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エリアーヌはいよいよ進退極まる状況だった。
これはもう、父は端から何を出しても認める気などないのではないかとすら思い始めている。
藁にも縋る思いでディランに頼れば、至極当然のようにあれこれ指摘され、くどくどと詰められる。
父ほどではないにしても、これだけ言われるということはやはりエリアーヌの方に不備があるのだ。
そもそも問題なのは商売の内容ではない。
どうしても、あのシャメン=ハルが邪魔をする。
なぜ国が違うだけで、こんなにも話がややこしくなってしまうのか。
自国の法と隣国の法との不整合。
身分の違い、文化の違い。
理想と現実、実際と感情。
問題を解決する絶対の方法が見つからない。
それを解消できると相手に信じさせる言葉の力さえ、エリアーヌにはないのだ。
心はすでに折れかけていた。
ディランが部屋に入ってくるのが目の端に入る。
ベッドに転がったまま、涙の滲む瞳を腕で隠した。
「お嬢様」
「なに」
「旦那様がお呼びです」
「……とうとう年貢の納め時かしら」
エリアーヌは自棄になったように口の端だけで笑う。
無理やり体を起こしてベッドに腰掛ける姿勢をとったはいいものの、まだ立ち上がる気にはなれなかった。
「どうでしょうね。とりあえず、叱られる前に行った方がいいですよ」
「あのね。こういうとき、女の子には優しく慰めの言葉をかけるものよ」
「そうでしたか。では女の子にはそういう風にしてあげるようにしますね」
ディランはそう言ってにっこりと笑った。
エリアーヌは舌打ちをしてから立ち上がる。
元気が出たようで何より、と思いながら、ディランはその背に続いた。
「お呼びですか」
不貞腐れながら書斎に顔を出すと、何やら父が深刻な顔で額を抑えていた。
ただならぬ様子に、エリアーヌのやけくそな気持ちは霧散した。
「どうしたの?」
「エリアーヌ、お前、何をした?」
そう言って手紙のようなものを差し出してくる。
窓からの光が強く、父の表情は陰になってよく見えない。
とりあえず紙を受け取り、目を通す。
それはポルタヴィルの領主からガルニエ商会会長への書簡だった。
要約すると、突然隣国から交易に関しての会談のために使者を送ると言われたが何事かという問い合わせのようだ。
そして、状況がよく分からないからとにかく会談に同席しろという招聘状でもあった。
「な、なんですかこれは」
「私が聞きたい!」
ごもっとも。
とはいえエリアーヌにだって心当たりが無いのだ。
「私が何かしたせいではないと思いますが」
「お前以外に一体なにがどうなればこうなるというのだ」
そうこうしていると、更に手紙が届いた。
ジェラールがその場で封を切って目を通すと、いよいよお手上げといった様子で深く椅子に座り直した。
投げるようによこされたそれは、ウィルバートからの面会の申し入れだった。




