要人警護任務 後編
雪乃とトゥインクルが見回りに出た後、ヒーロー達が警察官詰所に集まっていた。
「もうすぐ猿渡議員が護衛とともに到着する。皆、準備はいいか?」
ルイーズがヒーロー達に尋ねる。
「ルイーズ、その前にちょっといいか?」
バッカスが手を上げる。
「なんだ?バッカス」
「奴らの動き、妙だとは思わんか?」
「ふむ・・・確かに違和感はあった」
ルイーズは顎に手を当てて考える。
「猿渡議員を本気で狙っているとは思えない」
シルフィが手鏡を見ながら呟いた。
「最初は活動家だった『太陽の導き手』の総長がハー・マジェスティになってからは、犯罪集団へと変わった。猿渡議員を狙う理由がない」
山下が紙コップのコーヒーをすすりながら言った。
「目的はわからんが、奴らの狙いは俺たちだ」
バッカスが真顔で発言する。
「考えたくなかったが・・・その線は濃厚だな」
ルイーズは椅子の背もたれに身を委ねた。
「かと言って、一般人を守るのがヒーローの仕事なり。自分を守ってばかりいられないなり」
翡翠蘭が腕組みしながら言った。
「猿渡議員を狙うと予告すれば、ヒーローが来る。それが狙いか」
ルイーズは目を閉じ、椅子の背もたれに深く身を預けた。
「先日も、バッカスと氷雪華が狙われた」
シルフィが鏡を見ながら前髪を触る。
「翡翠蘭の言うように、猿渡議員が狙いではないとしても、一般人の犠牲者は出せん。守りながら戦うしかない」
バッカスが眉を寄せて話す。
「やれやれ、ヒーローは減る一方なのに・・・」
ルイーズは天井を仰ぐ。
「ん!?」
バッカスが窓の外に目を向ける。
「この気配・・・」
シルフィは手鏡をテーブルの上に置いた。
「仕掛けてきたなりか」
翡翠蘭が首を鳴らす。
「奴らか!?」
ルイーズは立ち上がると、バッカス達を見る。
「行くぞ!」
バッカス達はステージに向かった。
「我々も援護を!」
警察官もバッカス達の後に続く。
「数はどれくらいだ?」
ルイーズがグロック19を抜きながら後に続く。
「トゥインクルがいないから正確にはわからないけど、十人じゃきかない」
シルフィはカチューシャで前髪を上げながら走る。
「あのバカ弟子、なんでこんな時にいないなり!」
翡翠蘭が走りながらボヤく。
「僕はなにをすれば〜」
ヴァリアントが動揺しながら必死で後を追う。
「とにかく誰も死ぬな!」
バッカスがウイスキーを一気に呷る。
バッカスが裏口からステージの袖に姿を現した、その瞬間だった。いくつもの銃声が鳴り響く。
「フン!」
バッカスの鋼のような筋肉とプロテクターが銃弾を弾き返す。
銃声を聞いた一般人達が悲鳴を上げて逃げていく。
「皆さん!危険ですのでこの場から離れて下さい!」
山下がステージの袖に身を隠しながら、拡声器で一般人に注意を促す。
「囲まれてるなり!」
激しい銃撃がステージに向けられている中、翡翠蘭が袖の柱に身を隠す。
「シルフィ!ヴァリアント!頼めるか!?」
バッカスが二人に向かって叫ぶ。
「ヴァリアント、行くわよ!」
シルフィが颯爽とステージへと向かって行く。
「風の妖精さん!お願い!」
いくつもの銃弾がシルフィから逸れていく。
「ちょ!超怖えぇ〜!」
ヴァリアントが波動防壁を展開しながら、シルフィの後に続く。
「ヴァリアント!ステージ正面に集中展開!」
「は、はい!」
シルフィの風が銃弾の軌道を逸らし、ヴァリアントの波動防壁が残りの銃弾を弾き返していく。
「翡翠蘭!俺の後ろに!」
バッカスが翡翠蘭に指示を出す。
「反撃開始なり!」
バッカスの巨体に隠れながら、翡翠蘭が後についていく。
「援護する!警察の皆さんも二人の援護を!」
ルイーズは叫ぶと防壁の後ろで身をかがめ、ハンドガンで援護射撃をする。
「氷雪華!トゥインクル!直ちに会場に戻れ!ヴィランの襲撃を受けている!」
右手で銃を撃ちながら、無線に向かって大声で叫ぶ。
「サブマシンガンで武装したヴィランが8・・・いや、11」
シルフィが円を描くような手つきで、銃弾を受け流しながら言った。
観覧席の最上段、手すりの向こう側に武装したヴィランが発砲しているのが見えた。
「ルイーズ、私が合図したら警官隊と同時に援護射撃を、バッカスは左翼に突入」
シルフィがインカムで指示を出す。
「ヴァリアント、援護射撃が始まったら、私達の前に波動防壁を最大出力で展開して」
続けてシルフィがヴァリアントに言った。
「はい!よろこんで〜」
ヴァリアントが大きく返事をする。
シルフィがヴィラン達の動きを見てタイミングを測る。
ーーー十一人中、七人がリロード!
「今よ!」
シルフィが号令をかける。
「狙いは観覧席の中央から右翼側のヴィランの足止めだ!誤射しないよう、当てる必要は無い!威嚇で十分だ!撃ちまくれー!」
ルイーズがシルフィの号令に合わせて、警官隊に指示を出すと、ステージの袖から一斉に援護射撃が始まる。
「おーし!行くぞ、翡翠蘭!」
バッカスが手のひらに拳を当てる。
「あいなりよ〜!」
翡翠蘭が足首を回す。
バッカスが援護射撃のタイミングに合わせて飛び出し、左翼側のヴィランに向けて突進していく。
そして、翡翠蘭がその後に続く。
数名のヴィランがバッカスの接近に気づき、慌てて標的をバッカスに変える。
「シルフィさん!敵の気がそれた、俺の波動防壁だけでしのげます!」
ヴァリアントが両手を前に出して、防壁を展開させながら言った。
「よし!数を減らす!」
シルフィが弓を射るような仕草をする。
「ウインド・アロー!」
右翼側にシルフィが風の矢を飛ばす。
物陰に隠れたヴィランのわずかにはみ出した左肩を、見えない矢が切り裂く。
「ぐあ!」
左肩から血飛沫を上げながらヴィランが倒れる。
左翼に突撃したバッカスは体に何発もの弾丸を受けながらも、全て弾き返しながら突き進んでいく。
「行け!」
「あいなり!」
バッカスの指示に応えると、翡翠蘭はバッカスの肩を踏み台にして、空高く舞い上がる。
太陽の光を背に受けた翡翠蘭を、ヴィラン達が不意に見上げる。
「秘技!翡翠旋風脚!」
翡翠蘭の蹴りが緑の螺旋模様を描きながら、三人のヴィランをまとめて吹き飛ばす。
「ぐはっ!」
「うわ!」
「キャア!」
三人のヴィランは転倒と同時にサブマシンガンを落とす。
左翼側にいたもう一人のヴィランが、翡翠蘭にサブマシンガンを向ける。
「こ、このぉ!ヒーローめ!」
「うおぉぉぉ!」
バッカスの体当たりがサブマシンガンを構えたヴィランを捉える。
「がぁ!」
ヴィランは20メートル程吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。
「一気に中央と左翼も片付けるぞ!」
バッカスが翡翠蘭に声をかける。
「瞬殺なりよ!」
翡翠蘭が相づちをうつ。
「あっ!」
シルフィが悲鳴を上げる。
「え!?」
ヴァリアントが思わずシルフィに目をやると、シルフィは右腕から血を流し、しゃがみ込んでいた。
「シルフィさん!」
ーーーどこから!?
「シルフィ!」
ルイーズが心配のあまり、袖からステージに駆け寄ろうとする。
「大丈夫!かすっただけ!」
ーーースナイパーか!?
「シルフィ!まさか・・・ヘルター・スケルターの野郎か!?」
バッカスが周囲を見回す。
ステージ正面からおよそ3キロメートル離れたビルの屋上では、背の高いロングコートを着た男が、煙を上げたDXL-10ハボックを構えていた。
「ちっ!もうちょっとで8点ゲットだったのですが・・・」
長髪の前髪から覗く、黄色い瞳の男、ヘルター・スケルターはニヤリと微笑んだ。




