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ヴィクアタールの太陽  作者: マスターオブあんかけうどん


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10

エリアーヌは街の外れに住むアデラという老婆を訪ねていた。


はじめは宿屋の女将にサンブカのお茶の作り方を知りたいとお願いした。

基本的にサンブカの花はあちこちに生えており、それぞれの家の庭でも採れるようなものなのだそうだ。

伝統的に家の女たちが一年間で消費する量を作るので、手順なども家によって多少異なるらしい。

エリアーヌに教えるということは商品になる可能性もあるということで、女将には少々荷が重いと言われてしまった。


そこで食い下がったところ、アデラを紹介してもらった。

アデラが作るお茶は特に香りが高く、薬代わりに飲む人もいるほど。

領主館に納められているものもアデラが仕込んだ茶葉だという。


「こんにちは」


扉を叩く。

しばらくすると、中から小柄な老婆が現れた。

彼女はサッとエリアーヌの全身を眺めたあと、警戒するような視線を向けてきた。


「知らない顔だね」

「宿屋の女将さんからお茶作りの名人だとお聞きしてきました。私は隣国メルカトラのエリアーヌと申します」

「隣国? なんでそんなところの娘がいるんだ」

「商いのためにこちらを訪れていたのですが、山崩れで足止めされているのです」

「それは災難だったね」


淡々とした話し方、冷静な受け答え。

これは手強そうだ、とエリアーヌはひそかに腹に力を入れた。


「それで? お茶がなんだって?」

「先日、初めてサンブカの花茶をいただきました。その美味しさに感激したのです」

「そうか。それは良かったね」

「ぜひお茶を国に持ち帰りたいのです」

「あぁ、分けて欲しいのか」


ようやく合点がいったという顔で、アデラは頷いた。


「よろしいのですか? ぜひ!」

「毎年多く作るようにしているんだ。構わないよ」


そう言うと、アデラは招き入れるように扉を開いた。

エリアーヌは遠慮なく家に入り込む。


家の中はあちらこちらに草や花のようなものが干してあり、どこからか薬のような臭いがする。

あまり見たことのない柄や色の織物も敷いてある。

壁は一面棚になっており、大小さまざまな甕や籠、麻袋のようなものが並んでいる。


アデラは早速茶葉を用意してくれるつもりらしく、なにやら背を向けて棚のひとつをごそごそとやり始めている。

少々気が短いらしい。

だがエリアーヌは、話が早いのでせっかちは嫌いではなかった。


「それからもう一つ、私に花茶の作り方を教えていただきたいのです」

「作り方? 花をもいで干すだけだよ」

「女将さんが、アデラさんは街で一番花茶を作るのがお上手だと」

「適当なことを」


鼻で笑いながら、アデラは手慣れた様子で茶葉を油紙のようなものに包んでいる。

その手さばきは速くはないが、迷いもない。


「それが花茶の茶葉ですか?」

「そうだよ。嗅いでごらん」


茶葉をひとつまみ、手のひらに乗せてもらう。

鼻を寄せると、あの甘い香りがする。


「茶葉だけでこんなに香るんですね」

「これは前の春に作った分だから、ほとんど香りが失せている」

「これで? では、できたてはもっと香るのですか?」

「あんた、小さい子どもみたいだね。なんでも知りたがる」


そう言って呆れたように笑うと、アデラが手招きをして家の奥へと移動した。

大人しくついていくと、更にたくさんの乾燥した植物が並んでいる部屋を見せてくれる。


「すごい」

「薬なんかそう簡単には手に入らない。だから、口にするもので病気を防ぐんだ」

「お茶もお薬なのですね?」

「そうだ。サンブカ茶は特に万能でね。あれを飲んでおけば、熱なんか出さない」


エリアーヌはヴィクアタールに来てから、なぜこの辺りの人は食事の割に体格が良いのかが不思議だった。

アデラだって小柄なのはおそらく歳をとったからであって、指は長いし肩幅もしっかりしている。

若い頃は自分より大きかったのではないだろうか。


以前、父が貴族は食事が贅沢だから病気が多いという話をしていたことを思い出す。

それが真実ならば、食べ物が素朴なことも彼らの頑丈な身体を作っている要因なのかもしれない。


「サンブカの花は春の終わり頃に咲く。それをもいで、こうして並べて干すんだ」


そう言って、アデラは重ねて置いてある木箱の一つを見せてくれた。

箱の端から端にいくつか細い棒が渡してあり、そこに小さな白い花を逆さにかけている。


「これがサンブカの花なんですね! なんてかわいいの」

「この辺りは霧が多いから、乾燥させるのが難しいんだ。だけど日に直接当てると香りが飛んでしまう」

「気難しいのね。まるでお姫さまだわ」


アデラは喉を鳴らすように笑う。

お姫さまね、と呟いてから、箱の中のサンブカの花に指先で触れた。


「だから私は収穫のときには茎の方から採る。それでこうして逆さに引っ掛けてやって、風通しの良いところで眠らせる。花だけにするのは完全に乾燥してからでも構わないからね」


この重ねてある木箱は、全てサンブカの花を干しているのだろうか。

これを一人でやったのかと思うと気が遠くなりそうだ。

アデラは箱を戻すと、今度は何やら籠を出してきた。


「これはサンブカの実だよ」

「サンブカは実もつけるのですか!」

「花が落ちたあと、実になる。だから、全てを採りきってはいけない。特に私のように、茎から採るならね」

「実は、どんな味がするのです?」

「食べてみるかい」


そう言って、アデラは小さな壺を出してきた。

中身をひとさじ分すくってもらい、エリアーヌは躊躇わずに口に含んだ。


「甘酸っぱい! 砂糖で煮たものですか?」

「この辺りでは砂糖は手に入らない。だから少し煮て、蜂蜜に漬ける」

「それは、保存のために?」

「そのままでも食べられるが、よく熟れていないと毒がある。その辺から採って食べると痛い目を見るよ」

「き、気をつけます」


思わずお腹に手を当てたエリアーヌを薄く笑い、アデラはまた他の籠を出してきた。


「これは?」

「サンブカの葉だ」

「葉もお茶にするのですか?」

「いや、葉は口に入れると毒になる。これはすり潰して薬にする。火傷なんかに塗ると良い」

「すごい……」


うっとりと観察するエリアーヌを見て、アデラはぽつりとこぼした。


「採ったは良いが、面倒でまだやっていないんだ」

「これから薬にするんですか?」

「やってみるか?」

「ぜひ!」


瞳をキラキラと輝かせたエリアーヌに、アデラは苦笑した。

そして道具と場所を提供してもらう。

横からあれこれと指示をされながら、エリアーヌは一生懸命サンブカの葉をすり潰した。


一通りの作業を終えると、アデラがお茶をごちそうしてくれた。

エリアーヌはこれまで飲んだ花茶の中で、一番美味しいと思った。


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