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エリアーヌは朝になるとアデラを訪ねるようになった。
彼女は迷惑そうな顔をしつつも追い返すことはなく、自分がその日やることを全てエリアーヌに見せた。
おかげでエリアーヌはサンブカの花についてはもちろん、その他の薬草の使い道や、こちらの家庭料理や掃除の仕方なども学んだ。
とはいえ、いちいち質問してくるエリアーヌには少々辟易しているようではある。
それでもアデラはその知恵を惜しむことなく与えてくれる。
エリアーヌはすっかりこの老婆が大好きになっていた。
そんな日々を過ごしてさらに数日。
アデラの家から帰る途中、警邏隊を引き連れたウィルバートに出会した。
「おや、エリアーヌ殿」
「ウィルバート様。こんにちは」
「その後、お困りのことはありませんか」
「はい。とても充実しております」
ウィルバートの後ろに控えている隊長とエドガーは若干顔を引き攣らせている。
反対に、ゼノは何やらニコニコとしている。
「そうですか。何よりです」
「ウィルバート様はどこかへお出かけですか?」
「山の様子を見てきました。思ったより石が硬く難儀していたのですが、大方は片付きました」
実のところ、エリアーヌは日々が楽しすぎて自分が足止めをくらっていることを忘れていた。
そういえば国に帰れなくて困っているはずなのだった、と思い出す。
慌ててそれは良かった!とにっこり笑ってみたが、エドガーが見透かしたように睨んでいるのが見えた。
「……何か、良い香りがしますね」
「あら。これかしら」
そういって、エリアーヌは持っていた籠の布巾を取った。
それはアデラお手製のクッキーで、彼女の庭で採れた香草を練り込んである。
「アデラをご存知ですか? 今、彼女に色々と教わっているのです」
「アデラに? それは……よく引き受けてくれましたね」
ウィルバートはかなり驚いたようで、感心したような声色を出した。
「え? 無愛想ではありますが、最初からとても親切でしたよ」
エドガーは額に手をあてているし、隊長は驚いたように目を見開いている。
ゼノはあいかわらずニコニコしているし、エリアーヌには訳がわからなかった。
「そうですか。それはすごいな」
なんだかウィルバートの機嫌が良さそうだ。
夕陽に近いからか、領主館で会ったときよりも明るい気がする。
「よろしければ、一枚差し上げます」
「おい、バカ」
エリアーヌが籠を差し出す。
エドガーが後ろから止めようとしてくるが、ウィルバートは手を上げてそれを制した。
「ご相伴に預かりましょう」
そう言って、ウィルバートは手袋を外してから籠のクッキーを一枚とった。
目を伏せて口に運ぶ様子はさすがに無駄のない所作で、エリアーヌは感心した。
「うん。うまい。さすがはアデラです」
「やはりアデラはこの辺りでも一番の腕なのですね?」
「貴女の見立ては正しい。彼女はヴィクアタールの魔女と呼ばれるほどの知恵と技を持っています」
思わぬ二つ名に、今度はエリアーヌが驚かされた。
「魔女?」
「彼女はそう呼ぶと怒りますが。皆からの尊敬の証です」
「では私は、魔女の弟子ですね」
そう言って胸を張ると、ウィルバートは一瞬呆気に取られ、そして笑った。
「そうですね。よろしければ、魔女に何を習ったのか、ゆっくり聞かせてください」
「ぜひ! お時間をいただけたらたくさんお話ししたいことがあります」
ウィルバートと面会の約束をし、別れる。
すれ違いざまにエドガーに睨まれたうえに舌打ちまでされたが、その背中に舌を出してやった。
それを見てギョッとしたゼノを笑い、手を振って見送った。




