祝い
午後の練習を終え、シャワーを浴びた雪乃は、ダイニングにやってきた。
「あれ?真っ暗・・・誰もいないの?」
雪乃が部屋の照明のスイッチを押した。
部屋の明かりが点くと、クララとルイーズに高橋、そして蘭子がクラッカーを構えていた。
パン!パン!パパン!
「雪乃!お誕生日おめでとう!」
クラッカーの弾ける音の後に、皆が口を揃えて言った。
「え!?」
雪乃は予期せぬ出来事に、呆気に取られた。
「なにボーッとしてんのよ、あなた、自分の誕生日忘れたの?」
ルイーズが笑顔で言った。
「これは皆からのプレゼントだ、気に入るといいのだが」
高橋がお洒落なラッピングペーパーに包まれた箱を手渡す。
「あ、ありがとうございます!でも、なぜ、こんなに・・・」
雪乃はプレゼントを受け取ると、感無量になる。
「開けてみるとよいぞ」
クララがプレゼントを指差しながら言った。
「はい!」
涙をこらえながら、雪乃は丁寧にラッピングをはがし、箱を開けた。
「うわぁ~!服!それにリボン!」
お洒落な上下の洋服と、赤いヘアリボンが入っていた。
「雪乃に似合うと思って選んだけど、気に入らなかったらごめんね〜」
蘭子が少し心配そうな表情で言った。
「それと、雪乃は髪が長いから、結ぶと動きやすいんじゃないかなぁって」
「よし、飯にするかのぅ、高橋!」
クララがテーブルにつくと、食事を催促した。
「はい!」
高橋が料理をテーブルに並べる。
「うわぁ~!ハンバーグ!」
雪乃は目を輝かせて喜ぶ。
ーーー美味しそう!でも、これも高級なやつなんじゃ・・・
「さあ、食べてくれ」
高橋が皆に勧める。
「美味しそうね〜!あ、乾杯しましょうよ!」
ルイーズがグラスにウイスキーを注ぐ。
「そうね、私はビール!雪乃はジュースだよね」
蘭子が冷蔵庫から飲み物を取り出す。
「よし!では、雪乃の18歳の誕生日を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
高橋の音頭に続き、皆が唱和する。
「雪乃、ケーキもあるからな、胃袋を空けておけよ」
高橋が雪乃に笑顔で言った。
「スイーツは別腹だよね〜」
蘭子が笑いながら雪乃の顔を覗き込む。
「ん?」
雪乃がボロボロと涙を流している。
「雪乃、どうした?」
ルイーズがウイスキーを一口飲んで、雪乃に訊ねた。
「皆さん・・・ありがとうございます。本当に、うれしいです・・・こんなに、してもらえるなんて・・・」
雪乃が涙を両手で拭う。
「気にせんでよい、おぬしが弟子なら、家族と同じじゃ」
クララがハンバーグを咀嚼しながら言った。
「ルイーズは飲みたくて参加してるだけだしね」
蘭子がビールを一気に呷る。
「失礼ね!仕事から逃げてるのよ!」
ルイーズが笑顔で言った。
「雪乃、今日のハンバーグは、A5ランク米沢牛のサーロインをミンチにして作ったんだ、熱いうちに食べろ」
高橋が満面の笑みで言った。
「はい!絶対美味しいヤツじゃないですかぁ~」
雪乃もつられて笑顔になる。
「高橋」
ルイーズがウイスキーの氷を鳴らす。
「なんだ?」
「経費精算書を見たんだけど、ここの生活費について後で話があるんだけど・・・」
「ん?ああ、わかった」
誕生会が始まってしばらく経ち、ルイーズと蘭子がすっかり出来上がった頃、雪乃は一人、縁側で星を眺めていた。
ーーーお母さんの言った通りだね・・・私は一人じゃない。
雪乃の頬に涙が流れる。
「感傷にふけっておるのか?」
クララが雪乃に声をかける。
「あ、師匠」
雪乃は慌てて涙を拭う。
「たまには、こういうのも、いいものじゃのぅ」
クララは雪乃の隣に腰掛ける。
「はい、皆さんには感謝してもしきれません」
「余計なことかも知れんが、これから先、こんな穏やかな日ばかりとは限らん」
「はい!」
「ヒーローなどと言っておるが、所詮は民間企業じゃ。警察庁から委託されて、ヴィランに対抗するために作られた組織に過ぎん。特別な待遇があるわけでもない」
「・・・ですよね」
「それでも、ヒーローを続けてる者がおる。命をかけて戦う者もおる。なぜ、そんなことが出来るかわかるか?」
「・・・守りたいものがあるから」
「うむ、70点じゃな。だが、簡単に言うとそういうことじゃな」
「雪乃よ、まずは自分を信じることじゃ」
「自分を・・・信じる」
雪乃の心に、わずかな正義の火が灯っていた。




