成長
「さあ、今日もランニングから行くわよ〜」
蘭子が軽いストレッチをしながら言った。
「はい!」
雪乃が引き締まった顔で返事をする。
「お!」
ーーー何だか今日はひと味違うじゃない。
二時間後。
雪乃は肩で息をしながら、膝に手をついていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「我についてこられるなんて、やるようになったなり」
蘭子が雪乃の肩を叩く。
「は、はい!はぁ、はぁ」
ーーー強く!なるんだ!
「はぐっ!はむっ!」
「んぐ!んぐ!」
雪乃が朝食を次々と口に運ぶ。
「わ〜お!豪快だなぁ」
蘭子が雪乃の食べっぷりに見とれる。
「こないだまで吐いておったのに、見事な変わりようじゃのぅ。ほれ、ワシの卵焼きも食え」
クララが雪乃の皿に卵焼きを入れる。
「いただきます!」
雪乃は遠慮せず、その卵焼きをご飯と一緒にかき込む。
「おかわり下さい!」
雪乃が茶碗を高橋に突き出す。
「あ、ああ!」
ーーーやはり、重箱を増やさねばならんな。高校生の食欲・・・恐るべし!
「雪乃、三杯目だよ、大丈夫!?」
蘭子が心配そうに言った。
「体力つけないと、強くなれませんから!」
三杯目のご飯を受け取ると、生卵を割ってかき込んだ。
「そんなに食べて知らないよ~」
蘭子が呆れ果てた表情で言った。
学校の昼休み。
「雪乃、食べないの?」
珠希が箸の進まない雪乃に訊ねた。
「う〜ん、朝ご飯食べ過ぎたみたい」
雪乃がお腹を押さえながら言った。
「さすがにこの量を二人で食べるのは厳しいかなぁ」
梨々花はそう言いながら、おかずを自前の紙皿に乗せる。
「あ、ホントだ!」
梨々花の後ろに、クラスメイトの内海亜希奈と木村架純が、物珍しそうに、雪乃の弁当を見ていた。
「ランチビュッフェだね〜」
亜希奈がおかずの多さに感心した。
「でしょう!?ねぇ、氷川さんの家ってお金持ちなの?」
架純が雪乃に訊ねる。
「い、いや、違うよ」
雪乃が困り顔で応える。
「ねぇ?それは何?」
「その鰻巻き美味しそう!」
亜希奈と架純が弁当に関心をそそられる。
「アハハ〜、一緒に食べる?」
雪乃が笑顔で言った。
放課後、訓練所に帰って来た雪乃は、空の弁当箱を高橋に渡した。
「高橋さん、ごちそうさまでした」
「・・・雪乃、朝飯をあれだけ食ったのに、よくこの量の弁当を食えたな」
高橋は思わず訊ねた。
「あ、あのね、高橋さん、実は・・・」
雪乃は事の顛末を話した。
「だよな、この量を一人で平らげるなんて、ヒーローではなく、フードファイターを目指しているのかと思ったよ」
高橋は胸をなで下ろした。
「高級食材じゃなくていいんだけど、引き続き5人前でお願いしてもいいですか?」
雪乃は目を潤ませながら、高橋を見つめた。
「あ、ああ、問題ない」
高橋は快諾した。
「何の話じゃ?」
雪乃の後ろからクララが声をかけた。
「あ、師匠、ただいま戻りました」
「雪乃、夕食まで精神修行をするぞ!」
「はい!」
「・・・」
高橋は弁当箱を洗いながら考えていた。
ーーー友人と楽しく食べているのに、食材のランクを下げる訳にはいかんな。




