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ミィード

魔王軍幹部――狐夜鳥 サツキ

物語序盤に出てきました幹部になります。

ミィード=ミード=蜂蜜酒

ゴノレゴンゾーリャチーズュ=ゴルゴンゾーラチーズ

クラッカ=クラッカー

クゴの実=クコの実

夜。


『Rack of Luck』は今日も静かに灯りをともしていた。


カウンターではタクがグラスを磨き、エレノアは棚の酒瓶を整えている。


扉の鈴が、小さく鳴った。


カラン――。


「いらっしゃいませ。」


タクはいつものように柔らかな笑みで迎える。


入ってきたのは、一人の女性だった。


栗色の長い髪。


身体から伸びるテヅルモヅルのような触手。


狐族のような顔。身体はもふもふな鳥人。

不思議な百足鎧。


魔王軍幹部――狐夜鳥 サツキ。


だが、彼女は何も言わない。


無表情のまま、静かにカウンター席へ腰掛けた。


その代わりだった。


ぶぅぅぅん……


数匹の小さなハチが、彼女の周囲を飛び回っている。


その一匹が、小さな紙を両前脚で持ち上げ、タクの前まで飛んできた。


紙には丁寧な文字で書かれていた。


『ミィード(ストレート)』


タクは紙を受け取り、微笑む。


「かしこまりました。」


――――――


地下セラー。


タクは奥の棚から一本の瓶を取り出す。


黄金色に輝く酒。


ミィード。


ハチ蜜をゆっくりと発酵させて造られた酒。


甘く華やかな香りが特徴だ。


「今日は、よく冷やして楽しんでいただこう。」


タクは冷やしたグラスへ静かに注ぐ。


とろりとした黄金色が灯りを受けて揺れた。


――――――


続いてファーストプレート。


クラッカを三枚。


その上へ。


細かく砕いたゴノレゴンゾーリャチーズュ。


さらに。


クゴの実を丁寧に乾燥させたドライフルーツを添える。


甘味。


塩味。


香り。


三つが一口で重なるよう計算する。


盛り付けを終えると、料理をサツキの左側から静かに置いた。


「本日のファーストプレートです。」


「ミィードとご一緒にお楽しみください。」


――――――


すると。


ハチたちが一斉に動き始めた。


一匹が小さなストローを運ぶ。


そしてミィードに挿して飲み口をサツキの口元へ。


そっと咥えさせる。


サツキは真正面を向いたまま。


表情一つ変えず。


すぅ……


静かにミィードを吸う。


一口。


二口。


目も動かない。


表情も変わらない。


すると今度は別のハチがクラッカを持ち上げる。


ふわふわ。


ふわふわ。


サツキの口元まで運び、


ぽい。


見事に口へ入った。


もぐ。


もぐ。


静かに咀嚼する。


店内のお客たちは、その光景を思わず見守っていた。


旅猫が小声で呟く。


「……すごい食べ方だにゃ。」


ガルムはヴィースキーを飲みながら笑う。


「完全に世話されてんな。」


ミズハも扇子で口元を隠しながら微笑んだ。


「まるで女王蜂ですね。」


――――――


食べ終えると。


ハチたちが紙を掲げる。


『美味しい』


さらにもう一枚。


『甘さ』


『塩味』


『とても合う』


タクは軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「ミィードは甘味が豊かなお酒ですので、チーズュの塩味とドライフルーツの酸味を合わせてみました。」


ハチたちが一斉に頷く。


『正解』


『大正解』


『百点』


エレノアは思わず笑ってしまった。


「ずいぶん分かりやすい子たちだねぇ。」


――――――


その後も。


ハチたちはせっせと働く。


グラスが少し空けば。


『おかわり』


料理が無くなれば。


『追加』


サツキは何も言わない。


ただ静かに座り続ける。


時折、ほんの少しだけ目を閉じて酒の香りを楽しんでいた。


その姿だけで、十分満足していることが伝わってくる。


――――――


やがて。


ハチたちがお代を運んできた。


銀貨と金貨を丁寧に積み重ねる。


紙が一枚。


『ごちそうさまでした』


さらにもう一枚。


『また来ます』


タクは微笑む。


「ありがとうございました。」


その時だった。


立ち上がったサツキが。


扉の前で一度だけ止まる。


ほんの少しだけ顔をこちらへ向け。


小さく。


本当に小さな声で。


「……またね。」


店内が静まり返る。


一瞬遅れて。


ハチたちが大騒ぎになった。


『サツキ様が喋った!』


『今年初めて喋った!』


『三文字だった!』


『歴史的瞬間!』


『一昨年の二文字を更新!』


店中に紙が舞う。


旅猫が目を丸くする。


「そんなに珍しいのかにゃ?」


ガルムが大笑いした。


「ガハハハ!やるなぁ!」


ミズハも優しく笑う。


「これは本当に気に入られましたね。」


サツキは照れる様子もなく。


静かに扉を開ける。


カラン――。


夜の街へ消えていった。


ハチたちは慌てて後を追いかけながら、最後にもう一枚だけ紙を掲げた。


『ありがとうございました』


――――――


扉が閉まる。


静けさが戻る。


エレノアはグラスを磨きながら、くすりと笑った。


「ずいぶん気に入られたみたいだねぇ。」


タクも穏やかに微笑む。


「また来ていただけるなら。」


「次は、どんな一杯をご用意しようか考えておきます。」


バーとは。


言葉だけでもてなす場所ではない。


一杯のお酒と、一皿の料理。


そして、その人に寄り添う時間。


今夜も『Rack of Luck』には、静かで優しい夜が流れていた。

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