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アボガドのサラダ

ポトテ=ポテト

ルタス=レタス

アジュ=アジ

リャイム=ライム

アボガド=アボカド

※アボカドは犬猫鳥兎馬などには毒になりますが

これは「アボガド」なのでセーフなのです。

ギョマ=ゴマ

ヴァイン=ワイン

休肝日が明けた朝。


『Rack of Luck』の厨房には、やわらかな朝日が差し込んでいた。


市場で仕入れてきた食材を、タクは一つひとつ丁寧に並べていく。


ポトテ。


ルタス。


アジュ。


リャイム。


そして――深い緑色をした果実。


「……アボカド。」


掌に乗せ、ゆっくりと眺める。


日本では何度も口にした食材だった。


サラダにしても美味しい。


パンにのせても美味しい。


白ワインとの相性も抜群だった。


だからこそ、自然と手が止まる。


(……待てよ。)


ふと、昔教わった知識が頭をよぎる。


(犬や鳥には毒になるって聞いたことがあった。)


(ウサギや馬も危ないって……。)


窓の外へ目を向ける。


犬獣人が笑いながら歩いている。


翼をたたんだ鳥人が荷車を押している。


その横を、筋骨隆々の馬人が堂々と胸を張って通り過ぎていった。


この店には、本当に様々な種族が訪れる。


(もし知らずに出してしまって……。)


(誰かが苦しむことになったら。)


その想像だけで胸が重くなった。


「どうしたんだい?」


エレノアが声を掛ける。


タクはアボカドを見せながら、自分が知る知識をゆっくりと説明した。


犬や鳥には毒になると聞いたこと。


だから、この店で使っていいものか迷っていること。


最後まで聞き終えたエレノアは、少しだけ目を丸くした。


「へぇ……。」


「初めて聞いたよ。」


「え?」


「この国じゃ聞いたこともない話さ。」


それでもタクの表情は晴れない。


「本当に大丈夫なんでしょうか……。」


エレノアは少し考え、にやりと笑った。


「だったら、本人に聞けばいい。」


「本人?」


ちょうど店の前を通りかかった犬獣人へ声を掛ける。


「ちょっと手を貸しておくれ。」


犬獣人は不思議そうな顔で店へ入ってきた。


「なんだ?」


タクはアボカドを差し出す。


「これ……食べられますか?」


犬獣人は果実を見つめる。


「アボガド?好きだぞ?」


「えっと……毒には……。」


「ならないですか?」


一瞬の沈黙。


犬獣人は首をかしげた。


「毒?」


「アボガドが?」


「はい。」


次の瞬間、豪快な笑い声が店内へ響いた。


「あっはっはっは!」


「何言ってんだ!」


「子どもの頃から普通に食ってるぞ!」


「祭りでも出るし、酒場でも定番だ!」


「俺たちが生まれるずっと前から食われてる果物だぞ!」


「あ……。」


タクは思わず固まる。


犬獣人は笑いながら肩をすくめた。


「人族って、面白い知識を持ってるんだな。」


そして、少しだけ真面目な顔になる。


「でも安心しろ。」


「俺たちは犬じゃない。」


「犬獣人だ。」


「姿は似てても、人なんだ。」


その言葉に、エレノアが静かに頷く。


「そういうことさ。」


「動物と獣人は別物なんだよ。」


「姿が似ていても、身体のつくりも違えば、食べられるものも違う。」


「魔王国じゃ、そのあたりは獣医学できちんと分けられてる。」


タクは静かに耳を傾ける。


「もちろん嫌いなものや、体質に合わないものはある。」


「でも、それは本人がちゃんと教えてくれる。」


「料理人が気を付けるべきことは、まず新鮮な食材を使うこと。」


「腐ったものを出さないこと。」


「そして、お客様の声をちゃんと聞くこと。」


エレノアは優しく微笑んだ。


「慎重なのは悪いことじゃない。」


「でも、怖がりすぎても料理は作れない。」


その言葉に、胸の奥の重石が少しずつ溶けていく。


「……はい。」


タクは深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」


————————


夜。


魔力灯に火が入り、『Rack of Luck』は静かに営業を始めた。


木の扉が開き、常連客たちが笑顔で店へ入ってくる。


「こんばんは。」


「こんばんは。」


カウンターへ腰を下ろしたのは、旅装束に身を包んだ鳥人の女性だった。


背中には美しい翼。


「今日は白いヴァインが飲みたいな。」


「かしこまりました。」


タクは棚から一本の白ヴァインを選ぶ。


淡い黄金色。


爽やかな果実香と、やさしい酸味が特徴の一本だ。


静かにグラスへ注ぎ、右側からそっと差し出す。


「本日のおすすめです。」


鳥人は香りを楽しみながら、嬉しそうに微笑んだ。


「いい香り。」


タクは小さく頷く。


「こちらに合わせて、本日のファーストプレートをご用意いたします。」


厨房へ向かう。


ルタスをちぎる。


熟したアボガドを半分に割る。


包丁を入れると、なめらかな果肉が姿を現した。


種を外し、皮をむく。


一口大に切り分ける。


そこへ香ばしく焼いたアジュを加える。


香草。


軽く砕いたギョマ。


搾りたてのリャイム。


香りづけにギョマ油をほんの少し。


塩をひとつまみ。


仕上げに黒胡椒を挽き、果肉を崩さないよう木匙でやさしく和える。


濃い緑。


白。


淡い焼き色。


白ヴァインの香りを邪魔せず、寄り添う一皿が出来上がった。


タクは静かに客の左側へ皿を置く。


「白ヴァインに合わせた、本日のファーストプレートです。」


「アボガドとアジュのサラダになります。」


「わぁ……きれい。」


鳥人はフォークを取り、アボガド、ルタス、アジュを一緒に口へ運ぶ。


ゆっくりと味わい、それから白ヴァインをひと口。


しばらく目を閉じたあと、小さく微笑んだ。


「……これ、好き。」


「アボガドは濃厚なのに重たくない。」


「リャイムの香りで後味がすっと軽くなる。」


「だから、またヴァインが飲みたくなる。」


もうひと口。


嬉しそうに笑う。


「口の中が春みたい。」


「ありがとうございます。」


タクも自然と笑みを浮かべた。


その様子を見つめながら、エレノアは静かに頷く。


(料理を怖がらなくなったね。)


料理を作る人。


酒を楽しむ人。


語り合う人。


笑い合う人。


それぞれの時間がゆるやかに重なり合い、店の空気を満たしていく。


『Rack of Luck』は今日もまた、小さな幸運を積み重ねていた。

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