氷雪華
「乾杯〜!」
居酒屋たつみには、作戦の打ち上げという名目で、ルイーズ、蘭子、高橋、そして雪乃が集まっていた。
「仕事の後のビールは最高なり、いや最高ね〜」
蘭子がお通しをあてに、ビールを一気に呷る。
「雪乃!大活躍だったみたいじゃない」
ルイーズがウイスキーを飲みながら言った。
「活躍なんかしてませんよ!」
雪乃は軽くテーブルを叩く。
「いや、本当だぞ。初陣で、しかも咄嗟に、銃を抜こうとする動きに気づくなんて、そうそう出来るもんじゃない」
高橋が注文用のタッチパネルを操作しながら言った。
「滅多に人を褒めない、美月さんのお気に入りだからね、雪乃は・・・あ、高橋、唐揚げもね」
ルイーズが高橋に注文を促す。
「そうそう、今回のことも話したら、美月さん褒めてたよ〜」
蘭子が雪乃の背中を叩く。
「そ、それは、うれしいなぁ〜」
雪乃はうれしそうに笑い、少しうつむいた。
「こんな時になんだけどさぁ〜」
ルイーズが水を差すような口調で切り出す。
「今月も、ヒーローが三人死んだ・・・」
「・・・」
一瞬、沈黙が場を支配する。
「ごめんね、こんな話。だけど、本当、誰も死んでほしくないのよ!」
ルイーズが目に涙を浮かべながら言った。
「そうだな。俺もそう思うよ」
高橋はビールを一気に飲み干す。
「保証はできないけど、そのつもりだよね?雪乃」
蘭子が雪乃を見つめる。
「はい!もちろんです!」
雪乃もオレンジジュースを飲み干す。
「保証できないじゃない!それでも保証しなさい!」
ルイーズが赤い顔で、蘭子と雪乃を指差す。
「まあまあ、ルイーズ、楽しく飲もう!」
高橋がドリンクの追加注文をする。
「それとね雪乃、アンタのヒーロー登録が出来たから、今日から正式にヒーローよ!」
ルイーズが親指を立てる。
「ありがとうございます!」
「名前は氷雪花で決まり?」
蘭子が訊ねる。
「はい!ただ、『花』の字を難しい方の『華』にしようと思います」
「へぇ~、その方が格好いいから?」
ルイーズがウイスキーを呷る。
「死んだ母の名前が、華穂だったので・・・」
雪乃は悲しげに微笑んだ。
「なるほど、氷雪華か・・・いい名前だな」
高橋が二杯目のビールを口にした。
「よし!SGJの新しい仲間、氷雪華の誕生よ!乾杯〜!」
ルイーズがウイスキーグラスを掲げる。
「んーー!?」
蘭子が壁に貼られたメニューを見つめている。
「なんだ?蘭子」
高橋もメニューに目をやる。
「メロンパンってなに!?」
蘭子が眼鏡を指で上下させながら言った。
「あ、メロンパン!美味しかったですよ!丸山師範と食べたんです!」
雪乃が嬉しそうに言った。
「ウイスキーにメロンパンは無いわ〜」
ルイーズがウイスキーを一気に飲み干す。
「プハァ〜、ヒック!」
「ルイーズ、ペース早いぞ!」
高橋がルイーズに注意する。
「おお!美月さんお墨付きなら、私も食べよう!」
蘭子が楽しそうに笑った。
「あ、あの!」
雪乃が意を決した表情で言った。
「なに?」
全員が雪乃に注目した。
「口上・・・言うのって、どうですかね?」
雪乃は少し赤面した。
「いいんじゃない?言ってる人も多いし」
ルイーズは気にする様子もなく言った。
「我も『推参なり!』とか言ってるなりよ」
蘭子が唐揚げにかぶりつく。
「ちなみに、どんな口上なんだ?」
高橋が皆の空いたグラスを集める。
「え〜っと、その・・・」
雪乃はもじもじと照れていた。
「言いなさいよ!ほら!」
ルイーズが雪乃を煽る。
「では、いきます・・・」
雪乃は大きく息を吸い込んだ。
「我が名は氷雪華!悪を断ち切る氷の刃!いざ、参る!」
思いがけない雪乃の大声に、店内が静まり返る。
「ごめんなさい・・・」
ーーーめっちゃ恥ずかしい!




