満点
「いいか、日々の体力作りを怠るな!」
訓練所では、美月が訓練生に告げる。
「は、はい!」
訓練生が肩で息をしながら返事をする。
「解散!」
「ありがとうございました!」
美月は訓練所の隅に置いてある鞄から、タオルを取り出して汗を拭った。
「丸山師範」
「ん?」
美月は名前を呼ばれて振り返る。
「雪乃か、どうした?」
「お手合わせを、お願いできませんか?」
雪乃は深々と頭を下げる。
「・・・わかった」
美月は壁に掛けてある木刀を二本持つと、片方を雪乃に渡した。
「さあ、どこからでも打って来い」
美月が木刀を片手で構える。
「はい!」
雪乃も中段構えをする。
「ヤァー!」
雪乃が踏み込んで、美月に打ち込む。
美月が雪乃の木刀を軽く弾く。
雪乃は何度でも体勢を立て直して、美月に向かっていく。
「雪乃!どうした!?集中できてないぞ!全てがバラバラだ!」
美月は片手で、雪乃の木刀を全て捌く。
「はい!・・・ハッ!ヤッ!」
雪乃がバタバタとした足さばきで、美月に食らいつく。
「はっ!」
雪乃は美月に足を払われて宙を舞う。
ダァン!
「つっ!」
「どうした!今のお前は何も出来てないぞ!」
雪乃は仰向けに倒れたまま、腕で顔を覆って動かなくなった。
「すみません、少しだけ・・・」
雪乃の声が震えた。
「・・・ああ」
美月は雪乃に背中を向けて座った。
「私、丸山師範の教えを破るところでした」
「破らなくてよかったな・・・」
「初めて人を斬りました」
「そうか・・・」
「足が、すくみました」
「初めは仕方ないさ」
「悔しいです!ヴィランの幹部に、手も足も出なかった!」
雪乃は涙に声を詰まらせながら言った。
「・・・強くなれ、雪乃」
それからしばらく、美月は泣きじゃくる雪乃の側で、黙って座っていた。
美月は休憩室の自動販売機から、ペットボトルの水を取り出した。
「落ち着いたか?」
美月は目の腫れた雪乃に水を渡した。
「すみません、丸山師範」
雪乃は椅子に腰掛けたまま、水を受け取った。
「奴らの総長と幹部の名前の由来を知っているか?」
美月は自動販売機のコーヒーのボタンを押した。
「いいえ」
雪乃がペットボトルのフタを開けて、水を口に含んだ。
「200年程前の、ロックバンドの曲名だそうだ。今の総長、ハー・マジェスティが好きなんだろうな」
美月はコーヒーを取り出してフタを開ける。
「前は別の総長だったんですか?」
「ああ、ハー・マジェスティが『太陽の導き手』を乗っ取った」
「そうだったんですね・・・」
「以前の『太陽の導き手』はデモや抗議活動をするだけの団体だったが、ハー・マジェスティになってからは、完全にテロ集団だ」
「何者なんですか?」
「ずっと調査してるが、何も出てこない。謎だ・・・」
「惨殺剣という、オリジナルの流派の剣技を使う」
「惨殺剣・・・」
雪乃は目を見開いた。
「鬼紗羅が死ぬ間際に、私に電話して来たんだ『アイツは化け物だ』とな」
「鬼紗羅さんは、ハー・マジェスティに!?」
「ああ・・・」
美月はコーヒーを一気に飲み干した。
「とにかく、ハー・マジェスティもレボリューション5もとんでもなく厄介だ。お前が気に病むことはない。生きて帰って来ただけで満点だ」
「師範・・・」
雪乃は目を伏せ、美月の言葉を噛みしめた。
「暇な時は連絡しろ、鍛えてやる。お前はまだまだ強くなれる!胸を張って自信を持て!」
美月が雪乃の肩を叩く。
「ありがとうございます!私、もっと強くなりたい!」
雪乃は美月の目を真っすぐ見つめた。
ーーー師範の言う通りだ!強くならなきゃ!




