魂
「雪乃、起きなさい」
誰かが呼ぶ声がして、雪乃が目を開ける。
「雪乃、やっと会えたわね」
雪乃の前に、華穂が立っていた。
「お母さん!」
雪乃は華穂に抱きついた。
「私の大切な雪乃」
華穂が雪乃の頭を何度も撫でる。
「お母さーん!ごめんなさい!私のせいで!」
雪乃は華穂の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。
「いいのよ!あなたを守る為なら、お母さん、命なんて惜しくない!」
「もう、会えないなんていやぁ!!」
「うんうん。お母さんも、それが一番辛い」
「お母さんのハンバーグ、もう食べられない」
「そうね・・・でもね、雪乃。お母さんね、これからはずっと雪乃の側にいられる」
「え!?どういうこと?」
「雪乃には見えないかもしれないけど、ずっと側にいるから。いい?あなたは一人じゃない」
「お母さんが、側に?」
「いつも見てるからね!」
華穂が優しい笑顔で言った。
「お母さん!」
雪乃は大声でそう叫ぶと、目を覚ました。
次の瞬間、部屋の襖が開く。
「雪乃、おはよう。朝ご飯できてるなりよ」
翡翠蘭が部屋に入ってくる。
「ん?泣いてたなりか?」
「え?」
雪乃が指で目元に触れる。
ーーーあれ?なんで?
翡翠蘭と雪乃は、一階のダイニングにやって来た。
「おお、やっと来たか。みそ汁が冷めてしまうぞ」
クララが焼鮭を箸でほぐしながら言った。
「雪乃の分、もうすぐ焼けるから先に食べててくれ」
エプロン姿の高橋がキッチンから顔を出す。
「雪乃は今日はこれから学校なりね」
翡翠蘭がみそ汁をすすりながら言った。
「雪乃」
クララが雪乃をまじまじと見つめながら言った。
「はい?」
雪乃が箸の先をくわえたまま、目を丸くする。
「昨夜、何かあったか?」
「えっと、別に何も。なんかついてますか?」
「ついておるの」
「?」
雪乃が自分の顔に何か付いていないか、左手で撫で回す。
朝食を済ませると、雪乃は急いで車に飛び乗った。
「朝から慌ただしいわねぇ」
翡翠蘭が車を発進させる。
「免許、持ってたんですね」
「まあ、持ってた方が便利かなぁって」
「・・・」
雪乃が怪訝な顔をする。
「どうしたの?」
「『なり』って言ってないですね」
「ああ、そりゃ・・・」
「しかも眼鏡してる!」
「あなたの学校に行くのよ〜、チャイナドレスで一緒に歩いて欲しい?」
「いや、それはちょっと・・・」
「あ、それと、ヒーローじゃない時の名前は、翠尾蘭子だからね」
「みすおらんこ・・・そのままでもヒーロー名にできそう」
雪乃は微笑んだ。
「そうかもね。あ、蘭子でいいからね」
そうしているうちに、雪乃の学校に到着する。
「蘭子さんも来るの?」
「あんたの親戚ってことにしてるからね」
「なるほど」
始業前、蘭子が雪乃を連れて、先生達への挨拶を済ませた。
「じゃあ、学校が終わるまで近くでブラブラしてるから、何かあったらこの携帯使って」
蘭子が雪乃に携帯を手渡す。
「蘭子さんって、翡翠蘭の時とはまるで別人なんですね!」
「イタタタ!」
蘭子が雪乃の頬をつねる。
「冗談!冗談ですよ!」
「じゃあ、勉強頑張ってね〜」
そう言って、蘭子は学校から出ていった。
雪乃が教室に入ったとたん、声をかけられた。
「雪乃!もう大丈夫なの!?」
クラスメイトの珠希である。
「うん、何とかね。心配かけちゃったかな?」
「心配したよぉ!剣道部の皆もすごく心配してたよ!」
「ありがとう・・・でも、もう部活できないの」
「どうして!?」
「えっと、親戚に引き取られててね、仕事手伝わないといけなくて」
雪乃は珠希から目を逸らした。
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
「ヤバい、授業の内容、チンプンカンプンだった!」
雪乃が頭を抱えながら叫ぶ。
「ノート貸してあげるから、頑張りなよ」
珠希が雪乃の肩を叩いて励ます。
「雪乃、私はお弁当だけど、パンでも買いに行く?」
「あ、私もお弁当なの」
雪乃が大きな弁当を鞄から出した。
「おお!親戚の人、雪乃を大切にしてくれてそう!」
「まあ、そうだね、皆いい人だよ」
雪乃が弁当のフタを開ける。
「うおおお!何それ!?めっちゃ豪華じゃん!」
珠希が雪乃のお弁当を見て驚愕する。
「え!?鰻巻き?鰻巻き入ってる!?」
「有頭海老フライにローストビーフ!?」
「アハハ、珠希、ちょっと食べる?」
ーーー高橋さん、やりすぎ!
放課後。
「じゃあね、雪乃、私は部活行くね」
珠希が雪乃に手を振る。
「うん、また明日ね」
雪乃は学校から少し離れた駐車場に向かった。
駐車場に着くと、蘭子の乗った車が停まっていた。
「おかえり」
ウインドを下げて、蘭子が雪乃に話しかける。
「ただいま!」
雪乃はそう言うと、車に乗り込む。
雪乃が乗ったのを確認すると、蘭子は車を発進させる。
「学校、どうだった?」
蘭子が助手席の雪乃に話しかける。
「うん、楽しかったよ!久し振りに友達に会えたしね」
「それはなによりなり・・・あ!」
「今はどっちでもいいじゃないですか」
雪乃がクスクスと笑う。
「キャラ作るのって大変よ」
「私も何か考えておかないと」
「そうね、私も協力していい?」
蘭子が嬉しそうに言った。
「ええ、是非!」
「・・・蘭子さん」
雪乃が真顔で言った。
「ん?」
「昨日、クララさんに言われたんですけど、魂って武器になるんですかね?」
「魂かぁ……私たちの力とは、ちょっと違う気がするわね。私はUPだし」
「でも、昔から霊感の強い人はいたし、個人の努力やセンスってUPでは得られないから、それに近いんじゃないかな?」
「持って生まれた、ド根性みたいなものですかね?」
「そんな感じかもね、アハハ」
蘭子が楽しそうに笑う。




