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怪しい先輩

[システム通知:助っ人の配置]

翌朝。アトロポス支部のロビーに到着すると、ほぼ同じタイミングでエフェメラとレトも姿を現した。


「おはよう、カイトくん!」


「カイト、遅いぞ。僕たちの方が早かったね」


二人の顔に、もう一昨日のような暗い陰りはない。受付で「黒い百足」の討伐に伴う特別手当(パーティー分)を受け取り、今日の任務を選ぶ。


残っていた依頼は「森のゴブリン討伐」くらいだったが、二人からはトラウマからくる怯えや嫌がる素振りは見られなかった。俺は心の底からホッと息を吐いた。


「よし、じゃあこのゴブリン討伐を受注――」


「あっ、お待ちくださいカイトさん」


受付嬢が申し訳なさそうに手を止めた。


「お三方はまだ初心者パーティーですので、規定により本日はフリーの『中級祭司』がサポートとして同行することになっています」


「祭司? 回復役か」


「やぁ。僕がその祭司だよ」


「「「うおっ!?」」」


全く気配も足音もなく、俺の真後ろから唐突に声がした。


振り返ると、そこにはくたびれたローブを着た、糸目の優男が立っていた。茶色い髪を無造作に伸ばし、パッと見は人の良さそうな村人Aといった風貌だが……この至近距離まで、俺たち三人は愚か、チャッピーのセンサーすら反応していなかった。


「驚かせちゃったかな、ごめんごめん。テオドロスって言います。ただの祭司だから、戦闘能力には一切期待しないでよね」


ニコニコと笑うテオドロス。しかし、あの異常な『気配のな殺し方』は、どう見ても歴戦の強者のそれだった。


(おい……あの人、絶対やばい人だろ)


(うん……魔法使いの私でも魔力が全然感知できなかった……)


(ただの祭司があんな歩き方するわけないじゃないか……!)


俺たちがコソコソと固まって震えていると、テオドロスは受付嬢と「また新人をからかって~」などと呑気に談笑している。食えない男だ。


***


森に入る前。テオドロスの指導は、早くも始まっていた。


「いいかい? 足の裏全体で着地すると音が出る。つま先から滑らせるように、枯れ葉の下の土を捉えるんだ」


「えー、こんなの地味だし面倒だよ。僕の剣があればゴブリンなんて……」


不服そうに口を尖らせるレト。


『分析。初心者が自身の能力を過信してしまう【ダニング=クルーガー効果】ですね。彼の未熟な自己評価が暴走しています』


(うるさい。お前は少し黙ってろ)


だが、テオドロスは説教などはせず、物腰柔らかな態度のまま森を進んだ。


「おや、見てごらん。食べかすと、足跡、それに草が不自然に折れているね。……エフェメラちゃん、つまり彼らはどっちに行ったと思う?」


「はい! 草が倒れてる北の方向です!」


「元気でよろしい。でもハズレ。北は囮(ブラフ)の足跡で、本命はこの土の僅かな窪みが続く東だよ。ゴブリンは狡猾だからね」


答えを直接教えるのではなく、ヒントを出して考えさせる。見事な教え方だった。


そしてしばらく進むと、開けた場所にゴブリンの小集団を発見した。


「いた! よし、僕が先陣を――」


剣を抜いて飛び出そうとしたレトの襟首を、テオドロスがスッと後ろから掴んで止めた。


「待て待て。まずは相手の戦力と配置を『観察』しなきゃ」


「なんでさ! あんなの僕一人で……っ」


文句を言いかけたレトの視線が、ゴブリンたちの後方、木の上に隠れている『弓兵』の姿を捉えた。


「あっ……」


「そう。あそこに突っ込んでたら、君は今頃ハリネズミだったね」


レトは顔面を蒼白にさせ、冷や汗を流した。自分の過信が命取りになることを、身をもって理解したのだ。


「罠もしっかり隠してあるし、あの配置の見事さ……。ただのゴブリンじゃない。上位種の『ホブゴブリン』が指揮を執っているはずだ。ざっと見て、剣持ちが3、弓兵が1、奥のテントにホブゴブリンが1ってところかな」


テオドロスは流れるように状況を分析し、作戦を口にした。


「まず、君たち三人で面倒なあの弓兵を奇襲で倒す。その直後、僕が魔法で相手の陣形を崩すから、レトくんは前衛で『防御』に徹して敵を足止め。エフェメラちゃんとカイトくんは後衛から、孤立した敵を集中砲火して各個撃破だ」


「「「はい!」」」


俺たちは頷き、一気に動き出した。


俺の風魔法とエフェメラの火球、そしてレトの投擲で、まずは木の上の弓兵を音もなく処理する。


気づいたゴブリンたちが喚き声を上げ、テントから巨大なホブゴブリンが姿を現した、その瞬間だった。


「さて、お仕事お仕事。『深淵の帳』」


テオドロスが軽く杖を振ると、地面からドス黒い煙のようなものが噴出し、ゴブリンたちの足元を包み込んだ。


「ギギャァァァッ!?」


煙に触れたゴブリンたちが、突如として目を押さえ、武器を取り落とし、なぜか腹を抱えてその場に嘔吐し始めた。巨大なホブゴブリンでさえ、膝をついてガタガタと震えている。


『……分析。敵の視界阻害、筋力低下、精神汚染、さらには重度の胃腸炎を引き起こす凶悪な複合デバフです。あれは回復職(ヒーラー)の魔法から完全に逸脱しています。カイト様、あの男は【ジョブ詐称】です』


(祭司ってなんだよ!! 呪術師のトップランカーだろあんなの!)


心の中で激しくツッコミながらも、俺たちはテオドロスの作戦通りに動いた。


レトが冷静に盾を構えて弱体化した敵の反撃を弾き、その隙に俺とエフェメラが魔法の集中砲火を浴びせる。


ものの数分で、ホブゴブリンを含む全ての魔物が光の粒子となって消滅した。


「うん、お疲れ様」


テオドロスはポンポンと手を叩きながら歩み寄ってきた。


「細かい連携の甘さはあるけど、初心者パーティーにしては周りがよく見えていたね。合格だよ」


俺たちは顔を見合わせ、大きな声で「ありがとうございます!」と頭を下げた。


***


夕方。アトロポス支部に戻り、ゴブリン討伐の報酬を受け取った。


初めて手にした「自分たちの力で稼いだ、まともな報酬の銀貨」。それを三人で分け合い、レトもエフェメラも最高の笑顔を浮かべて解散となった。


宿のベッドに転がり込み、銀貨を指で弾く。


(なあ、チャッピー。あのテオドロスって人……)


『ええ。明らかに中級ではありません。そして、彼が使っていた魔法の術式……固有スキルと魔法の複合と思われます。詠唱もこの世界のものと一致しません。』


(マジかよ。やっぱり実力を隠してるのか……)


頼もしい先輩に出会えた喜びと同時に、この世界の『底の知れなさ』を肌で感じながら、俺は目を閉じた。

こんばんは!おはよう!ゆきミです!

きゃー!先輩こわ~い!って感じですね!

次回7月12日お楽しみに!

久々に評価ブクマお願いします!

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