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ヴィクアタールはとうとう本格的に冬を迎えた。
今年はまだ暖冬と言っても良さそうではあるが、それでも雪は深い。
民家の屋根には雪が積もり、それを住民たちは降ろす必要がある。
老人や子供には任せられないため、警邏隊があちこちの家に派遣された。
ウィルバートもまた、冬の対策に追われていた。
各家の備えは足りているのかを確認し、もし不足があれば領主館の蓄えから配給をする。
いくら湿度の高いヴィクアタールでも、寒さに火を焚けば火事の確率は上がる。
滅多にないことだが、飢えた獣やならず者が出ることだってある。
それら全ての脅威から、領民たちを守り切らなくてはならない。
警邏隊と共に、ウィルバート自身も足を使って積極的に対応する。
ただ本当のところ、ウィルバートは身体を動かしている方が気は楽だった。
じっと書類仕事をしていると、どうしてもあの夕陽色の瞳を思い出してしまう。
彼はもう、執務室で飲むお茶は香りだけが強いことを知ってしまったのだ。
川を渡るための橋に雪が積もり、重みで落ちてしまったらしい。
報告を受け、ウィルバートは数人の警邏隊員を連れて様子を見にきていた。
「ウィルバート様、こちらです」
「あぁ、これは酷いな」
そう大きな川でもないのだが、橋もなく渡るのは少々骨が折れる。
下手に気温が高いゆえに、厚く氷が張ってくれるわけでもない。
軽く足を置いて確かめたが、とても渡るのは無理そうだ。
「巡回が足りなかったか」
「点検はしていました。特に問題はなかったはずなのですが……」
「今年は暖かいからな。下手に濡れて腐ったのかもしれない」
いずれにせよ、落ちてしまったものは仕方がない。
ウィルバートは早々に橋の検分を切り上げた。
「被害は?」
「特には。今朝こちら側から渡ろうとした領民が見つけました」
「そうか。迂回は可能だな?」
「はい。もう少し下流側にもう一つ橋がございますので」
「ならばよい。戻って、冬の間は使わぬようにと触れを出す」
「は」
「これは雪解け待って直すとして、もう一つは保ちそうか」
「おい! どうだ」
そう言って、案内をしていた隊員は後ろの大柄な隊員に声をかけた。
聞かれた隊員は一瞬戸惑いを見せたが、それでもはっきりと応答した。
「えっと、あちらの橋の方が新しいし、川幅も狭いです。下流なので、仮に落ちても渡れないことはないと思います」
ここで初めて、ウィルバートは同行している隊員の中にゼノがいることに気がついた。
整った文字が頭の中に浮かび、そして口の中に苦いものが広がる。
彼宛の手紙には、何が書いてあったのだろうか。
自分とは違い、数枚分はありそうだったあの手紙。
ウィルバートは頭を振り、戻るぞ、と声を掛けた。
今はそんなことを考えている場合ではない。
雪遊びをする子供たちに手を振り、街や住民たちの様子を確認しながら領主館へと戻った。
吐く息は白く、小さく空咳が出る。
心配そうに自分の名を呼ぶいつかの声が、呪いのように耳の奥で響いた。




