ヒーローの覚悟
蘭子はSGJ治療所の病室のドアを開けた。
「あ、蘭子さん」
雪乃はベッドの上で体を起こす。
「なにやってんのよ〜!」
蘭子が呆れた表情で言った。
「ごめんなさい。寺で修行してたら、ご飯食べるの忘れちゃって」
「食事忘れて倒れるって、バカすぎるよ」
蘭子は丸椅子に腰掛ける。
「大したことないので、本当に」
「休みに何しようが勝手だけど、ちゃんと考えなよ。美月さんにバレたら、めちゃくちゃ怒られるよ」
蘭子はカバンに入った着替えを手渡す。
「ありがとうございます!もうこの通り、元気なので」
「で?成果はあったの?」
「私、滝の水を斬ったんです!」
「そういうのいいから」
蘭子はため息をつきながら、うんざりした表情をする。
「あの、蘭子さん・・・」
「雪乃はヒーローなんだよ。そのアンタが、こんな事で心配かけてどうすんのよ!」
「はい・・・以後、気をつけます」
雪乃はうつむきながら言った。
「まあ、いいわ・・・あと、これ、高橋からよ」
蘭子が図面ケースを雪乃に渡した。
「これは?」
雪乃が図面ケースを開けると、中には鞘に収められた一本の刀が入っていた。
「特別製の模造刀だよ。ヒーローだから襲われる事もあるから、持ち歩くようにって」
「凄い!でも、これ、普段から持ち歩いて大丈夫なんですか?」
「ちゃんとヒーロー証も持ち歩くのよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「よし、じゃあ、とっとと退院するよ。明日は任務あるからね」
「はい!」
ーーー修行の成果を、試せる!
次の日の早朝、数名のヒーローが会議室に集められていた。
「今日の任務は、猿渡議員の警護任務だ」
ルイーズが厳粛に説明する。
「例の、予告配信か」
バッカスが腕組みして、壁にもたれかかって言った。
「レボリューション5の『ラブリー・リタ』なりね」
翡翠蘭が補足説明する。
「ああ、ヤバい相手だ」
ルイーズが深刻な表情をする。
「個人的には、一番嫌な相手です」
シルフィ・リリィがネイルを気にしながら言った。
「これだけの面子って事は、並の任務では無いってことなりね」
翡翠蘭が眉間にシワを寄せている。
「氷雪華さん、トゥインクル・チャームさん、この任務、生きて帰れますかね」
男性のヒーロー、ヴァリアント・エコーが、自分と同じく経験の浅い二人に話しかける。
「私、夜に用事あったのに〜」
ティーンモデルのような奇抜な衣装を着たトゥインクル・チャームが、面倒臭そうに言った。
「まあまあ、今は最後まで聞こうよ」
雪乃が二人をなだめる。
「知らない者もいるようなので、ラブリー・リタの配信を見ておこう」
ルイーズがモニターに配信を映し出す。
モニターには緑色の髪の毛に、白いベレー帽をかぶった童顔の女性が映し出される。
黄色いジャケットにあしらわれた、ドクロのアクセサリーに右手で触れながら語り出す。
「今度こそ、あのクソ議員を殺してやる!」
「いいか!?マヌケなヒーローども!このあたしを止められるものなら、止めてみろ!全員返り討ちにしてやる!キャッ!キャッ!」
そこで映像は止まった。
「ラブリー・リタの現在判明しているスペックだが、エスパー系のUP能力者に加えて、鉄扇術の使い手だ」
「鉄扇術・・・」
雪乃が小さく呟く。
「あ、あのぅ〜、エスパー系とは具体的には?」
ヴァリアント・エコーが恐る恐る手を上げて質問する。
「お前の使う波動とも似ているが、リタのは恐らくサイコキネシスだろう。しかも強力な・・・」
ルイーズが答える。
「風もあまり通じないから嫌い」
シルフィ・リリィが前髪を触りながら言う。
「猿渡議員は、そんなヤバい奴に狙われてて、なんで街頭演説を中止にしないなりか?」
翡翠蘭がルイーズに質問する。
「ヴィランに屈しない姿勢を示したいそうだ。演説後の有権者との対話も中止したくないらしい」
「守り抜くしかねぇな」
バッカスが拳を手のひらに打ち付ける。
「そうね、マヌケと言われて、引き下がれないわ」
シルフィが指を鳴らす。
「ブチのめしてやるなり!」
翡翠蘭が足首を回す。
「ええ!猿渡議員を守り抜きましょう!」
雪乃が胸元で拳を握りしめる。
ーーーラブリー・リタ!怖くない!




