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黄金の林檎

[システム通知:異常個体 レベル:2]

討伐隊・アトロポス支部、薄暗い会議室。

 木製の長机の前に並んで座る俺たちの前で、試験官が分厚い羊皮紙の束をバンと叩きつけた。


「よく来たな、ヒヨッコども。今日からお前たちは討伐隊の『仮採用』だ。まずは、我が隊の絶対ルールを三つ教える」


 試験官は指を三本立て、厳かに告げた。


「一つ、神殿への供物と祈りを怠るな。二つ、戦利品の分配で殺し合うな。三つ、どれだけ腹が減っても、決して同業者を食うな! 以上だ!」

「……えっ?」


 俺は思わず間抜けな声を出した。


(おいチャッピー、最後のルールおかしくないか!? なんで人肉食が前提みたいになってんだよ!)


『現在の文明レベルと高い致死率を考慮すれば、共食いを禁止する明文化は極めて合理的です。カイト様も最悪の飢餓状態に備え、レトの可食部を今のうちに見繕っておくことを推奨します。オススメは太もも部分です。』

(絶対嫌だよ! サイコパスかお前は!)


「よし、ルールは理解したな。次は部隊名の登録だ。お前たち三人で話し合って決めろ」


 試験官に促され、エフェメラが「はいっ!」と元気よく手を挙げた。


「私、考えてきたんです! 『マローン・クリセオン』……黄金の林檎、っていうのはどうですか?」

「黄金の林檎?」


「うん。教本に載ってた神話の話なんだけどね、『どんな困難も乗り越え、価値ある栄光を手にする』って意味があるんだって。私たちにぴったりだなって!」


 エフェメラが無邪気な笑顔で言うと、腕を組んでいたレトも「……まあ、悪くない響きだね」と満更でもない様子だった。


(なあチャッピー、お前ならどういう名前にする?)

『【リソース回収及び生存特化型ユニット01】です。これ以上に合理的で誤解を生まない名称はありません』

(ダサすぎる。よし、黄金の林檎で決まりだな)


 俺は心からその響きを気に入り、エフェメラに親指を立てた。

 こうして俺たちの部隊名は『黄金の林檎』として正式に登録された。


「よぉし! じゃあ早速、初任務だ。『黄金の林檎』の初陣は……裏山の指定エリアでの『銀糸草』の採取。十五本集めてこい。銀糸草は崖の近くや岩陰にしか生えない厄介な代物だ。気をつけて行け」


 こうして始まった初任務。裏山の森に入り、指定されたエリアを歩く。


 だが、事態は俺の予想を裏切るほど、異常なまでに「順調」だった。魔物の影一つなく、足場が悪いと聞いていたルートも拍子抜けするほど歩きやすい。


「なんだ、楽勝じゃないか。もう十本も見つけたよ」

 レトが退屈そうに銀糸草をカゴに放り込む。


「そうだね! これならお昼には帰れそう。レト、お昼は串焼きのおかわりしていいからね!」

「子供扱いしないでよ」


 二人はすっかり遠足気分のようだったが、俺は周囲を警戒しながら脳内でチャッピーに話しかけた。


(なあ、チャッピー。いくらなんでも上手くいきすぎじゃないか?)

『同意します。現在「監視の目」の影響で熱源感知などの索敵機能は使えませんが、過去のデータと討伐隊の新人育成プロトコルから推論すると……これは「正式加入試験」を兼ねている可能性が極めて高いです。おそらく試験官が安全圏から目視で我々の行動を評価しています』


(なるほどな。わざと安全な道を歩かせて、最後にポンと餌を置くわけか)

『はい。新人特有の**【正常性バイアス】**……「今まで安全だったから、次も危険はないだろう」という心理的な隙を意図的に作り出しています』


(あー、また正常性バイアスか。人間の心理ってのは、本当にハメやすい便利な武器なんだな。……この手口、いつか俺も誰かに使わせてもらおう)


 俺が一人で賢ぶってニヤリとしていると、前を歩いていたエフェメラが声を上げた。


「あっ、見て二人とも! あそこの岩場の奥、すごく大きな銀糸草の群生があるよ!」


 少し開けた岩場の中心に、不自然なほど立派な銀糸草が密集していた。いかにも「ここがゴールですよ」と言わんばかりの配置だ。


「よし、僕が採ってくる」


 すっかり油断しきったレトが岩場へと足を踏み入れる。


(ほら見ろ、いかにも試験官が用意した「最後の試練トラップ」だ。ゴブリンが数匹飛び出してくるってところか。まあ、あくまで試験の範囲内だ。余裕で片付けてやるよ)


 俺自身もまた、「これは試験だから死ぬような危険はない」という【正常性バイアス】にどっぷりと浸かっていたのだ。


 しかし――。

『……警告。カイト様、岩場の奥から急速に接近する異常な魔力反応。これは、試験官が制御できるレベルの……』


 チャッピーのアラートが終わるより早く。

 岩場そのものが爆発するように吹き飛び、巨木のような太さの「黒い百足ムカデ」が地中から鎌首をもたげた。


 試験の枠組みなど軽く消し飛ばす、理不尽な死の気配。

 想定外のアクシデントに、俺たちは文字通り息を呑んで立ち尽くした。

今までの敵の強さを圧倒的に超える敵が出てきてしまいました!

どうやって対処しましょうかね!

次回5月24日(日曜日)お楽しみに!

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