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ポルタヴィルの中央広場には噴水がある。
それを囲うように低い壁があり、歩き疲れた人々は大抵それに腰掛ける。
エリアーヌとウィルバートもまた、そうすることにした。
「結局、私は何もできなかったわ」
エリアーヌは自分の靴の先を見た。
「私がひと冬かけて考え続けたことって、私じゃなければこんなにも簡単に成し遂げられることだったんだわ」
「そうでしょうか」
「全部貴方がやってくれたもの。そもそも商会だって父のものだし。私がやったことは、魔女に弟子入りしたことくらいね」
自虐的な笑いを浮かべたエリアーヌの手を、大きな手が包む。
そして少し不服そうな、不貞腐れたような顔を浮かべ、渋々と話し出した。
「卑怯者と言われたくないので先にお伝えしておきますが。こちら側の折衝を済ませたのは全て兄です。そして、兄だからできたことです。そもそもあの若さと爵位で中央の老獪な貴族たちを抑えて要職に就くなど、尋常なことではありませんから」
「すごい方なのね」
「ですから、私も特に何もしてはいません。ポルタヴィルのご領主も、気風が商人そのものでしたから。益のある話であればと耳を傾けてくださった」
「それでもきっと、私では会うところにすら行けなかったと思うわ」
ウィルバートは焦れたように、物語の騎士よろしくエリアーヌの指先に口付けを落とした。
「そもそも貴女が私を動かしたのです。もし今回のことが私の手柄であるなら、同時に貴女の手柄でもあるのでは?」
「意外だわ。貴方も詭弁を使うのね」
「詭弁ではありません。私は、貴女でなかったらここまでしませんでしたから」
ここまで言い切られると、そんな気にもなってくる。
エリアーヌは肩をすくめた。
「熱烈ね」
「私は今から貴女に愛を乞わねばなりませんから。落ち込んでいられては困ります」
初めて会ったときのような生真面目な顔で言う。
どれが本当のウィルバートなのだろう。
いつか分かる日がくるのだろうか。共に、あの地で過ごしていけば。
「ねえ、貴方って、そんなに変だった?」
「貴方が変にしたのです」
「ごめんなさい。じゃあ、責任は取らないとね」
「言いましたね。貴女も商人ですから、一度口にしたことは違えられませんよ」
言うが早いか、ウィルバートはエリアーヌを抱き上げた。
声をあげてエリアーヌが笑う。
メルカトラの陽の光が透けて、エリアーヌの濃い色の髪を輝かせる。
その夕陽色の瞳を、ウィルバートは焦がれるように見上げた。
エリアーヌはその後ヴィクアタールに渡り、その生涯をエヴェンディアで過ごした。
代官の妻でありながら外国の商人でもあるというその特異な存在は、ささやかながらも後の歴史書に度々その名を残した。
逸話も珍話も残っているが、何事にも明るく前向きに突き進む彼女のことを、当時の領民たちは敬愛を込めてこう呼んだ。
ヴィクアタールの太陽、と。




