付き人
雪乃は朝早くに、SGJの休憩室で一人座っていた。
紙コップに入ったミルクティーを見つめながら、ぽつりと呟いていた。
「今日からヒーローなんだ、頑張らなきゃ」
紙コップを持つ手が小刻みに震える。
ーーー狐の妖怪もまだ来ない。でも、今の私なら少しは・・・
「魂の力も、まだ完成してないし」
雪乃はミルクティーをすすった。
「ここにおったか」
クララが休憩室にやって来る。
「あ!クララ師匠!お疲れ様です」
「おぬしにこれを持ってきた」
クララは雪乃に刀を渡した。
「なんですか?この刀は・・・凄く、何というか・・・」
雪乃はその刀を手にした瞬間、とてつもない威圧感を覚えた。
「妖刀、『氷牙』じゃ」
「妖刀・・・どおりで」
雪乃はじっくりと氷牙を見定めた。
「そいつを使うと、慣れないうちは三日間寝込む者もいる」
「怖いですね」
「まずは、その『木洩陽』で真剣の扱いに慣れてから、少しずつ使ってみるとよいじゃろう」
「クララ様、雪乃」
今度はルイーズが休憩室に入ってきた。
「雪乃、詰所にいるヒーローに、挨拶しておくといい」
ルイーズが雪乃の肩に手を置く。
「それと、お前から注文を受けていた、ヒーローコスチュームの剣道着だ」
「はい!ありがとうございます!」
雪乃は立ち上がり、コスチュームの入った紙袋を受け取る。
「お前の指導役が決まった。ストロング・バッカスだ」
「そんな凄い人が・・・」
雪乃は目を大きく見開いた。
「彼の付き人として、しばらく現場について学ぶといい」
「はい!頑張ります!」
雪乃は二本の刀を左の腰に差した。
「クララ師匠、ありがとうございました。氷牙、大切にしますね」
「人殺しの道具を、『大切にする』か・・・おぬしらしいのぅ」
雪乃はヒーローの詰所へと、足早に向かった。
雪乃が詰所に入ると、居合わせたヒーローたちの視線が集まった。
「おっ!来たなりね」
翡翠蘭が小さく手を振る。
「同じヒーローとして、頑張りましょう」
スカーレット・フラメンコが椅子から立ち上がる。
「俺の出世の邪魔しないでくれよ〜」
アキレス・アントがふんぞり返って座りながら言った。
「偶然にも、あの時のメンバーが集まったな。ここまでよく頑張ったな」
ストロング・バッカスが雪乃の肩を叩く。
「はい!よろしくお願いいたします!」
雪乃は深々と頭を下げた。
「着替えはこっちなりよ〜」
翡翠蘭が更衣室へ案内する。
雪乃は更衣室に案内されると、特殊強化プラスチックを編み込んだ剣道着に着替えた。
「うわぁ~!この衣装、カッコイイ!」
雪乃は二振りの刀を腰に差し、姿見の前に立った。
上は白の道着で、左胸のあたりに『氷雪華』と縦書きで刺繍されている。
下は青の袴で、動きやすさと通気性が抜群である。
上下共に、部分的にSGJが開発した強化プラスチックが入っていて、強化された部分は、使い方次第で銃弾さえ防ぐことができる。
最後に、雪乃は誕生日にもらった赤いリボンで、長い髪を結った。
「私は、氷雪華!」
そう言って、雪乃は詰所へと戻った。
「おお〜!格好いいなり〜」
翡翠蘭が目を輝かせた。
「なかなか様になってるじゃねぇか!」
ストロング・バッカスが腕組みしながら言った。
「皆さん!」
雪乃は両手で袴をギュッと握ると、ヒーロー達を見た。
「どうしたなりか?」
「改めて、お礼を言わせて下さい!皆さんのおかげで、こうして、ヒーローになることができました!」
雪乃の目から、とめどなく涙があふれた。
「命を救っていただき、本当に、本当にありがとうございました!・・・うわぁぁぁぁん!」
雪乃は泣き崩れた。
「おいおい!」
アキレスが呆気に取られる。
「泣かないで下さい。私も、あなたを助けることができて、本当によかった」
スカーレットが氷雪華に歩み寄ってハンカチを渡す。
「そうなりよ、当然のことをしたまでなり」
翡翠蘭が氷雪華の背中を軽く叩く。
「雪乃!これから仕事だぞ、泣いてんじゃねぇ!」
バッカスが氷雪華に発破をかける。
「バッカスさぁ~ん、この姿の時は、氷雪華っていうヒーロー名があるんですぅ〜。本名で呼ばないで下さいよぉ~!」
雪乃はハンカチで涙を拭いながら訴えた。
「ああ、そうだったな。行くぞ、雪乃!」
「だからぁ~!」
ーーー雪乃、いや氷雪華。頑張るなりよ・・・
翡翠蘭は心のなかで呟いた。




