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ヴィクアタールの太陽  作者: マスターオブあんかけうどん


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エリアーヌは鼻歌まじりに家に戻り、ディランとアーロンとクッキーを楽しんだ。

もちろん、アデラの花茶と共に。


「では、峠を通れるまでにそう時間はかからなそうですね」

「そうね。あとは道を片付けるようなことを言っていたわ」

「一度崩れたんだからな。先にあちこち見て回るんだろうさ」


ディランはすっかり住人たちに馴染み、その頭脳を頼ってあれこれ相談されては一緒に解決して回っているらしい。

アーロンも子供や老人に大人気で、こちらもあちこちを手伝っては食べ物をもらって帰ってくる。

エリアーヌもアデラのところに通い始め、まだまだ学びたいことがたくさんある。


「正直に言うとね、ここのところ楽しすぎて。峠のことを忘れていたの」

「そんなことだろうと思いました」

「親父殿が泣くぞ」

「泣かないわ。心配すらしていないんじゃないかしら」

「そんなわけが無いでしょう」


ディランが呆れた声を出す。

アーロンもそれに同意するように頷いている。


「手紙すら出せていないのです。戻ったら私とアーロンさんは殴られるかもしれません」

「本当にな。お嬢さん、頼むから一番に親父殿に謝ってくれ」

「何を?」

「何をって、心配させたことをだよ」

「だから、お父様は心配なんかしていないわ。それより、手ぶらで帰る方が叱られちゃう」


そう言って沈んだ顔をしたエリアーヌを、ディランとアーロンは痛ましげに見る。


二人は商会長がどんなにエリアーヌを可愛がっているかを知っている。

だが肝心の本人は分かっていないどころか、どこか複雑な思いがあるような態度を見せている。


女の子というのは難しい、とは商会長の談である。

ディランとアーロンはもどかしいものを胸に抱えつつ、ただエリアーヌに寄り添うのだった。


翌日、早速に呼び出されたエリアーヌは領主館へと向かった。

ウィルバートの休憩に合わせて面会の時間をとってくれるという。


前回と同様に客間へ通されると、すでにウィルバートは書類片手にお茶を飲んでいたようだ。


「ウィルバート様、ごきげんよう」

「あぁ、よく来てくださいました。どうぞ」


そう言って、ウィルバートはその傍らに書類を伏せた。

その動作すら優雅で、貴族というのは洗練されているものだと感心する。


「お忙しいのに、申し訳ありません」

「いいえ、私がお話を伺いたかったのです。その後、首尾はいかがですか」


少しからかうような言い方に、エリアーヌはウィルバートからの親愛を感じた。

せっかくエリアーヌの話に興味を持って時間を作ってくれたのだ。

その厚意を無駄にしてはいけない。


「本当に、ヴィクアタールは魅力的な地です。ポルタヴィルだって負けてはいませんが、それでも」

「そうですか。何かお役に立てることは?」

「では一つ、ご相談が」

「なんなりと」

「やはりサンブカは素晴らしいです。こちらでは当たり前でしょうが、シャメン=ハルの向こうでは聞いたことがありません。ぜひ持ち帰って、広めたいと考えています」


ウィルバートは顔を引き締めて姿勢を改める。

そして、考えるように顎に手を当てた。


「あれは繁殖力が強い。根ごと持ち帰ってみては?」

「それは私も考えました。しかし、アデラが難しいだろうと」

「なぜ?」

「サンブカは強い木です。しかし、日の光や高温には弱いのだそうです」

「メルカトラはそんなにも暑いのですか?」

「こちらよりはずっと。アデラは夏の間に根が弱り、花をつけるのは難しいだろうと言っていました」

「なるほど」


納得した様子で、ウィルバートはお茶を飲んだ。

エリアーヌもお茶を飲む。

確かにこれは、間違いなくアデラの花茶だ。


「それで?」

「一度、茶葉の状態で持ち帰ってみます。輸送しても香りが保つかどうかと、あちらの水でも美味しく飲めるのかを試す必要があります」

「賢明ですね」

「他にも試してみたいものが色々とあります。これからも行き来することをお許しいただけますか?」


エリアーヌは思い切って真正面から切り込んだ。

メルカトラとエヴェンディアは国交を絶っているわけでもないし、小さな商売程度であればどこに許可を取ることもなくできる。


だがエリアーヌはすっかりこの街を好きになってしまった。

だからこそ、きちんと認められた状態で商いを行いたいと考えるようになった。

そのためにはやはり、代官であるウィルバートに認められなくては。


「それは今後の貴女の働き次第ですね。私が何か特別に許可を出すことはありません」


だが、すっぱりと断られてしまった。

手応えを感じていただけに、エリアーヌはがっくりと肩を落とした。

あからさまにしょげるエリアーヌに、ウィルバートは思わず笑った。


「ですが、そうですね。特別睨みを効かせるようなこともないでしょう。私自身は、貴女には期待していますから」


エリアーヌがパッと顔をあげる。

目線が合うと、ウィルバートの視線は初めに会った時よりずっと柔らかかった。

本当に、期待してくれているのだろう。

エリアーヌは胸がいっぱいになった。


「努力します。ヴィクアタールにとっても、ポルタヴィルにとっても、幸福があるように」

「はい。期待しています。とても」


短時間ではあったが、穏やかな時間が過ぎる。

この日から、エリアーヌの予定には定期的なウィルバートとの面会が加わった。

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