妖狐 エンガ
「さてと、帰ってご飯作るの面倒だし、何か買って行きましょう」
華穂がデパチカの惣菜売り場を見て回る。
「お母さん、あのハンバーグ美味しそう!」
雪乃が数々のショーケースに目移りしながら言った。
2人が楽しそうに買い物を楽しんでいた、次の瞬間。
バン!
デパチカの電気が消え、闇に包まれた。
「なに!?停電!?」
「何があったんだ!?」
「痛い!誰だ足踏んだやつは!」
「誰か何とかしてよ!」
賑わっていたデパチカが混乱に包まれる。
やがて携帯電話の灯りを頼りに、人々が周囲を確認する。
「お母さん!大丈夫!?」
雪乃が手探りで華穂の手に触れる。
「雪乃!あなたこそ大丈夫!?」
雪乃が触れた手を華穂が握り返す。
ーーーなに!?これは、一体!?
闇に包まれ、混乱した地下のフロアに、突然、火の玉がぼうっと浮かびあがる。
「なに?」
「なんだあれは?」
「火の玉?」
すると突然、一つの火の玉が、いくつもの火の玉に分裂し、人々に向かって飛んでいく。
「うわ!」
「ぎゃあ!」
「キャア!」
人の体を火の玉が突き抜けた瞬間、火で燃えることなく、魂を抜かれたように意識を失い、倒れ込み、将棋倒しのようになっていく。
いくつもの火の玉が人々を襲い、一瞬にしてたくさんの人の意識を次々に奪っていく。
「お母さん!」
「雪乃!」
2人は抱き合いながら、その光景に怯えていた。
「!」
「ルイーズ!そこを左じゃ!」
何かを感じたクララが、車の中で突然叫ぶ。
「何か感じましたか!?」
ルイーズが急ハンドルを切る。
「この気配は大物の妖怪じゃ!急がんと、大勢の犠牲者が出るぞ!ヒーローに連絡じゃ!」
「了解!こちら23号、ルイーズだ!今から向かう場所にヒーローを要請する!敵は妖怪と思われるが、正体は不明!」
ルイーズが無線に向かって叫ぶと、車のサイレンを鳴らして、アクセルを踏み込んだ。
「こちら11号、バッカスだ!すぐ向かう!ルイーズ、妖怪相手なら殴っても効かねえかもな、どうすんだ?」
無線の向こうから、トップランカーのストロング・バッカスが通話してくる。
「バッカス!ワシじゃ!クララじゃ!そこは何とかする、とにかく来てくれ!一般人が危ない!」
クララが無線に向かって、声を荒げて言った。
暗闇に包まれたデパチカ、人が次々に倒れて行く中、華穂は雪乃の手を引いて、必死で逃げ回っていた。
「雪乃!周りに気を取られないで!前だけ見て、生きることだけ考えるのよ!」
「お母さ〜ん!なにこれぇ!怖いよぉ!」
雪乃は華穂に手を引かれ、泣きじゃくりながら走っていた。
「はっ!」
華穂が何かに驚いて立ち止まる。
華穂と雪乃の前に、デパチカの天井の高さ程の大きな影が、目の前にいることに気付いた。
周りを飛んでいた火の玉が、大きな影の周りに集まる。
その炎に照らされて、影が正体を現す。
巨大な狐の化け物、そう表現するのが最も適当だった。
そして複数本の長い尻尾の先に、青い炎が灯っている。
「オマエタチ、イイニオイガスル、ウマソウダ・・・」
「・・・神様!」
華穂は恐怖に引きつった表情で呟いた。
怯えて声を失った2人に、狐の化け物が前足を振り下ろす。
「雪乃!逃げ・・・」
火の玉に照らされたショーケースが、血で真っ赤に染まった。




