本気の勝負
「うりゃあ!」
雪乃が翡翠蘭に、バックブローからの水面蹴りの連続技を仕掛ける。
「おっと!」
翡翠蘭が水面蹴りを避けきれず、バランスを崩す。
「そこ!」
雪乃が隙をついて翡翠蘭の腕を取り、背負い投げの体勢に入る。
「甘い!」
翡翠蘭は背負い投げを踏ん張って耐えると、雪乃の腰を掴んで裏投げを仕掛ける。
「ぐぅぅぅ!」
雪乃は投げられないように踏ん張るが、抵抗も虚しく、肩から地面に叩きつけられた。
「あぐっ!」
「いやぁ~、やるようになったなりね!」
翡翠蘭は立ち上がると、雪乃に手を差し伸べた。
「うむ!そろそろ、もっと真剣な戦いに切り替えるかのぅ」
クララが真剣な面持ちでそう言うと、訓練所の隅から何かを持ってくる。
「雪乃はこれを使え」
クララが雪乃の足元に木刀を放り投げる。
「翡翠蘭よ、蹴りを使ってよいぞ」
「え!?」
「いよいよなりか!」
二人の間に緊張が走る。
翡翠蘭が足を前後に開いて構える。
雪乃は右足を一歩引き、体を右斜めに向けて、脇構えをとる。
「その構えは、雪乃の得意な構えなりか?」
翡翠蘭がじりじりと間合いを詰めてくる。
「はい、剣道ではずっとこれです」
「それで準優勝・・・あり得ないなり!」
翡翠蘭は一気に踏み込んで、横蹴りからの連続蹴りを放つ。
雪乃は後方へ飛び退り、間合いをとる。
ーーー速い!隙が無い!でもわかる、蘭子さんはまだまだ本気じゃない!なら、試してみる!
翡翠蘭が連続蹴りからの後ろ回し蹴りを放った瞬間、雪乃が翡翠蘭の脚にめがけて木刀を振り上げる。
「ヤァー!」
ガン!
「!」
雪乃は木刀から伝わる異様な感触に驚いた。
ーーー人間の足の感覚じゃない!岩!?
「我の二つ名を知らないなりな」
木刀を受けても微動だにしない脚をひねり、そのまま横蹴りへと変化させる。
「うそ!?」
翡翠蘭の横蹴りを肩に受け、雪乃は吹き飛ばされる。
「うあ!」
「鉱脚の翡翠蘭なりよ〜」
翡翠蘭は横蹴りを放った姿勢を保ったまま、笑顔で言った。
「うう!肩が外れるかと思ったわ・・・」
雪乃が肩を押さえながら立ち上がる。
「雪乃、集中じゃ、精神修行を思い出すのじゃ」
クララが雪乃の目を真っすぐ見据える。
「はい!」
雪乃が上段の構えをとる。
「おっ!構えを変えた?」
翡翠蘭がゆっくりと間合いをとる。
「来い!雪乃!」
「蘭子さん!」
雪乃が一気に踏み込む。
翡翠蘭が向かって来る雪乃を、後ろ蹴りで迎え撃つ。
「はぁっ!」
雪乃が全力で木刀を振り下ろし、翡翠蘭の蹴りを逸らす。
「やるなり!だけど!」
ーーーこのまま、回転を利用して回し蹴りを・・・
「ふんっ!」
雪乃が気迫のこもった声を出すと、手首を返して木刀を振り上げる。
「燕返し!」
「やばっ!」
翡翠蘭がとっさに、両手でクロスガードする。
振り上げた木刀が、翡翠蘭のガードを跳ね上げる。
バランスを崩した翡翠蘭の隙を狙い、雪乃が突きを見舞う。
「そこまでじゃ!」
クララが一喝する。
雪乃の突きが翡翠蘭の喉元で止まる。
「・・・」
「・・・」
二人は息を呑む。
「ぷはぁ!」
雪乃は木刀を下ろすと、深呼吸した。
「いやぁ~、参ったわ〜」
翡翠蘭が尻もちをつく。
「雪乃よ、見事じゃった。全力ではなかったにしても、翡翠蘭から一本取るとはのぅ」
クララが雪乃に労いの言葉をかける。
「雪乃、強くなったなりね」
「今後は、SGJで本格的な剣術訓練を受けるとよいじゃろう」
「はい!ありがとうございます!」
雪乃は二人に、深々と頭を下げた。
ーーー柄本先輩、ついにヒーローとしての一歩を踏み出せました。




