ヒーローとは
「雪乃、入るぞ・・・って、何をしている」
ルイーズが病室に入るなり、目を丸くする。
「あ、ルイーズさん、もう動いていいって言われたので」
雪乃が竹刀の素振りをしていた。
「お前は、本当に真っすぐな奴だな」
ルイーズが半ば呆れながら言った。
「フフフ、もうすっかり元気なようじゃのぅ」
クララがルイーズの後ろから顔を出した。
「え?子供?」
雪乃の手が止まる。
「いや、この方は400歳を越えている」
ルイーズが雪乃に説明する。
「隠さなくてよいぞ。ワシは妖怪族じゃ、理由あってSGJに協力しておる」
「妖怪!?」
雪乃は身構えるような視線でクララを見る。
「ワシはクララじゃ、よろしくのぅ」
クララが右手を差し出した。
「はぁ、氷川・・・雪乃です」
雪乃が握手に応じる。
「あ、お茶の用意をするなり〜」
翡翠蘭がお茶とお菓子をテーブルに広げる。
「こりゃ、翡翠蘭。ぼたもちはどうした?」
クララがお菓子のラインナップにケチをつける。
「売店には売ってないなり・・・」
「全く・・・ルイーズよ、教育がなっとらんのぅ」
クララが呆れ果てた顔をする。
「クララ様・・・」
ルイーズが苦笑いをする。
「ところで、雪乃とやら・・・ヒーローを目指すというのは本気かのぅ?」
「はい、本気です」
雪乃は竹刀を置くと、椅子に腰掛ける。
「ルイーズよ、いつもの説明を」
「はい、クララ様」
ルイーズが雪乃に向き直ると、話を始めた。
「ヒーローの年間登録者数は100名程。そのうち、活動実績報告が上がる者は約半数」
「仮に50名がヒーローとして活動したとして、その半数は3年以内に様々な理由でヒーローを辞める」
「そして、残りの25名のうち、20名程が数年以内に命を落とす」
ルイーズの説明に緊張した空気が流れる。
「ヒーローになるということは、そういうことだ」
ルイーズがお茶を一口飲む。
「・・・」
雪乃は目を伏せて黙っていた。
「退院までに、よく考えてみてくれ」
ルイーズは優しく微笑んだ。
「おぬしが本気でヒーローを目指すなら、ワシが直々に鍛えてやろう」
クララがドヤ顔で胸を叩く。
その翌日。
病室で竹刀を振る雪乃に、翡翠蘭が話しかける。
「さっき看護師さんに叱られたのに、懲りないなりね」
「こうしてないと、何だか落ち着かなくて」
「真面目なりね、雪乃は・・・」
「翡翠蘭さんは・・・」
「呼び捨てでいいなりよ」
「はぁ、その、どうしてヒーローに?」
「そんなこと、聞きたいなりか?」
「ええ、是非!」
「う〜ん、そうなりね。何から話そうかな・・・」
翡翠蘭は腕を組んで考える。
「あの、言いたくなければ、無理にとは・・・」
「いや、あー、そう、元々は看護師だったなりよ。専門学校出て、看護師として働いてたなり」
「へぇ~、だからかぁ、ケガの処置に詳しいと思ってました」
「ある時、ヒーローがケガして運ばれてきたなり、知ってるなりか?鬼紗羅っていうヒーロー」
「キサラ・・・あ!ハイジャック事件を解決した!」
「そうなり!格好よかったなり。それに綺麗な人だったなり」
「その人に憧れて?」
「まあ、そうなりね」
「そういえば、そのキサラってヒーロー、今も活躍・・・」
「死んだなりよ」
「・・・ごめんなさい」
「いいなりよ〜、鬼紗羅さんも、きっと覚悟の上でやってたなり。でも、あの人にも夢があったなりよ。それがあんな最後だったことが、残念でしかたなかったわ・・・いや、なかったなり」
翡翠蘭が目を伏せて、悲しい表情で言った。
「最後のとき、側にいたんですか?」
「・・・」
翡翠蘭は黙って頷いた。
「そんな思いをしても、続けているのはなぜですか?」
「誰かを守れたり、救えた時、最高の気分なりよ!」
「なるほど!」
雪乃は笑顔で言った。
「雪乃は、この話を聞いてもヒーローになりたいなりか?」
「確かに、怖いけど、私には剣道くらいしかないし、それで誰かを守れるならって。あ、聞きました、私を助けてくれたのって、翡翠蘭さんなんですよね」
「そうなりよ、本当、生きていてくれてよかったなり!」
翡翠蘭は満面の笑みを浮かべた。
「私も、なりたいです。ヒーロー。確かに妖怪が憎い、でも、それだけじゃない」
「そうなりか、雪乃らしいなりね」
退院当日。
迎えの車には、雪乃とクララ、翡翠蘭が乗っていた。
「氷川雪乃、君の母親の葬儀に呼べず、申し訳なかった。遺骨は君の親戚が納骨してくれるそうだ」
運転中の高橋が、後部座席の雪乃に話しかけた。
「そうですか、ありがとうございます」
「落ち着いたら、墓参りに連れていく」
「大丈夫か?」
クララが雪乃の表情を見て声をかけた。
「ええ・・・母は私を庇って死んでいたんですよね」
「そう聞いておるな」
「とても・・・優しい母でした」
雪乃の目から、止めどなく涙が溢れ出した。
「素敵な母上なりね」
翡翠蘭が助手席で、前を向いたまま言った。
「感傷に浸っておるところすまんが、雪乃、本当に覚悟は良いのじゃな?」
「はい!私はヒーローになります」
「これから、SGJの訓練施設ではなく、ワシが用意させた訓練所に向かう。そこで約2年、みっちり鍛えてやるでのぅ」
「覚悟は出来ています!」
雪乃が毅然とした表情で言った。
「じゃが、学校はちゃんと行くのじゃぞ」
「へ?」
雪乃が目を丸くする。
「学校への送り迎えは、翡翠蘭が車でしてくれる。護衛も兼ねておるからな」
「任せるなり」
翡翠蘭がピースサインをする。
「ヒーローとは言え、学業は大事じゃからな」
「はい!」
ーーー勉強する覚悟は、出来てなかったわ




