偽りの努力賞
[システム通知:合流]
宿屋のベッドに寝転がりながら、俺は脳内に展開された【スキルツリー】の画面を眺めていた。
画面の右上には、現在所持しているスキルポイントが表示されている。
――所持SP:842pt
「おぉ……っ! 800超えてる!」
思わず声が出た。十兆というふざけた数字を見た後だから麻痺しそうになるが、毎日毎日、吐き気を催しながら空気椅子とスクワットを繰り返した成果が、こうして数字として表れているのだ。ひどく感動する。
よし、これで一気に強くなってやる。
俺は意気揚々とスキルツリーの「獲得可能一覧」をスクロールし始めた。
……が。
【筋力微増(腕)】50pt
【基礎魔力効率化】60pt
【生活魔法(着火)】20pt
【視力微増】40pt
「……地味だな」
見える範囲にあるのは、似たり寄ったりの基礎ステータスアップばかり。たまに「おっ?」と思うものがあっても、『弱いけどワンチャン使えるかも……?』レベルのものしかない。
しかもツリーの枝分かれが異常に多く、どれを取れば正解なのか全く分からない。
『お悩みですか、カイト様。私のおすすめをハイライトしましょう』
(お、おう。頼む)
ピコン、とツリーの一部が光った。
『【睡眠時フルカラー発光】20pt、【痛覚倍増(対象:右足の小指のみ)】15pt、【全自動瞬き(手動への切り替え不可)】10pt。いかがでしょうか。驚異の低コストです』
「明らかにいらねえだろ!! ていうか弱体化してんじゃねえか!」
俺はベッドの上で跳ね起きた。
「こんなゴミデータのために、俺の魂の容量の99.9%が占有されてんのか!? 運営、絶対頭おかしいだろ! ふざけんな!」
『容量の無駄遣い極まれりですね。同意します』
「お前が言うな」
ツリーを見るのが完全に嫌になった。選択肢が多すぎる上に、ハズレが多すぎる。
俺は思考を放棄し、枕に顔を埋めた。
「……おいチャッピー。もう考えるのやめた。とりあえず今持ってるSPで一番コスパが良くて、今の修行から『覚醒したっぽく見える』組み合わせ、お前が全部選んでくれ。バッシュさんを安心させられるやつだ」
脳内で、チャッピーがやれやれと肩をすくめる気配がした。
『おや。バルガスの件以降、「AIの言いなりにはならない」「自分で決める、自分で考える」と息巻いていたのではなかったですか?(ドヤ声)』
「うるせえ! 考えないで済むツールがあるなら、全力で頼り切るのが人間の知恵だ! 楽だからいいんだよ!」
『人間の不合理かつ堕落した正当化、素晴らしいですね。承知しました。……最適解を算出』
チャッピーが選んだのは、【重心安定化(Lv1)】【疲労遅延(下半身)】【微弱魔力循環】という3つの地味な基礎スキルの組み合わせだった。
これを同時発動させることで、あたかもあの地獄の空気椅子から生まれた専用耐久スキル【魔力体幹(微)】であるかのように偽装する作戦だ。
(よし、これでいく!)
俺はさっそくポイントを消費し、スキルを獲得した。地味だが、体に一本の芯が通ったような、確かな実感が湧いた。
***
翌日。
訓練場へ向かうと、バッシュ教官が相変わらず腕組みをして待っていた。
俺は少し緊張しながら、彼に駆け寄った。
「バッシュ教官! 報告があります!」
「ん? どうした新人、そんなに慌てて」
「出ました! 昨日、宿に帰ってから体の感覚がパチッと切り替わって……ステータスに新しいスキルが刻まれました! おそらく【魔力体幹(微)】だと思います!」
俺がそう宣言して、3つの基礎スキルを同時発動させて見せると。
「おおおおおっ!! マジかお前!!」
バッシュ教官は、俺の肩を両手でガシッと掴み、目を真っ赤にして叫んだ。
「やったじゃねえか!! 才能の壁を、努力でぶち破りやがったな!!」
「えっ、あ、はい」
「おい野郎ども!! カイトがスキルを出しやがったぞ!! 今日は全員で飯だ! 俺の奢りで大宴会だァ!!」
うおおおおっ!と、周囲にいた大男たち(トレーニングの特訓仲間)まで集まってきて、俺は危うく胴上げされそうになった。
教官の目は本気で潤んでいる。
(うわぁ……なんか、めちゃくちゃ後ろめたい……)
しかし同時に、この人は本当に新人の成長を自分のことのように喜んでくれる、熱くて優しい人なんだなと胸が熱くなった。
「よし、カイト! で、ここからのメニューだが」
ひとしきり喜んだ後、バッシュ教官が鼻をすすりながら3本の指を立てた。
「あのまま『基礎トレーニング』を極めるか。魔法の扱いを学ぶ『別のトレーニング』に移るか。それとも一気に『実戦向き』の訓練に合流するか。どれがいい?」
「基礎トレを続けたいです」
俺は即答した。チャッピーの言う通り、俺にはまだまだ地力が足りない。
「でも……あの空気椅子とスクワットの地獄メニューは、正直もう嫌です」
「カハハハッ! 正直でよろしい!」
バッシュ教官は腹を抱えて笑った。
「よし、ならお前にぴったりの『基礎魔法トレーニング』の部屋を紹介してやる。そこに行け」
教官に案内され、俺は訓練場の奥にある、少し静かな別室の扉を開けた。
そこは、魔法使い志望の者たちが集まる区画らしかった。
部屋の中には、2人の訓練生がいた。
一人は、杖を抱きしめるようにしてオドオドと周囲を窺っている、気弱そうな女の子。
もう一人は、部屋の隅で胡坐をかき、外界の音を完全に遮断するほどの恐ろしい集中力で『瞑想』を行っている、銀髪の中性的な人物だった。
――なんだか、また一癖も二癖もありそうな奴らだな。
俺は小さく息を吐き、新しい訓練部屋へと足を踏み入れた。
3本目です!
予定としては次回9月6日なのですが~
時間の合間を縫えたら来週も投稿できるかも?
多分できるとしても物語設定まとめとかになるかな~って思います!
この先の展開ちゃんと考えて面白くするのでお願いしま~す!!!
ゆきミでした~




