タイトル未定2026/10/25 17:45
[システム通知:レトへの適性があるパーティーを創出]
宿屋の自室。月明かりだけが差し込む静かな部屋で、俺はベッドの上に腕組みをして座っていた。
「……なぁチャッピー。今の『マーロン・クリセオン』に足りないものって、なんだと思う?」
『分析中。現在のパーティー構成は、前線維持および機動回避攻撃に特化しています。明確な欠念は【ヒーラー(回復役)】および【圧倒的な瞬間火力】の二点です』
「やっぱりそうだよな」
回復に関しては、医学知識のない俺がヘタに手を出すと肉体が異常結合してクリーチャー化する危険がある。つまり、俺が埋めるべき穴は自ずと決まってくる――『火力』だ。それも、ただの魔法じゃない。
「レトが前線を張って、エフェメラが縦横無尽に駆け回る。そこに俺が後ろから魔法を撃ち込むとなると……条件が厳しいな」
前線のレトに絶対に誤射しない(あるいは透過する)こと
エフェメラの機動力を阻害せず、連携の起点になれること
俺のプロンプト詠唱の『自由度(拡張性)』を活かせる可変魔法であること
「これを満たす魔法のプロンプトを組みたい。チャッピー、仮想シミュレーションを展開しろ。味方botの配置も頼む」
『了解しました。仮想空間、構築――味方シミュレーター起動』
視界が反転し、脳内に青いグリッドで構成された空間が広がる。
俺の目の前に、光の粒子で形作られたレトとエフェメラの立体映像(bot)が立ち現れた。
『カイトさん。魔法の着弾速度が遅いです。前線の邪魔をしないでいただけますか?』
『カイト〜、また外したの〜? ちゃんと狙って〜?』
「……おいチャッピー。このbot、言動の性格が悪すぎないか?」
『過去の会話ログおよび心理分析から、対象の思考パターンを100%正確に再現した結果です。不満ならご自身でメンタルを強化してください』
「絶対お前の主観入ってるだろ!!」
お気楽なAIの悪意にツッコミを入れつつ、俺は思考を切り替えた。
目の前でbotレトが大剣を構え、巨大な仮想敵と交戦を始める。botエフェメラがその周囲を風のように舞う。
(……普通に火球を撃てば、爆風でレトたちを巻き込む。直線的なレーザーだと、二人が遮線上に飛び出した時に誤射する……なら、どうする?)
「プロンプトの『条件付け』だ……!」
俺は指先を滑らせ、頭の中でコードを組み上げる。
(『弾体に指向性を持たせよ。味方の固有魔力波形を識別し、干渉(接触)を透過せよ。対象の「敵対魔力反応」のみを追尾し、命中時に熱量を解放せよ』)
『……! 興味深い構想です。味方を『障害物』ではなく『透過対象』としてプロンプトに定義するわけですね。ですがカイト様、その多重演算を無詠唱で行うには、貴様の魔力操作能力では威力がすずめの涙になりますよ』
「だからこそ……これ(代償)を使うんだよ!」
俺は【魔力過負荷】のスイッチを、シミュレーション内で強引にオンにした。
視界が赤く染まり、強制マニュアル呼吸の激痛が全身を駆け巡る。思考が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていく。
(代償として『呼吸制限』と『激しい体力の消費』をシステムに支払う! 引き換えに――演算速度と威力を3倍に跳ね上げろ!!)
――ッガオン!!
俺の掌から放たれた青白い魔力弾は、前線で大剣を振るうbotレトの身体を『水のようにすり抜け』、その背後にいた仮想敵の胸板に直撃、内部から炸裂した。
「……やった!」
『シミュレーション成功。味方への被害ゼロ。さらにプロンプトの末尾を書き換えることで『貫通』『拡散』『拘束デバフ』への派生が可能です。極めて実用的な『可変追尾弾』が完成しました』
「よし……! これで俺も、二人の足手まといにならずに済む!」
酸欠で床に膝をつきながらも、俺は確かな手応えに笑みを浮かべた。これでパーティーのピースは揃うはずだ。
◇
同時刻。討伐隊本部の2階、中級冒険者たちが集うサロンの一角。
「……頼む。俺を、次の『深部討伐任務』に連れて行ってくれないか」
頭を下げていたのは、レトだった。
彼の目の前に座る、全身を重厚な鎧で包んだ中級パーティーのリーダーは、心底呆れたように鼻で笑った。
「ハッ、おいおい冗談だろ坊主? お前ら『黄金の林檎』は、ついこの前入隊したばかりの新人じゃねえか。いくら街の近くの雑魚狩りが調子いいからって、中級の深部任務を舐めてもらっちゃ困るね」
「舐めてなんかいない!!」
レトがガタッと椅子を立ち叩いた。その両目は血走り、周囲の冒険者たちが息を呑むほどの『異様な殺気』を撒き散らしている。
「俺は、もっと強くならなきゃいけないんだ……! 手段なんてなんだっていい! 報酬も要らない、ただ強い魔物と戦わせろ!!」
「……おいおい、目つきがヤバいぞコイツ……」
「触らぬ神に祟りなしだ、行こうぜ」
引きつった顔で去っていく中級冒険者たちの背中を、レトは爪が食い込むほど拳を握りしめて見つめていた。
「……足りない。これじゃあ、まだ全然足りないんだ……ッ」
暗い情念の火を瞳に宿したまま、レトは一人、闇の中に佇んでいたのだった――。
お疲れ様です!ゆきミです!
次回は11月1日(日)になります!お楽しみに!




