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社会奉仕

魔法大学校から課せられた社会奉仕。


期間は四日。


場所は──


『Rack of Luck』


開店前。


スネイリリーとマロバンは緊張した面持ちで店の前に立っていた。


「本日より四日間、お世話になります。」


「よろしくお願いいたします。」


二人は深々と頭を下げる。


タクも微笑みながら礼を返した。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


エレノアはカウンターを拭きながら笑う。


「堅いねぇ。」


「ここは学校じゃない。」


「肩の力を抜いておやり。」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


「はい!」


————————


一日目。


「まずは掃除からです。」


タクは雑巾を二枚渡した。


スネイリリーは目をぱちくりさせる。


「掃除……ですか?」


マロバンは帯杖を軽く持ち上げた。


「清掃魔法で終わらせます。」


小さく呪文を唱える。


淡い風が店内を一周した。


埃が舞い、窓は光り、床も綺麗に見える。


「終わりました。」


タクは笑顔のまま頷いた。


「ありがとうございます。」


そして。


二人へ雑巾を差し出した。


「では、もう一度お願いします。」


「……え?」


「手で。」


二人は首を傾げた。


魔法で綺麗になったはずだった。


それでも床を拭いていく。


キュッ……


キュッ……


スネイリリーが声を上げた。


「あっ!」


雑巾が黒くなる。


「まだ汚れてる……。」


マロバンも驚いていた。


「魔法では落ちなかった汚れ……。」


タクは床へしゃがみ込む。


「木は生きています。」


「傷もあります。」


「水分も吸います。」


「毎日触るからこそ、手で確かめるんです。」


二人は黙って頷いた。


————————


昼過ぎ。


掃除が終わる。


エレノアが静かに言う。


「綺麗と。」


「清潔は違う。」


「見た目だけじゃ、お客様は安心できないからね。」


その言葉を二人は胸に刻んだ。


————————


二日目。


皿洗い。


マロバンは自信満々だった。


「これは得意です。」


洗浄魔法。


透明な水球が皿を包み込む。


油が浮き。


皿は輝いた。


「完璧です。」


エレノアが皿を一枚受け取る。


鼻を近づける。


「……。」


「まだ少し油の香りが残ってるね。」


マロバンが驚く。


「そんなはずは……。」


タクはスポンジを持つ。


「最後は人の手です。」


柔らかい布で磨く。


指先で縁をなぞる。


光へかざす。


「お客様が口を付ける場所だから。」


「最後は自分の目と手で確認します。」


スネイリリーも一枚洗う。


慎重に。


丁寧に。


磨き終えた皿をエレノアが見て微笑む。


「うん。」


「これは気持ちが入ってる。」


その一言が、何より嬉しかった。


————————


三日目。


営業開始。


初めての接客。


緊張したスネイリリーが叫ぶ。


「い、いらっしゃいやっせーーーっ!!」


店中に響く。


ガルムが肩を震わせた。


「おぉっ!」


ミズネが眼鏡を押さえる。


「びっくりしました。」


スネイリリーは真っ赤になる。


「すみません!」


タクは優しく笑う。


「バーは。」


「少し静かな方が落ち着くんです。」


「お客様の目を見て。」


「笑顔で。」


「それだけで十分ですよ。」


もう一度。


扉が開く。


カラン……


スネイリリーは小さく微笑む。


「いらっしゃいませ。」


その一言に。


店の空気まで柔らかくなった。


ガルムが頷く。


「今の方がいい。」


ミズハも笑う。


「落ち着くね。」


スネイリリーは嬉しそうに笑った。


————————


営業中。


ガルムが言う。


「嬢ちゃん。」


「魔法は凄ぇ。」


「でも料理は待てる。」


ヴィールを一口飲む。


「腹ぁ減っても。」


「少しくらいなら怒らねぇ。」


もう一口。


「だけど。」


「笑顔が無ぇ店には。」


「二度と来ねぇ。」


その言葉に二人は静かに頷いた。


————————


ミズネもグラスを置く。


「役所の者として申し上げます。」


「サービスに正解はありません。」


「ですが。」


「安心出来る店には。」


「自然と足が向きます。」


————————


ミズハは白ヴァインを眺めながら言った。


「料理は美味しい。」


「酒も美味しい。」


「でも。」


「また来たい理由は。」


「人なんだよ。」


店内が少しだけ静かになった。


その言葉は二人の胸へ深く残った。


————————


四日目。


社会奉仕最後の日。


ミズハが席へ座る。


「今日は。」


「任せるよ。」


スネイリリーは固まった。


「えっ……。」


「私がですか?」


タクは小さく尋ねる。


「昨日は何を召し上がりました?」


「白ヴァインです。」


「料理は?」


「魚でした。」


「今日はどう見えます?」


スネイリリーはミズハを見つめる。


少しだけ肩が下がっている。


目元も少し疲れている。


「……今日は。」


「少しお疲れでしょうか。」


ミズハが笑う。


「正解。」


タクは微笑んだ。


「では。」


「今日は温かい料理にしましょう。」


スネイリリーは厨房へ向かう。


タクと一緒に作ったのは、小さなヴシ肉のシチュー。


湯気が立つ。


優しい香り。


白ヴァインを少量使い、旨味を引き出した一皿。


ミズハは一口食べる。


ゆっくり頷いた。


「今日は。」


「これが飲みたかった。」


スネイリリーは目を潤ませた。


「……嬉しい。」


————————


閉店。


カラン……


校長グラント・カプリスが迎えに来た。


「四日間。」


「お疲れ様でした。」


二人は深く頭を下げる。


「どうだった?」


校長が尋ねる。


マロバンが答える。


「魔法より。」


「難しかったです。」


スネイリリーも続ける。


「でも。」


「また来たくなる店が。」


「どうしてそうなるのか。」


「分かりました。」


校長は優しく笑う。


「何だった?」


二人は顔を見合わせる。


そして。


声を揃えた。


「人でした。」


店内が静かになる。


エレノアはカウンターを拭き終え、ゆっくり二人へ歩み寄った。


「料理。」


「酒。」


「魔法。」


「全部。」


「人を笑顔にするための道具さ。」


少しだけ間を置く。


「忘れちゃいけないのは。」


「道具じゃない。」


「使う人なんだよ。」


二人は何度も何度も頷いた。


魔法大学校では学べなかったこと。


それは、人を想う心。


その一杯の意味。


その一皿の意味。


そして、その店に流れる時間の大切さ。


四日間の社会奉仕は終わった。


けれど二人は知っていた。


この四日間こそが、自分たちにとって本当の「学び」の始まりだったのだと。

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