表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィクアタールの太陽  作者: マスターオブあんかけうどん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/29

20

ヴィクアタールはとうとう本格的に冬を迎えた。

今年はまだ暖冬と言っても良さそうではあるが、それでも雪は深い。

民家の屋根には雪が積もり、それを住民たちは降ろす必要がある。

老人や子供には任せられないため、警邏隊があちこちの家に派遣された。


ウィルバートもまた、冬の対策に追われていた。

各家の備えは足りているのかを確認し、もし不足があれば領主館の蓄えから配給をする。

いくら湿度の高いヴィクアタールでも、寒さに火を焚けば火事の確率は上がる。

滅多にないことだが、飢えた獣やならず者が出ることだってある。


それら全ての脅威から、領民たちを守り切らなくてはならない。

警邏隊と共に、ウィルバート自身も足を使って積極的に対応する。


ただ本当のところ、ウィルバートは身体を動かしている方が気は楽だった。

じっと書類仕事をしていると、どうしてもあの夕陽色の瞳を思い出してしまう。

彼はもう、執務室で飲むお茶は香りだけが強いことを知ってしまったのだ。


川を渡るための橋に雪が積もり、重みで落ちてしまったらしい。

報告を受け、ウィルバートは数人の警邏隊員を連れて様子を見にきていた。


「ウィルバート様、こちらです」

「あぁ、これは酷いな」


そう大きな川でもないのだが、橋もなく渡るのは少々骨が折れる。

下手に気温が高いゆえに、厚く氷が張ってくれるわけでもない。

軽く足を置いて確かめたが、とても渡るのは無理そうだ。


「巡回が足りなかったか」

「点検はしていました。特に問題はなかったはずなのですが……」

「今年は暖かいからな。下手に濡れて腐ったのかもしれない」


いずれにせよ、落ちてしまったものは仕方がない。

ウィルバートは早々に橋の検分を切り上げた。


「被害は?」

「特には。今朝こちら側から渡ろうとした領民が見つけました」

「そうか。迂回は可能だな?」

「はい。もう少し下流側にもう一つ橋がございますので」

「ならばよい。戻って、冬の間は使わぬようにと触れを出す」

「は」

「これは雪解け待って直すとして、もう一つは保ちそうか」

「おい! どうだ」


そう言って、案内をしていた隊員は後ろの大柄な隊員に声をかけた。

聞かれた隊員は一瞬戸惑いを見せたが、それでもはっきりと応答した。


「えっと、あちらの橋の方が新しいし、川幅も狭いです。下流なので、仮に落ちても渡れないことはないと思います」


ここで初めて、ウィルバートは同行している隊員の中にゼノがいることに気がついた。

整った文字が頭の中に浮かび、そして口の中に苦いものが広がる。


彼宛の手紙には、何が書いてあったのだろうか。

自分とは違い、数枚分はありそうだったあの手紙。


ウィルバートは頭を振り、戻るぞ、と声を掛けた。

今はそんなことを考えている場合ではない。

雪遊びをする子供たちに手を振り、街や住民たちの様子を確認しながら領主館へと戻った。


吐く息は白く、小さく空咳が出る。

心配そうに自分の名を呼ぶいつかの声が、呪いのように耳の奥で響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ