あなたたち、誰よ」



低い声で、氷のように冷たく鋭く睨みつけながら言い放ったのは、一歩前に進み出た菜月だった。



「は? こっちのセリフなんだけど。何、あんたたち誰? 田舎くさい格好してさぁ」



吐き捨てるような女子高生の侮蔑的な言葉に、菜月のなかの怒りの沸点が、カンッと一気に振り切れて跳ね上がった。



「私たちは、朱音ちゃんの友達だよ!」


「は? 友達? あーっしらも昔は友達ってゆうか、あかねっちの面倒見てやったんだよねー。昔なんて、こいつがプレッシャーでゲロ吐いたあとの後始末までやったことあんだぜ? ゲロだぜゲロ。友情がなきゃ普通、出来ないっしょ! あはは!」



下品にケラケラと笑う相手を見て、菜月は怒りで拳をぎゅっと血が出るほど強く握りしめた。



「……ふざけんじゃないよ」



低く、しかし冷たく殺気を帯びた菜月の声に、相手の女子高生たちは「……は?」と眉をひそめてたじろぐ。



「あんたたちは友達なんかじゃない! 朱音ちゃんをそんなふうに傷つけて、嘲笑う、最低な人間だ!」


「なんだと、てめー……!」



相手がメンチを切って凄んできたその瞬間、菜月は一歩も引かずに鋭く睨みつけ、周囲の通行人がハッとするほどの腹の底からの大声で言い放った。



「――うるさい! 消えろ!!」



その島育ちの漁師の娘らしい底知れぬ迫力と、怒りに満ちた圧倒的な気迫に、相手の女子高生たちは「……なっ、なんだこいつ……気味悪っ……関わらないでおこ……」と完全に気圧され、捨て台詞を吐きながらそそくさと逃げるように人混みの中へと消えていった。



---



「朱音ちゃん、大丈夫……!? もうあいつらは行ったからね!」



菜月と凪が慌てて朱音の体に触れ、背中を優しくさすりながら声をかける。


朱音は震える手でメガネを掛け直し、大粒の涙を拭いながら、か細い声でかろうじて首を横に振った。



「……もう、大丈夫……。ありがとう、二人とも……本当に、助けてくれて……」



その後、人混みを離れて近くの落ち着いたファーストフード店に入り、端の席に腰掛けた。


温かい飲み物を口にして少し落ち着いたところで、朱音はポツリポツリと、さっきの女子高生たちにいじめられていた当時のことを、自分の言葉ですべて話してくれた。


周囲からの過度な期待とプレッシャーに押しつぶされそうになり、ストレスで体調を崩して嘔吐してしまったときのこと。


それを「汚い」「気持ち悪い」と周囲から笑われ、居場所を失っていったこと。


そして、東京という街の冷たさに耐えかねて、すべてを捨てて逃げるように島へやってきたこと。


すべてを隠さず話し終えた朱音に、凪はまっすぐで力強い目でしっかりと見つめ返しながら言った。



「もう大丈夫よ、朱音ちゃん。あんな連中、もう二度と朱音ちゃんの人生に関わらせないから。これからは、私たちとずっと一緒の仲間なんだからね」


「そうそう! もしまたあんな奴らが目の前に現れたら、私と島の仲間全員でまとめて追い払ってあげるから安心してよ!」



菜月のその底抜けに明るく力強い笑顔に、朱音は今日一番の、そしてこれまでの人生で一番温かい、心の底からの笑顔を浮かべた。


心の重荷が完全に剥がれ落ちたような、すっきりとした笑顔だった。



---



――数時間後。東京湾を離れる帰りの客船。


甲板に吹き抜ける冷たい夜風を受けながら、3人は遠ざかっていく東京のきらびやかな夜景を並んで眺めていた。


行きにあれほど怯えて恐怖に震えていた朱音の表情は、見違えるほどすっきりと晴れやかだった。


その両隣には菜月と凪がいて、彼女の温かい手をしっかりと握りしめてくれている。



「ただの東京旅行じゃなくて、最高に最高なパーツが手に入った、最高の旅だったね!」



菜月が大きく背伸びをして両手を広げると、凪も朱音もフッと声を上げて笑った。




島に戻ってからの3人の作業スピードは、さらにすさまじい勢いで加速していった。


秋葉原で買い求めてきた特殊アクリルドームポートと最新の微調整スラスターコントローラーを機体に組み込み、朱音の完璧な数学的圧力計算と緻密な回路設計のもと、ガレージでの最終組み立て作業は一気にクライマックスへと突入した。


ガレージの中では、夕暮れのオレンジ色の光が差し込む中、一台の古いノートパソコンの画面を3人で囲みながら頭を悩ませていた。



「ねえ朱音、このPythonのコード、コントローラの左スティックを奥に倒したときに、なぜかスラスタが逆回転しちゃうんだけど……!」



コードを覗き込んだ朱音は、キーボードに手を添えてスラスラと修正を加える。



「あ、それは軸の反転設定がコードから抜けてるからよ。

こうやって……`axis_y * -1`って書き足せば正しく直るわ」


「おぉー、さすが朱音、すごすぎ! じゃあこのボタンを押したらカメラの上下角度が変わるようにするプログラムは……」


「それは私がライブラリのインポート部分を追記するから、凪はゲームコントローラのボタン割り当て番号を確認して!」


キーボードをカチャカチャと叩く朱音の横で、菜月と凪が「おおーっ、スラスターが連動した! 画面にカメラの映像が映ったよ!」と歓声を上げる。


プログラミングのちょっとしたエラーで動かなくなっては笑い合い、3人でワイワイと知恵を出し合ってコードを修正していく時間は、何物にも代えがたい、最高に楽しくて尊いひとときだった。




そして――。


夏休みが本格的に始まる直前の、8月に入る前日。


ついに、苦節3ヶ月の結晶である水中ドローン『めんだこ1号』がその全貌を現し、完全な姿となって完成した。



「……できた……! 本当に、自分たちの手で、動く機械ができた……!」



ガレージの真ん中に鎮座する、塩ビ管と黒い防水ケース、そして愛らしいオレンジ色の透明アクリルドームを纏った機体を見つめながら、3人は言葉を失い、ただただ息を呑んだ。



「やった……! やったああぁぁーーっ!!」



次の瞬間、ガレージの天井が抜け落ちるかのような歓声を上げながら、3人はお互いに抱き合い、飛び跳ねてこれ以上ないほどの喜びを爆発させた。


泥まみれになり、バイトで汗を流し、時には涙を流しながらも苦楽を共にした3ヶ月の結晶が、今、確かな形となって目の前にある。




――そして、物語はいよいよ、神津島の青く果てしない海原へ向けた、運命の「進水式」の舞台へと移っていく。





(つづく)


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