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黄金の林檎の牙

[システム通知:レトの心象干渉レベル10]

「――ふっ!」


陽炎のように揺らめいた残像をかすめ、森のゴブリンの粗末な棍棒が虚空を叩いた。

攻撃を完全にすり抜けたエフェメラは、微塵も慌てることなく、手元の杖から鮮やかな氷の矢を放つ。


ドシュッ!


正確無比な一撃がゴブリンの眉間を貫き、魔物は光の粒子となって霧散した。

――速い。そして、美しい。

初心者講座の特訓を経て、エフェメラの【陽炎回避(ミラージュステップ)】の練度は文字通り一線を越えていた。回避だけなら、下手な中級者冒険者すら凌駕している。


「オラァッ!!」


ガキンッ! と重い金属音が響く。

レトが大剣でゴブリンの群れの突進を真正面から受け止め、凄まじいヘイト(敵意)を自分へと強制集中させていた。どれだけ激しい殴打を浴びようとも、彼の足場は一歩も揺らがない。

分厚い壁のように前線を死守するレトの姿は頼もしいの一言だが――その双眸には、どこか冷たく、満足を許さない飢えた光が宿っている。


「よし、雑魚の群れは片付いたな!」


戦闘の最後尾。

俺は【魔力過負荷】のスイッチを入れ、肺に全集中の呼吸を送り込みながら、目の前のゴブリンリーダーに向かって右手を突き出した。


(『魔力、凝縮。圧縮された高密度弾道弾を撃て!』――プロンプト送信!!)


ドォンッ!!


俺の掌から放たれた極太の魔力光弾が、リーダーを文字通り消し飛ばした。

スタミナ消費と引き換えに跳ね上がった全ステータスのおかげで、かつては苦戦した雑魚など一撃だ。


「はぁっ、はぁっ、すぅー、はぁっ……げほっ……!」


直後、スキルの反動でマニュアル呼吸のペースが狂い、俺はその辺の木の幹にしがみついて盛大に酸欠でひっくり返った。


『分析。戦闘中の瞬間火力は大幅に向上しましたが、戦闘終了直後の肺機能停止による生存リスクが跳ね上がっています。見た目はカッコいいのに後味が不審者ですね、カイト様』

(うるせえ……! これでも必死に戦ってんだよ……!)


頭の中でチャッピーの毒舌をスルーしつつ、俺は荒い息を整えた。

今回の任務は、街の近郊に現れたゴブリンの討伐という、以前の俺たちならそこそこ慎重にならざるを得ない簡単な依頼だった。

だが、今の俺たちにとっては文字通り「秒速」で終わる散歩のようなものだった。


◇


「任務完了、お疲れ様です!」


討伐隊の本部ロビーに戻り、受付のお姉さんに討伐証明の素材を提出する。

エフェメラは涼しい顔で微笑み、レトは無言で剣の手入れを始め、俺はまだ少し残る酸欠の名残でふらふらと壁に手をついていた。実力序列で言えば、今の俺が一番下なのは明白だった。


ロビーの隅の席に腰を下ろし、一息ついていると、近くのテーブルから他の隊員たちの話し声が聞こえてきた。


「なあ、聞いたか? あの『ポレミオイ』の連中さ、訓練場で事件があってから、すっかり影を潜めてやがる」

「ああ、北門のアレクサンダー様が厳戒態勢を敷いたから、尻尾を巻いて隠れたんだろ。しばらくは大人しくしてそうだな」


――ポレミオイ。

あの時、謎の空間に引きずり込まれた悪夢が脳裏を過る。

奴らはまだ街のどこかに潜んでいるはずだ。あの不気味な連中が急に大人しくなったという事実がかえって気味を悪くさせた。


「……ふん。連中が大人しかろうが関係ないさ」


ポリポリと頭を掻きながら、レトが吐き捨てるように言った。

彼は手元のワイングラス(中身は水だが)を乱暴に置き、ギラついた目をエフェメラと俺に向ける。


「こんな近郊の雑魚退治ばかりじゃ、いつまで経っても本当の意味で強くはなれない。なあ、エフェメラ、カイト。もっと遠くの、もっと危険な深い森の任務や、中級者向けの討伐依頼を受けようぜ。俺たちなら余裕だろ」


「ちょっと、レト!」

エフェメラは眉をひそめ、弟をたしなめるように首を横に振った。

「ダメだよ、そんな焦っちゃ。まだ私たち、討伐隊に入ってからそんなに経ってないんだし、ポレミオイの件だって完全に解決したわけじゃないでしょ。危なすぎるよ」


エフェメラの言う通りだ。

いくら個々の戦闘能力(回避と防御)が跳ね上がったからといって、調子に乗って深部に踏み込むのは愚の骨頂だ。


「俺もエフェメラに賛成だな」

俺は酸欠の喉を無理やり鳴らしながら、レトに向き直った。


「レト、お前……最近、なんか変に焦ってないか? そんなに急いでどこに向かおうってんだよ」


俺の指摘に、レトの肩がピクリと跳ねた。

彼はわずかに目を泳がせたが、すぐに鋭い睨みへと切り替え、ふいと顔をそむける。


「……焦ってなんかいない。ただ、いつまでも足踏みしている暇はないと言ってるだけだ。姉貴を守るには、もっと……圧倒的な力が要るんだよ」


その言葉の端々に滲む、ぞっとするような執着の影。

先ほど戦闘で見せた冷たい眼光と重なり、俺の胸の奥で嫌な警報が鳴り響く。


「……まぁ、気持ちはわからんでもないが、無茶は厳禁だ。俺たちのパーティー名は『マーロン・クリセオン』だろ? 一人欠けても、全員揃っても、生きて街に帰るのが最優先だ。な?」


俺が少しからかうように笑ってみせると、レトはしばらく沈黙した後、不服そうに息を吐き出した。


「……わかったよ。当面は、エフェメラの言う通り慎重にいくさ」

お疲れ様です!ゆきミです!

不穏さんが顔を出してます!

次回10月25日をお楽しみに!

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