レボリューション5
「ご苦労!」
バッカスが、建物の陰で見張りを続ける、変装した警官に声をかける。
「奴らに動きはありません」
警官は周囲に気づかれないよう、顔を伏せたまま答えた。
「わかった。今から突入する」
「ご武運を・・・」
バッカスは目的地の二階建てアパートへと、堂々と歩いていく。
「雪乃!ついて来い!」
そう言ってバッカスは、ウイスキーの瓶を傾け、一気に呷った。
「氷雪華です!」
雪乃は木洩陽の柄に手を添えて、バッカスの後ろについていく。
バッカスの体が鬼のように赤くなり、筋肉が膨れ上がる。
「行くぞ!悪党ども!」
そう言うと、バッカスは人間離れしたスピードで、アパートの一階の部屋まで近づいた。
「ちょ・・・!バッカスさん!」
ーーーなんてスピード!
雪乃が全力で走りながら、バッカスの背中を追う。
「うるぁ!」
バッカスはアパートの部屋を蹴り破ると、ヴィラン達が身構える前にラリアットで吹き飛ばしていく。
「うわぁ!ストロング・バッカスだぁ!」
ヴィラン達は悲痛な叫び声を上げる。
中にいた六人のうち、二人は先程の一撃で気を失う。
残った四人が懐からサバイバルナイフを取り出す。
「どうしました?」
ヴィランが落とした携帯電話から、声が聞こえる。
「ん?誰と話してやがった?」
バッカスがヴィラン達に訊ねる。
その時、雪乃が肩で息をしながら、バッカスの斜め後ろに来た。
「ひょ、氷雪華、見参!」
「はん!教えるわけねぇだろ!」
ヴィランが一斉にバッカスに襲いかかる。
「バッカスさん!」
雪乃が援護の為、前へ出ようとすると、バッカスが手を出して止める。
「出るな!」
バッカスがそう言った次の瞬間、ヴィランのナイフがバッカスの腹部に刺さる。
「そんな・・・」
雪乃が慌ててバッカスに近寄ろうとすると、ヴィラン達の表情が青ざめていることに気がついた。
「嘘だろ・・・」
ナイフは衣装を突き破ったが、バッカスの肉体には傷一つついていなかった。
「お前らなんかとは、できが違うんだよ!」
バッカスは丸太のような腕で、三人のヴィランを薙ぎ払う。
「ぐわぁ!」
残りの一人がバッカスの横をすり抜けて、逃走を試みるが、そこには雪乃が待ち構えていた。
「そこをどけぇ!」
ヴィランがナイフで雪乃に襲いかかる。
「スゥーー」
「我が名は氷雪華、悪を断ち切る氷の刃!」
雪乃は木洩陽の柄を握り、腰を落としてヴィランを真っすぐ見据えた。
「抜刀!」
木洩陽が弧を描くと、ヴィランのナイフと、数本の指が血飛沫を上げて宙を舞う。
「ぐぁぁ!」
ヴィランが切られた手を押さえながらのたうち回る。
「はっ!」
雪乃は木洩陽についた血を見て我に返った。
ーーー私、人を切ったの?
「雪乃!」
バッカスが雪乃の肩を叩く。
「あ、はい!」
「よくやった!」
バッカスはそう言って振り返り、先程の携帯電話を拾い上げた。
「お前誰だ?」
バッカスが電話の相手に訊ねる。
「・・・人に名前を訊ねる時は、まず自分から名乗ると、教わりませんでしたか?」
電話の声の男がバッカスに言い返す。
「俺はストロング・バッカスだ」
「おお!これはこれはトップランカー自らのご登場ですか。私は『太陽の導き手』の幹部5人衆『レボリューション5』の一人。『ヘルター・スケルター』と申します。以後、お見知りおきを・・・」
「コソコソしてねぇで俺と勝負しろ!」
「本日はご挨拶だけさせていただきますよ」
「なに!?」
バッカスは何か嫌な予感がした。
「雪乃!外へ出ろ!急げ!」
「はい!氷雪華でーす!」
ーーーなに!?なにを話してたの!?
雪乃は大急ぎで部屋を飛び出した。
バッカスも雪乃の後に続こうとした。
その時、窓の向こうから何かが飛来してくるのが見えた。
「マジかよ!」
ーーーロケット弾だと!
バッカスは無我夢中で入口を目指して走る。
「うお!」
バッカスが入口から飛び出した瞬間、ロケット弾が室内に着弾し、大爆発を起こした。
「うあ!」
状況を掴めていない雪乃が、突然の爆発に驚き、頭を抱えて伏せる。
「雪乃!一般人の救助と安全確保だ!」
立ち上がったバッカスが、雪乃にすぐさま指示を出す。
「は、はい!」
雪乃は一階部分が燃え盛るアパートを見て、一瞬足がすくむ。
ーーーダメだ!私はヒーローなんだ!
雪乃は自分を奮い立たせる。
「皆さん!私はSGJです!一階から火災が発生しました!皆さん、落ち着いて避難して下さい!」
何が起きたのかと、部屋から出て様子を伺う住人に声をかける。
「え!?火事!」
「キャー!」
住人達がパニックになってうろたえる。
「雪乃!俺は二階の住人の避難誘導をする!お前は一階を頼む!」
バッカスがそう言って、二階の廊下まで一足飛びで駆け上がる。
「助けて下さい!爆発で扉が開かなくて!中に子供が!」
一階に住んでいる女性が、雪乃にすがりついてくる。
「わかりました!」
雪乃は女性に案内され、爆発で扉が歪んだ部屋へと向かう。
「SGJです!返事をして!」
火元となった隣の部屋から火が回ってきている中、雪乃が閉じ込められた子供を探す。
ドンドン!
「たすけて!」
扉の向こうから声がする。
「今、助けるわ!下がってて!」
「うん!」
「スゥーー」
ーーー落ち着け!わたし!
雪乃はドアノブを握りしめて、肩をドアに当てる。
「ドアが歪んで、下の枠に引っかかっている・・・」
ーーー真っすぐじゃない、少し斜め上に力を入れる。1・・2・・3・・今だ!
雪乃が力を入れて押すと、ドアが開いた。
正面にいた小学生くらいの男の子を抱きかかえると、すぐさま部屋を離れる。
それとほぼ同時に、部屋が炎に包まれた。
煙に巻かれながらも、雪乃は子供を抱えながら外に出た。
「裕貴!」
男の子の母親が駆け寄る。
「お母さん!」
裕貴が雪乃に抱えられながら手を伸ばす。
雪乃が裕貴を下ろすと、母親が裕貴を抱きしめる。
雪乃は抱き合う親子を見つめて微笑む。
「よかった・・・」
雪乃は小さく呟いた。
「お姉ちゃんありがとう!」
裕貴が振り返って、雪乃に言った。
「・・・ううん、無事でよかった」
雪乃は裕貴の頭を撫でた。
「本当に、本当にありがとうございました!」
母親が涙を流しながら雪乃に頭を下げる。
「いいえ、当然のことをしたまでです。ほら、救急隊が来ましたよ。病院で診てもらって下さいね」
「お姉ちゃん、こおり・・・ゆき・・・?」
裕貴が道着の刺繍を見て言った。
「『ひょうせつか』って読むんだよ」
「応援するね!」
「ありがとう!」
「雪乃!無事か!?」
バッカスが雪乃に駆け寄る。
「はい!大丈夫です。あと氷雪華です」
「住人に被害は無さそうだ。一安心だな」
「そうですね・・・その携帯、持ってきたんですね」
「ああ、相手が『太陽の導き手』の幹部だったからな」
「!」
雪乃は目を大きく見開いて驚く。
ブーブー、ブーブー
その携帯に「非通知」の着信が入る。
「まさか!」
雪乃がバッカスの顔を見る。
「なんだ?」
バッカスが電話に出て、スピーカーに切り替える。
「お見事でしたね。まあ、この程度で四苦八苦してたら、トップランカーの名折れでしょうが」
ヘルター・スケルターが楽しそうに言った。
「姿を見せやがれ!チキン野郎!」
バッカスが怒鳴り声を上げる。
「ハハハ!怖い怖い、今日は挨拶したかっただけですので・・・お隣の、氷雪華さん、ですかね?はじめまして、『太陽の導き手』の『ヘルター・スケルター』と申します。以後、お見知りおきを・・・」
「こんな、こんなことをして!絶対に許さない!」
雪乃が凄まじい顔つきで言った。
「アッハハハハ!・・・ザコに私は倒せませんよ〜」
「なに!」
「雪乃!」
バッカスが雪乃の胸に赤い光が当たっているのに気づくと、雪乃を突き飛ばした。
チュン!
雪乃が立っていた場所の地面に弾丸が着弾し、土煙が上がる。
「え!?」
雪乃は倒れたまま、周囲を見回す。
ーーーどこから撃ってきたの!?
「てめぇ!」
バッカスが鬼の形相をする。
「よく気づきましたね。今日は楽しかったですよ。では失礼〜」
ヘルター・スケルターがそう言うと、通話が切れた。
「・・・」
雪乃は呆然としていた。
ーーーバッカスさんがいなければ、私・・・




