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正義の心

それは、雪乃にとって偶然の出来事だった。


SGJから新居への帰り道、わずか15分の道のりで事件は起こった。


「今日はなにを食べようかなぁ」

雪乃は帰り道を歩きながら、飲食店に目移りしている。


50メートル程先にパトカーが停まっていた。


交通違反の切符を切っている様子だった。


雪乃の横をトラックが猛スピードで走り抜けると、パトカーめがけて突っ込んだ。


警官二人と、その周囲にいた人々が慌てて飛び退く。


「な、なに!?事故!?」

雪乃がその様子を見て驚く。


ーーートラックのあのマーク、見たことある!


「あれは!『太陽の導き手』!」


トラックから降りてきた軍服姿の男四人組が、鉄パイプのような物で警官に殴りかかる。


「キャーー!」

女性が悲鳴を上げる。


男性が電話をかけながら走り去る。


母親が子供の手を引いて逃げる。


動かなくなった警官から離れた四人組が、今度は一般人に詰め寄る。

「この国を堕落させる者達に、天誅!」

そう言って鉄パイプを振り回す。


「いけない!」

雪乃がその惨状を見て走り出す。

ーーーなにか武器になるような物は!


目の前にある床屋の店先に、立て掛けられたシャッター棒が目に入った。


「これ!お借りします!壊れたら弁償しますので!」

何事かと店の外に顔を出した店主に、声をかける。


「ちょ、ちょっとお嬢さん!」

中年の店主が声をかけるのも聞かず、雪乃はシャッター棒を持って走り出す。


四人組の一人が、転倒した幼児を庇う母親を見下ろす。

「この国を腑抜けにした元凶に天誅!」

鉄パイプを振り上げる。


「この娘だけは!助けて!」

母親が泣き叫ぶ。


「やめろ!」

雪乃がそう言って、シャッター棒を振り回して牽制する。


「なに!?」

軍服の男は驚いて飛び退く。


「わ、私が相手だ!」

雪乃は緊張した表情で言った。


「お嬢ちゃん、何者だ?」

男が鉄パイプを構える。


「弱者に暴力を振るって、何が天誅だ!」

雪乃が強く言い放つ。


「ヒーロー気取りか?痛い目見るぜ!」

男は鉄パイプを振り下ろす。


「くっ!」

雪乃がシャッター棒で横に弾く。


「ほう!やるなぁ〜、お嬢ちゃん!」

男は鉄パイプで左右に何度も薙ぎ払う。


「私は・・・私は!ヒーローになるんだ!」

雪乃はシャッター棒で鉄パイプを受け止めると、そのまま男の足元を払った。


「うわっ!」

男は軸足を払われて転倒する。


「スゥー・・・」

雪乃が呼吸を整えて、脇構えをする。

「抜刀!」

立ち上がろうとする男のみぞおちに、シャッター棒がめり込む。


「ぐあっ!」

男がうめき声を上げて倒れ込む。


「ほう、元警官をあっさりと・・・」

残りの三人が雪乃に近寄ると、取り囲むように広がる。


「どうして!?無抵抗な一般人に、こんな酷いことを!」

雪乃が声を大にして言う。


「この腐った世の中でぬくぬくと生きる奴らは、全員罪深き堕落者だ!」

正面の男が鉄パイプを振り下ろす。


雪乃が後ろに飛んで避けると、更に左右から鉄パイプで追い打ちが来る。


「くっ!」

左をシャッター棒で弾くが、右が雪乃の二の腕をかすめる。


「よし!お前ら、次は一斉に行くぞ!」

正面の男が言う。


「こんなところで、立ち止まれない!」

雪乃が毅然とした表情になる。


『雪乃!生きて・・・』


『雪乃は氷の刀・・・』


『補強出来れば・・・』


『立派なヒーローになって・・・』


『雪乃なら大丈夫!』


ーーー私は!皆に支えられて強くなった氷の剣!


「悪を切る氷の剣!」

雪乃が肩越し構えで叫ぶと、三人の男が一瞬戸惑いを見せる。


「なんだ!?この冷気は!」


「ちっ!ビビってんじゃねえ!」


「行くぞ!」


三人が一斉に雪乃へ襲いかかり、鉄パイプを振るう。


「一閃!」

シャッター棒が光の弧を描くように真一文字に走り、三人の鉄パイプが折れ曲がる。

その威力で三人の男が同時に吹き飛ばされる。


「ぐああー!」


「な、なんだこいつ!シャッター棒で俺たちを!」

三人はよろめきながら立ち上がると、そのまま逃げ出した。


雪乃は肩で息をしながら、その場に立ちすくんでいた。


「プハァ〜」

しばらくすると緊張の糸が切れ、片膝をついて崩れる。


「お嬢ちゃん」

床屋の店主が雪乃に声をかける。


「あ、おじさん・・・」

雪乃が弱々しい笑顔で店主を見る。


「ありがとうね」

店主が満面の笑みを浮かべる。


「いえ・・・それより、この棒、ごめんなさい、弁償しますね」

雪乃は先の折れ曲がったシャッター棒を店主に渡す。


「いいんだよ」


「お姉ちゃん、ありがとう!」

襲われていた少女が雪乃に駆け寄ってくる。


「どういたしまして・・・大丈夫?ケガはない?」


「うん!」

少女が笑顔で返す。


「ありがとうございました。なんてお礼を言っていいのやら」

母親が雪乃に頭を下げる。


「いえ、皆さん無事でなによりです!」

雪乃はこぼれんばかりの笑顔を浮かべた。


しばらくすると、大勢の警官が現場に駆けつけた。


最初に襲われた警官は重症を負ったが、一命は取り留めた。


雪乃はその日、警察とSGJ両方に遅くまで事情聴取を受けた。


「あ~あ、今日は牛丼だなぁ~」

雪乃は結局、牛丼屋で大盛りとみそ汁を食べて帰った。


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