期待
時は流れ、雪乃の高校2年生としての学校生活が、終わろうとしていた。
「雪乃、今日の放課後、柄本先輩が話があるって」
珠希が雪乃のお弁当を食べながら言った。
「なんだろう?」
雪乃はボイルされた越前ガニの足を、必死で剥いていた。
「柄本先輩、あの誘拐未遂の後、しばらく学校にも来なかったけど、卒業前に来れるようになって良かった」
珠希がブランド豚の角煮を、白米だけの自前弁当の上に乗せる。
「ちょっとぉ!角煮取りすぎよ!」
梨々花が好物を躊躇なく持っていく珠希に注意する。
「そうだね、志望してた大学も受かったって聞いたよ」
雪乃がカニスプーンで身をすくって口に入れた。
「氷川さん」
梨々花が雪乃に声をかける。
「なに?」
「お弁当のお重の段数、徐々に増えてない?」
「そうね、このまま放置はヤバいよね」
ーーー言いづらいけど、言わなきゃね。
放課後、雪乃は菜月のいる部室に向かった。
「失礼します」
雪乃は部室のドアを開いて中に入る。
「あ、氷川さん」
窓の外を眺めていた菜月が、振り向いて雪乃を見た。
「柄本先輩、もうすぐ卒業ですね」
雪乃は笑顔で言った。
「ええ、この学校ともお別れ・・・」
菜月の表情が曇る。
「私に話って?」
「あ、そう、あの事件の時にね、警察の人から聞いたの。私を助けてくれた女性って、ヒーローなんでしょ?」
「そう、だよ」
雪乃は口ごもった。
「氷川さん、あなたもヒーローなの?」
菜月は真っすぐ雪乃を見つめた。
「いや、その、修行中というか、何と言うか・・・」
雪乃は菜月から目をそらした。
「あのね、氷川さん。私にとって、あなたは剣道部のヒーローだった!部長の私がたどり着けない、インターハイ準優勝、格好よかった!」
菜月は目を輝かしながら言った。
「え、そ、そんな、やめてくださいよ!」
雪乃は顔を真っ赤にして言った。
「立派なヒーローになってね!氷川さん!」
菜月が雪乃の手を、両手で握りしめた。
「あ、はい、そうですね、頑張ります!」
雪乃は菜月の目を真っすぐ見つめた。
「ヒーロー名、決めたの?」
「いや、まだまだそんな」
雪乃は目を伏せた。
「氷川さんはね、いつも目標を真っすぐ見据えて、冷静で、時々氷のような目をしていたわ。だけど、打ち込む時の太刀筋は凄く綺麗で、風に舞う花のようだった」
「柄本部長、褒めすぎですよ」
雪乃は複雑な気持ちになった。
「いえ、後輩だけど、あなたに憧れていたの。だからね、氷川さんなら、誰もが憧れるヒーローに、きっとなれるわ!私、ファン1号になる!」
「い、いやぁ、その」
「あなたに、それを伝えたかったの」
「・・・私も、先輩がいなかったら、インターハイであそこまでいけませんでした。本当に、ありがとうございました」
二人はかたい握手を交わした。




