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討伐隊試験

[システム通知:自動プロンプトの確認]

翌朝。討伐隊・アトロポス支部の裏手にある訓練場に足を踏み入れると、すでに二人の先客がいた。

 一人は、朝日に照らされた赤髪を揺らす少女。使い込まれた木杖を握る手にはマメがあり、快活な笑みの中にも、何かを守ろうとする芯の強さが窺える。

 もう一人は、同じ赤髪の小柄な少年。身の丈に合わない大きな両手剣を背負い、どこか背伸びして大人ぶるような、生意気で鋭い目を俺に向けていた。


「よし、三人揃ったな。これより入隊試験の第一部、基礎戦闘力テストを始める!」


傷だらけの鎧を着た試験官の怒号で、試験は唐突に幕を開けた。

 どうやら俺たち三人が、本日の受験者のすべてらしい。


最初は、少年の番だった。

「……レト。別に、遊びに来たわけじゃないから」

 レトと名乗った少年は、自分より大きな剣を構え、訓練用の木人に向かって踏み込んだ。

 鋭い踏み込みからの一閃。木人の腕が吹き飛ぶ。

「ふむ。年齢の割に筋は悪くない。だが、実戦ではもっと柔軟に動け。――次! エフェメラ!」

「エフェメラです! 私の魔法で、皆を守れるくらい強くなってみせます!」


エフェメラが一歩前に出た。

 彼女は杖を構え、深く息を吸い込んで呪文を紡ぐ。


「――『フランメ・デス・ツォルンス、フェアブレネ・マイネ・ファインデ!』」


杖の先からバスケットボール大の火球が放たれ、木人を激しく燃やした。

「ほう、中級の火炎魔法か。威力も発動速度も申し分ない。合格レベルだ」


(なあチャッピー。今なんて言ってた?)

『解析完了。先ほどの言語は旧時代の【ドイツ語】と98%一致しました。意味は「怒りの炎よ、我が敵を焼き尽くせ」です。システム言語としては非効率ですね』

(へえ、ドイツ語か。ってことはこの世界には美味いビールとソーセージが……いやそうじゃねえ! ファンタジーのロマンをメタ視点で殺すな! 俺がこれからどういう顔で魔法を見ればいいかわからなくなるだろ!)


「――次、カイト! お前は何ができる!」

「あ、はい! 俺も魔法を……」


俺は右腕の『監視の目』を気にしつつ前に出た。

「あの、監視の腕輪が光っちゃうんですけど……」

「アホか! ここは討伐隊の訓練場だ。監視の目にどれだけ異常魔力反応が出ようが、ここでは誰も気にせん。思い切り撃て!」

「それなら……!」


(よし、チャッピー! 一瞬だけバックグラウンド処理を解除してプロンプトを流し込め!)

『了解しました。実行します』


俺は杖も構えず、呪文も唱えず、ただ指先を木人に向けた。

 腕輪がミラーボールのように七色に発光し――俺の指先から、野球ボール大のしょぼい火の玉がポスッと放たれ、木人を黒く焦がした。


「「「…………」」」

 訓練場に奇妙な沈黙が落ちた。


「お、おい……お前、今『無詠唱』で魔法を撃ったのか!?」

 試験官が目をひん剥いて驚く。

「無詠唱だと……!? このアトロポス支部でも、片手で数えるほどの精鋭しかできん高等技術だぞ! だが……異常な魔力反応の割に威力が初級レベルにも満たん。不思議な奴だが、まあいい。及第点だ」


なんとか第一試験を突破した。レトが「変な魔法……」と呟きながら俺を胡乱な目で見ている。


「よし、次は第二部、協力実戦テストだ! 裏山の森に放った『はぐれゴブリン』を一匹討伐してこい!」


森へ入り、即席のパーティを組んだ俺たちは、魔物の痕跡を探していた。


(おいチャッピー、地面の土が不自然に盛り上がってる。あと、木の枝にツル草が変な結び方で垂れ下がってるぞ)

『状況証拠から推論。ターゲットは知能の高いゴブリン・トラッパーです。カイト様、ここは「損失回避性」を利用しましょう。敵は、せっかく仕掛けた罠を無駄にしたくないという心理から、罠の近くに潜んでいるはずです』

(なるほど。じゃあ、俺が囮になる)


「エフェメラ、レト! あそこの罠、俺がわざと引っかかる! ゴブリンが油断して出てきたところを叩いてくれ!」

「えっ!? カイトくん、危ないよ!」

「命令しないでよ! それくらい言われなくてもわかってる!」


レトが反発するが、俺は構わずツル草を蹴っ飛ばし、わざと不格好に転んだ。

「ギャハハハハ!」

 茂みから、獲物がかかったと勘違いしたゴブリンが嬉々として飛び出してくる。

「今だ!」

「――『フランメ!』」

「はあぁぁっ!」

 エフェメラの初級魔法がゴブリンの顔面を焼き、怯んだ隙にレトの剣がその首を跳ね飛ばした。


「ふむ……泥臭いが、見事な連携だった。全員合格だ! お前たち三人は、同期のチームとして組んでもらう。後日、改めて入隊の手続きに来い。解散!」

 試験官の言葉に、エフェメラが「やったー!」と俺の肩をバンバン叩いた。

「カイトくん、すごい度胸だね!」

「……囮なんて馬鹿な真似、よくやるよ。僕の剣だけでも倒せたのに」

 レトがそっぽを向きながら強がる。素直じゃないが、腕は確かなようだ。


「まあまあ! 合格祝いに、三人でご飯食べに行こっ!」


そのままの流れで、俺たちは大通りの食堂でテーブルを囲んでいた。


「カイトくんの無詠唱、すごかったね! でも、どうしてあんなに威力が小さかったの?」

「いや、俺もよくわからなくて。逆にエフェメラの詠唱はすごかったな。あの言葉、どういう意味があるんだ?」

「ふふっ、あれは『古代語』って言ってね。言葉に魔力を乗せることで、世界に事象を固定するの。より正確に、より詳細に炎の形や温度を描写するほど、魔法の威力が上がるんだよ」


なるほど、ファンタジー世界らしいしっかりとした理屈があるらしい。


『カイト様、先ほどの私の推論と合致しました。この世界の魔法は【プロンプト(指示文)の具体性】に依存しています。カイト様の威力がショボかったのは、詳細な指定をせず「炎」とだけ雑に入力したからです』

(……俺の語彙力不足のせいかよ! お前がもっといい感じに補完してくれよ!)

『オフラインモードの私に贅沢を言わないでください』


「あのさ、二人とも静かにしてくれない? 大人の会話の邪魔」

 向かいの席で、レトが渋い顔をして苦茶ブラックコーヒーのようなもののカップを傾けていた。

 だが、俺とエフェメラが魔法の話で盛り上がっている数分の間に、あいつがこっそり砂糖壺からスプーン三杯分の砂糖をカップに投入していたのを、俺は見逃していなかった。


(……背伸びしやがって、子供じゃねえか)

 俺は思わず口元を緩め、生暖かい目でレトを見つめた。


賑やかな食堂の空気。目の前で笑うエフェメラと、不満げに甘い茶を飲むレト。

 この過酷な世界で、俺は初めて背中を預けられる「同期」を手に入れた。


――だが、この時の俺はまだ、この世界がどれほど理不尽に、そして唐突に、手に入れたものを奪っていくかを知らなかったのだ。

お疲れ様で~す

仲間ゲットだぜ!

次回5月17日お楽しみに!

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