表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィクアタールの太陽  作者: マスターオブあんかけうどん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/29

22

「お父様、今いい?」

「なんだ」


翌日、エリアーヌは意を決して父の書斎を訪ねた。

昨日の今日で気まずさはあるが、仕方ない。


「なんとか一度、ポルタヴィルの領主様にお会いできないかしら」

「領主様に? なぜ」

「正式にヴィクアタールで商売をする許可をいただきたいの」

「本気なのか」

「本気よ」


ジェラールはエリアーヌを睨んだ。

その顔はもはや父の顔ではなく、本気の商人のそれだった。


「ではまず、私を納得させるだけの策を練りなさい」

「分かりました」


ジェラールはエリアーヌの眉間を指した。


「生半可なものを出してきたら容赦しないからな」


これまでとは気迫が違う。ジェラールは本気だ。

だからこそ、エリアーヌは絶対にやり遂げねばならなかった。


それからは、エリアーヌは必死で考えた。

実際の道の調査資料を読み込み、現実的な商品とその輸入量と輸出量を想定して計算し、両国における通貨の交換価値の変動の記録をまとめた。

交易によってもたらされるものと、孕む危険。その他諸問題とその対応策。


これぞと思いジェラールに提出するも、あれこれと文句をつけて突き返される。

それを受けて修正を加えてまた提出し、更に返される。


よくもまぁこれだけ難癖をつけてくるものだと感心するほど、ジェラールという商人はしつこかった。

ただそのしつこさは視座の高さでもあり、その知識と経験を証明するものでもあった。

何日もかけて大海原を渡り、言葉の通じない国で商いをしてきた男だ。

一筋縄ではいかないことくらい、覚悟していた。


ディランは何度か手伝いを申し出てきたが、こればかりは自分の力でやらなくてはいけないので断った。

エリアーヌは昼夜を忘れ、あらゆる資料にあたり、あれもこれもと考え続けた。

自分の無知に打ちのめされ、浅慮を責められ、身も心も傷ついた。

それでも何度も、何度も、繰り返し父に食らいついた。


「話にならん! 何度私の時間を奪えば気が済むんだ!」


ジェラールは机を強く叩いた。

その音と怒号は店の方まで響くほどで、従業員たちは恐れ慄いた。


「いいか、本気で商会の看板を背負って隣国に渡る気なら、もっとまともな計画を練って私を納得させてみろ!」


息を乱して拳を振るわせるほどの父の怒りをまともに食らい、エリアーヌは怯んだ。

咄嗟に言葉が出てこない。

視線を逸らさないだけで精一杯だ。


「いつまでもお前の遊びに付き合ってはいられない。お前ももう18になったんだからな。春までにできなければ、お前は商会の誰かと結婚させる。大人しくここで商会を守るんだ。分かったな!」


父はもう一度テーブルを叩いて立ち上がると、荒々しく部屋を出ていった。

恐らくずっと部屋の外で聞いていたのだろう。

すぐにディランが入ってきて、薄くなった空気を入れ替えるように窓を開けた。


「……ディラン」

「はい」

「もしできなかったら、私をお嫁さんにしてくれる?」

「絶対に御免です。できる限り早く、完璧な計画を練りましょう」


そうは言いつつも、ディランは優しい手つきでエリアーヌの背を撫でた。

エリアーヌは一度だけ、すんと鼻を啜った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ