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ヴィクアタールの太陽  作者: マスターオブあんかけうどん


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7

エリアーヌが後ろの2人を立たせたままなのが気になり始めた頃、入室の合図が鳴る。


「ウィルバート様、ご来客中に恐れ入ります。至急、ご報告いたしたく」

「エリアーヌ殿、少々失礼」


許可を得た使用人が近寄り、何事かを耳打ちする。

ややあって、ウィルバートの目が見開かれる。


「間違いないのか」

「は。現在、何人かの警邏を確認に向かわせていると」

「怪我人は」

「今のところはいないと聞いています」


は、と、ウィルバートが安堵の息を吐く。


何事かとガルニエ商会の3人が顔を見合わせていると、ウィルバートはディランとアーロンにも着席を促す。

どうやら腰を据えた話があるらしい。

ウィルバートが報告を持ってきた使用人に何かを指示する。


「失礼。警邏から報告が。皆さんにもお伝えした方が良さそうです」

「何事ですか?」

「山の一部が崩れたようです」

「えっ!?」


しばらくするとメイドがお茶を運んできた。

やはりまた、サンブカの花茶のようだ。

甘い香りが広がり、室内はほんの少し穏やかさを取り戻した。


「そちら側では分かりませんが、少なくともこちら側ではそう珍しいことでもありません。今回はたまたま峠までの道に落石があったというだけで、普通はあまり影響はありません」


そう言いつつ、ウィルバートは湯気の立つお茶を飲んだ。

この人は真っ先に怪我人の確認をするのだな。

エリアーヌはそんなことを思いながら、促されてお茶を飲んだ。


「霧で包み、強い風を吹かせる。そのためにすぐに山は積み上がり、そしてまた崩れる。それがシャメン=ハルの営みです」


こちら側はそういう土地なのだ。

シャメン=ハルの裏面を知り、エリアーヌは胃に冷たいものが落ちた気がした。


「……それにしても、巻き込まれた人がいなくて幸いでしたね」

「本当に。ただ、残念ながら皆さんはもうしばらくこちらに滞在する必要がありそうです」

「えっ」

「ナディブ峠に出る道が塞がれた可能性が高いようです。もちろん修繕はしますが、当然時間はかかります」

「なんてこと……」


思わず手を口元にやる。

特に急いで帰るつもりもなかったが、いつでも帰れると思っていたからこそ気楽に滞在していた。

帰りたくても帰れないというのとは話が違う。


エリアーヌの心に不安が押し寄せる。

そんな彼女の様子を、ウィルバートは憐れむように見た。


「ウィルバート様、ご無礼を承知でご相談いたしたく」


ディランがとうとう口を開いた。

エリアーヌは何を言い出すのかと内心ギョッとしたが、ウィルバートは小さく頷いて先を促した。


「大変申しあげにくいのですが、そこまでの長期滞在は想定しておりませんでした」

「それはそうでしょう。荷馬も一頭だったと聞いています」

「荷物もそうですが、先立つものもそう多くは持参していません。実はそろそろ、お嬢様を説得して一度国に帰ろうと考えていました」

「あぁ、なるほど。それはお困りでしょう」

「馬小屋でも構いません。どこか雨風を防ぐ場所をお借りすることは叶いませんでしょうか」


始まった。

ディランがこの顔をするとき、それは彼が全力で要求を通すと決めたときだ。

さもありなんと言った様子で、ウィルバートは少し考えてから視線を上げた。


「隣国からの客人をそのように扱うことはできません。確か空き家があったはず。すぐに確認させましょう」

「軒下でも良いのです。大変助かります」

「女性もいるのですから。皆さんでご利用になるとよろしい」

「ご配慮に感謝申しあげます。せめてお嬢様だけでもと考えておりました。このご恩は必ずやお返しいたします」


ディランは深々と頭を下げた。

それに合わせ、アーロンも頭を下げる。

ウィルバートは鷹揚に頷き、早速使用人を呼びつけて差配した。


機を逃さず、まんまとより良い宿を手に入れるとは。

なんと恐るべき交渉術。

エリアーヌはまた一つ、ディランから学びを得た。

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