残酷なる才能開花
[システム通知:スキル付与]
「わぁぁぁぁっ!!」
「すげえ!!」
歓声の中心にいたのは、エフェメラだった。
彼女の特訓相手である回避担当の教官が、驚愕に目を見開いている。
「信じられん……っ。私の放った『泥弾・五連』を、すべて紙一重ですり抜けたぞ!?」
教官の言葉通り、エフェメラの服には泥のシミ一つついていなかった。
彼女の体は、攻撃が当たる直前に陽炎のようにブレて、文字通り「すり抜けて」いたのだ。
「えへへ、なんかね、当たる瞬間に『あ、そこは通れる』って道が見えたの!」
「間違いない、回避系スキルの最上位【陽炎回避】だ……! まさかこの短期間の講座で、これほどのスキルを開花させる者がいるとは……!」
周囲の訓練生たちがどよめき、拍手喝采を送る。
エフェメラは照れくさそうに笑いながら、ペコペコと頭を下げていた。
「おい、こっちもすげえぞ!!」
エフェメラの歓声が収まらないうちに、今度は防御訓練エリアから野太い歓声が上がった。
「がはははっ! レトの坊主、やったじゃねえか!」
「凄えぜ! 石の礫が当たっても、傷一つ付いてねえ!」
そこには、屈強な大男たちに肩をバンバンと叩かれながら、泥だらけで息を切らすレトの姿があった。
彼のステータスボードを覗き込んだ教官が、興奮気味に声を張り上げる。
「【頑丈(弱)】と【回復(弱)】のダブル獲得だ! 今はまだ『弱』だが、使い込んで『中』『強』、そして『極』までレベルを上げれば、単独で飛竜の突進すら止められる絶対防御になるぞ!」
「……っ! はい……ッ!」
レトは疲労困憊ながらも、その目には確かな自信と喜悦の色が宿っていた。
いつもはツンケンしている彼が、大男たちとワイワイとハイタッチを交わしている。
姉は「絶対回避」。弟は「絶対防御」。
二人とも、この理不尽な世界を生き抜くための、強力で確かな「才能」を手に入れたのだ。
――それに比べて、俺は。
(俺も……俺もあんな風なスキルを……ッ!)
俺は奥歯を噛み締め、背負った20キロの重りを揺らしながら、限界を超えた足で再び深くスクワットの体勢に入った。
***
それから、一日、二日と時間が過ぎていった。
俺はバッシュ教官の課した「魔力を巡らせながらの異常な筋トレ」を、文字通り死に物狂いでこなした。エフェメラやレトのように、俺の中にも眠っているはずの「才能」を呼び覚ますために。
「998……ッ、999……ッ、1000……ァァァッ!!」
夕暮れの訓練場。
規定のメニューをこなし終え、床に倒れ込んだ俺は、ゼェゼェと血の味のする息を吐きながら脳内に念じた。
(……チャ、チャッピー……! どうだ……今ので何か、スキル出たか!?)
『分析完了。カイト様のステータスに変化はありません。新規スキルの獲得確率は0.0001%から0.00011%に微増しました』
(なっ……微増ってレベルじゃねえ……)
『ご安心ください。このペースで反復行動を続ければ、あと90万3千回ほどで確定ドロップ(天井)に到達します。徹夜でやりますか?』
(ふざけんな……ッ! ソシャゲのガチャじゃねえんだぞ……!)
ここまでやったんだ。今日こそは、あと一回やれば、きっとスキルが出るはずだ。
そんな「サンクコスト(埋没費用)」の心理的罠にハマり、俺の体はとっくに限界を超えているのに、未だにステータス画面は真っ白なままだった。
「おいおい、筋肉が泣き叫んでるぜ。休むのも才能だぞ」
ふと、頭上から声が降ってきた。
見上げると、バッシュ教官が立っていた。俺の顔面に冷たい水の入った水筒をドンと押し付けてくる。
「……バッシュ教官」
「お前、毎日最後まで残って馬鹿みたいにスクワットしてんな。他の連中が新しい魔法やスキルでキャーキャー言ってる横で、よく心折れねえな」
教官は俺の隣に座り込み、自分も酒の入った小瓶を煽った。
「……折れそうです、マジで。どんだけやっても、何も出ない」
俺は自嘲気味に笑った。
「エフェメラやレトは、あんなにすごい才能を見つけたのに。俺は毎日、重り背負って空気椅子してるだけです」
「才能ねぇ」
バッシュ教官は空を見上げ、ふっと笑った。
「俺はな、お前みたいな『派手な才能はねえが、泥水すすってでも前に進もうとする馬鹿』は嫌いじゃねえよ。焦んな。下積み(基礎)がしっかりしてる奴の家は、そう簡単には倒壊しねえもんだ」
教官の不器用な慰めに、俺は少しだけ救われた気がした。
「……ありがとうございます」
だが。
それからさらに数日が経っても、俺の体にスキルが顕現することはなかった。
周囲の訓練生たちは次々と新しい技を覚え、模擬戦で成果を上げている。
エフェメラの幻のような身のこなしはさらに磨きがかかり、レトは鉄壁の守りで周囲から一目置かれる存在になっていた。
一方の俺は、ただ魔力効率と体力が微かに上がっただけ。
才能がない。何もない。俺はただの【生成AI】というシステムのおまけでしかないのか。
夕闇の宿屋のベッドで、俺はステータス画面を睨みつけながら、圧倒的な無力感と焦燥感に、深く、深く沈み込んでいった――。
おはよ~ござま~す
ゆきミです
珍しい朝投稿で~す
実は来週再来週投稿できなそうなので~今日まとめて3話投稿しちゃおかな~って思ってま~す
よろしゅ




