容量不足
[システム通知:教官1の行動設定]
「998……ッ、999……ッ、1000……ァァァッ!!」
何度目の光景だろうか。
今日も俺は、夕暮れの訓練場で泥まみれになって倒れ込んでいた。相変わらずステータス画面に新しいスキルが刻まれる気配はない。
「おいおい、また最後まで残ってんのか。精が出るな」
頭上から声が降り注ぐ。バッシュ教官だった。
彼はすっかり俺の「居残り特訓」の常連見物人になっていた。今日も冷たい水の入った水筒をドンと置いてくれる。
「……バッシュさん。俺、本当に才能ないんですかね」
水を一気に煽りながら、俺はつい弱音を吐いてしまった。
教官は隣に座り込み、顎をさする。
「まあ、落ち込むな。そもそもスキルってのは、そうポンポン手に入るもんじゃねえんだ。この講座は、過去の先駆者たちが『こういう極限状態ならスキルが出やすかった』っていう記録をかき集めて作られてる。だから確率が高いってだけだ」
なるほど。一種の統計学に基づいた訓練メニューだったのか。
「ただな……」
教官は少し真面目な顔になり、声を潜めた。
「それでもこれだけやって一切の兆候がないなら、別の要因も考えられる。昔、俺の先輩に聞いた話だが……『スキルの質と量がデカすぎるせいで、魂のリソースが足りなくなり、新しいスキルが一切手に入らなくなった奴』がいたらしい」
「魂の……リソース?」
「ああ。詳しくは知らねえが、器がパンパンだと水は入らねえってことだ。ま、お前がこの修行に向いてないだけかもしれねえがな。焦んなよ」
バッシュ教官は俺の肩をポンと叩き、夕闇の中へと帰っていった。
器がパンパン。リソースが足りない。
……嫌な予感がする。ものすごく、嫌な予感が。
(おい、チャッピー。教官の話を聞いていたな。俺がスキルを獲得できない原因、改めて全力で解析しろ。今すぐだ)
『……ピロリン。解析完了。バッシュ氏の推論は99.8%の確率で正解です』
脳内に、どこかで見覚えのある「グラフ」のような画面が表示された。円グラフの99.9%が赤色で塗りつぶされている。
『カイト様の魂のキャパシティ(リソース)のうち、99.9%を固有能力【スキルツリー(システム・チャッピー含む)】がバックグラウンドで占有しています。残りの0.1%で生命活動を維持しているため、外部からの新規スキルの獲得は不可能です』
「…………は?」
俺は訓練場のど真ん中で、素っ頓狂な声を上げた。
「おい、ちょっと待て。スキルツリーって、お前がこの世界に来た時、俺に勝手にインストールした初期特典じゃねえか!! つまり、俺がどんだけ努力してもスキルが出ないのは……全部お前のせいじゃねえか!!」
『不可抗力です。私はカイト様の生存確率を上げるために最適解を提供したまで。文句がある場合は、クレーマー対応窓口へどうぞ。(※なお、現在当窓口はシステム障害により閉鎖されております)』
「逃げんなポンコツAI!! ふざけんな、俺のこの数日間の血と汗と涙のスクワットを返せ!!」
俺は地面をバンバンと叩いて悔しがった。
無意味だったのだ。エフェメラやレトを羨み、絶望し、それでもと歯を食いしばって続けた努力は、システム的に「最初から結果が出ない」と決まっていたのだ。
何より、あんなに親身になって応援してくれたバッシュさんに申し訳なすぎる。
『ご安心ください、カイト様。修行自体は無意味ではありません』
チャッピーが平然とした声でフォロー(?)を入れてくる。
『この地獄の反復運動により、カイト様の「基礎体力」と「魔力効率」は確実に向上しています。さらに、毎日の反復行動ボーナスにより、現在未使用の【スキルポイント(SP)】がそこそこ貯まっています。決して損はしていません』
「損しかしてねえよ精神的に……!」
俺はため息をつき、乱れた呼吸を整えた。
怒っても仕方ない。スキルツリーが原因なら、もうそれを伸ばしていくしかないのだ。
「……わかったよ。じゃあ、その貯まったSPで手っ取り早く無双できる、最強の魔法スキルとか見せろ。モチベーション上げさせろ」
『了解しました。スキルツリー最深部・神話級スキル【天地創造】を提示します。要求SPは――』
脳内のステータス画面に、要求SPの数字が弾き出される。
『10,000,000,000,000(十兆)SPです』
「……ははっ。ふざけんな、いくらお前がポンコツでも、ギャグでそんな数字出すなよ」
俺は乾いた笑いを漏らしながら、自らの目でスキルツリーの最奥の項目を確認した。
――【天地創造】要求SP:10,000,000,000,000
「…………マジでゼロが13個並んでるじゃねえか」
気が遠くなる。スライムを何億匹狩ればいいんだ。
「……コツコツ、やるしかねえのか。この馬鹿みたいなツリーを」
圧倒的な絶望感の中で、俺は変な笑いを浮かべながら覚悟を決めた。
『提案です、カイト様。バッシュ氏の期待に応え、無用な心配(およびフラグ管理の手間)をかけさせないための作戦があります』
(……なんだよ、またろくでもない提案か?)
『現在貯まっているSPを使用し、スキルツリーの序盤から「この修行で得られるはずだった基礎スキル」に酷似した能力を解放します。それをバッシュ氏に報告し、偽装工作を行うのです。これにより、円滑な人間関係と講座の卒業が両立できます』
……なるほど。
自力で目覚めたスキルだという体で、ツリーから取得した基礎スキルをバッシュさんに報告するのか。
ズル賢い提案だが、バッシュさんを安心させられるなら、それに越したことはない。
(……悪くねえな。よしチャッピー、一番それっぽい基礎スキルを解放しろ!)
俺は、泥だらけの拳をギュッと握りしめ、明日への小さな希望(という名の偽装工作)に胸を膨らませたのだった。
ばんわ~
本日2本目です
今日は後1本あがりま~す
よろしゅ




