24
「それで? どんな女なんだ」
「もうお調べなのでしょう。その通りですよ」
「お前の口から聞きたい。特別美しい娘ではないそうだな」
「特別美しいわけではないだけで、可愛らしいお嬢さんですよ。ご報告の通り」
兄はなにやらぶちぶちと言っているが、どうせ事前に使用人にも報告をさせている。
ウィルバートと話をしたい気持ちも本物だろうが、なにしろ兄は忙しい。
無駄を嫌い、即断即決。
さらには同時に色々なことを考えているせいか話が飛びやすい。
実の弟でさえこれなのだから、部下や使用人は、仕え始めの頃は全員が苦労させられる。
「中央の方々から見れば、確かに彼女は日に焼けた不美人で、太っているでしょう。ですが私に言わせれば、それは健やかに生きてきた証です。なにより彼女の好奇心と勇気こそが代え難い美徳ですから」
「ふん。お前も男だな」
「?」
「豊満なのは良いことだ。たわわなのもな」
「……兄上。怒りますよ」
「はっはっは! 久しぶりにお前のそんな顔を見たな。お前は大人しすぎる。やかましいのが一人くらいいても良いだろうさ」
そう言って、マティアスはウィルバートの頭を撫でた。
「弟が惚れ込んだ女だ。否やなどあるまい?」
「やめてください」
子供のように扱われ、思わずその手を払う。
弟が可愛くて仕方がないといった様子だったマティアスの瞳が、一瞬で温度を失くした。
「一つだけ言っておく」
マティアスの声が一段下がる。
そしてウィルバートの顎を掴んで真っ正面から視線を合わせた。
「他国の平民を娶っても構わんが、あまりこちらには近づけさせるな。手綱を握り、うまく使え。良い子にしているなら、少しばかり稼がせてやってもいい」
自分と同じ薄い色の瞳に、強い光が反射する。
それは酷く眩しく、相対するウィルバートの瞳を灼いた。
笑った形の口から覗く鋭い犬歯が、噛み付かんばかりにその存在を主張する。
兄は、こういう人だ。人の使い方をよく分かっている。
人を従わせるやり方も。
そのうえで尚、自分を甘やかしてくれてはいるのだ。
これが彼なりの愛情表現だと、ウィルバートは重々承知していた。
「心得ました」
「欲しいなら奪ってでも手に入れろ。期待しているぞ。中央には話を通しておいてやるから、たまには美味いものでも送ってよこせ」
もう一度弟の頭を撫で、マティアスは退席した。
自分の身体から兄の香水の匂いがする。
ウィルバートの背に一筋だけ、汗が流れた。




