氷川雪乃
某所の総合体育館には『全国高等学校総合体育大会 剣道競技大会』の看板がかかっている。
「雪乃、お疲れ様」
体育館の女子更衣室で、同じ剣道部の珠希が、着替えている雪乃に声をかける。
「ああ、珠希、お疲れ」
少し沈んだ笑顔で、雪乃は応えた。
「準優勝おめでとう!2位でも十分立派なんだから、もっと顔を上げて、元気出しなよ!」
珠希が雪乃の肩を叩く。
「ああ、ありがとう」
「このあと、アイス食べてく?」
「いや、ごめん、お母さんと買い物の約束してるんだ」
「そっか、雪乃が好きそうなジェラート屋さんを見つけたんだけどなぁ」
「今度、行こうよ」
「そうね、じゃあ先に帰るね」
「ああ、また明日」
「バイバイ!」
その後、雪乃は着替え終わると、荷物を持って体育館を後にした。
「あ、雪乃〜」
「お母さん!」
雪乃が待っていた母親の華穂に駆け寄る。
「雪乃!準優勝おめでとう!」
華穂が満面の笑みで雪乃に言った。
「優勝・・・したかったなぁ」
雪乃の目に涙が溢れる。
「何言ってるの!雪乃は立派よ!」
華穂は雪乃を抱きしめた。
「今日は雪乃の大好きなロールケーキ、買いに行こう!」
「うん!」
雪乃は華穂の胸の中で、泣きながら頷いた。
その微笑ましい母娘の横を、SGJと書かれた車が横切る。
車の中から助手席のクララが、外の様子を眺めている。
「わずかじゃが、妖力を感じるのう」
「こんな場所で妖力反応・・・何かの前兆でしょうか」
運転中のルイーズがクララに話しかける。
「本来、妖怪の世界とこの世界は、いくつかある妖路を通らねばならん」
「妖路以外からの妖力と言うことは・・・」
「妖怪がすでに来ているということですね?」
ルイーズが真剣な表情で言った。
「宴・・・」
「妖怪が殺戮に興じる、宴ですか」
「そうならんことを祈るのう・・・」
2人はパトロールを続けた。
体育館の最寄り駅にあるデパート。
雪乃と華穂はデパートの地下にある、食料品売り場に来ていた。
「雪乃、このロールケーキ買っていこう」
華穂がケーキ屋のショーケースを指差した。
「これ、凄く美味しいんだよね!あ、でも、高いよ」
雪乃は一瞬喜んだが、値札を見て躊躇した。
「いいのよ、今日くらい」
「すみません!これ下さい!」
「お母さん、ありがとう!」
「ん?」
雪乃は妙な気配に気がついた。
ーーーなんだろう、とても嫌な感じがする。




