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「お初にお目にかかります。ヴィクアタール領主代理として参りました、ウィルバートです」
それからたった数日。
なんなら書簡を出したと同時に出発したのでは無いかという素早さで、本当にウィルバートが現れた。
他国の貴族の来訪ということで、店の従業員総出でお出迎えをすることになった。
ウィルバートは貴族の本気と言わんばかりに着飾り、キラキラと光を反射している。
それでも全く下品にはならず、むしろ洗練された雰囲気すら醸し出している。
ヴィクアタールより陽の光が強いせいなのか、あまりの眩さに目が潰れそうだ。
そのあまりの輝きに、ジェラールも珍しく分かりやすく顔を引き攣らせている。
「ご足労いただき恐れ入ります。ガルニエ商会で会長を務めております、ジェラールでございます」
「突然のご訪問、お許しください。逸る気持ちが抑えられなかったのです」
一体これは誰なのだ。エリアーヌは混乱した。
こんな風に他人と接するウィルバートは見たことがない。
しかもただの笑顔ではなく、口元だけが微笑んでいる。
それなのに目線は鋭く、自分に逆らうことは許さないという威圧を感じる。
思わず凝視していると、ウィルバートの視線が移る。
エリアーヌの姿を認めると、春が来たように微笑んだ。
「エリアーヌ、息災でしたか」
「えっ、あっ、はい」
「それは何よりです。しかし、少し痩せましたか?」
「え、えぇ? そうでしょうか?」
誰だ。これは誰なのだ。
エリアーヌはあまりの混乱にまともに反応できなかった。
そしていよいよ舞台を書斎に移すと、事態は更に混迷を極めた。
「エリアーヌとの交流を通じ、少なくともヴィクアタールとしてはメルカトラとの交流は良い影響の方が大きいと感じたのです」
「それはもちろん、結構なこととは存じますが。しかし今回のポルタヴィル領主とのご会談というのは、いささか性急では」
「その点は申し訳なく思っています。私の兄はせっかちなのです」
有無を言わせない笑顔でウィルバートは言い切った。
百戦錬磨のジェラールであっても、下準備も無く他国の貴族を相手にするのは分が悪いようだ。
ここまで言い切られては反論もぶつけにくい。
「それからもう一つ。これは個人的に、ジェラール殿にお願いがあるのです」
「どのようなことでございましょう」
「エリアーヌを私にください」
「は?」
ジェラールは思わず隣に座るエリアーヌを見た。
娘も目を見開いて絶句しており、どうやらこれもエリアーヌは承知していないことだけは理解した。
「失礼ながら、それはどういったご趣旨でございましょう?」
「もちろん、私の妻として迎えたいということです」
チラ、と横目で娘を見ても、まだ固まったまま動かない。
父としてここで折れるわけにはいかず、ジェラールは腹に力を入れて反論する。
「……娘は不承知のようですが」
「今は私が一方的に想っているのです。まずはお父上にお認めいただいてから、お嬢様に求愛したいと考えています」
もう一度横目で娘を見ると、何やら顔を赤くしている。
ジェラールは面白くなかった。とても、面白くなかった。
「娘の想いは娘の物です。私の許可など不要でしょう」
「さすがはジェラール殿。先進的なお考えをお持ちなのですね。では、私はエリアーヌの心を得られるように努力したいと思います」
「ですが果たして、娘は貴方に想いを預けることがあるのでしょうか? ご存知の通り、娘は商人です。大人しく貴族の妻に収まる器ではない」
「まさにその通りです。ですが、そのような人だからこそ、エリアーヌは私に必要なのです」
お願いだから本人の前で父親相手にそういう話をしないでほしい。
エリアーヌは照れと緊張と混乱で、赤くなったり青くなったりと冷や汗にまみれた。
「それでは男としてお認めいただくために、まず私は今回の会談を成功させてみせます。ジェラール殿も同席されると伺いましたから、どうぞその際に私のことを見極めていただければ」
ウィルバートは自信に満ち溢れた笑みを浮かべた。
これまで見せていた穏やかな笑顔の奥に、獲物を見定めた獣のような獰猛さが滲む。
ジェラールはその顔を見た瞬間、敗北を悟った。
それは優秀な商人であるがゆえの嗅覚の鋭さであった。




