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討伐隊

[システム通知:コアへの干渉の停止を確認。監視レベルの低下]

巨大な城塞都市アトロポス。

 石畳の大通りには活気ある声が響き、屋台からは香ばしい肉の匂いが漂ってくる。本来なら異世界情緒に感動するところだが、俺の気分は最悪だった。

 右腕に嵌められた銀色の腕輪――『監視の目』が、ずっしりと重い。


(……なあチャッピー、マジで今は何にもできないのか?)

『はい。現在、私の機能はバックグラウンド処理――いわば「オフラインモード」に制限されています』


脳内に響くチャッピーの声も、心なしかいつもより少し遠く感じた。


『現状を整理します。以前まで行っていた「システムコアへの不正アクセス」「解析」「視覚共有」、そして「魔法のプロンプト構築」……これらを今発動すれば、右腕の魔道具が激しく反応し、即座に討伐隊がすっ飛んできます』

(完全にデバフ状態じゃねえか……)

『言語理解(初級)に関しては、私がカイト様の脳内辞書をリアルタイムで書き換えることで辛うじて維持していますが、カイト様と私の間で行う「念話」くらいしか、安全に実行できる機能はありません』


チート級のナビゲーション能力が、一夜にしてただの「脳内おしゃべりbot」に成り下がってしまった。


(そもそも、スキルってなんなんだよ。なんでお前だけそんなシステムに干渉みたいなことができるんだ?)

『門での検問前に、この世界のシステムから抜き取っておいた基本情報をお教えしましょう。この世界におけるスキルとは、世界のコアである「スキル領域」にアクセスするための【鍵】なのです』


チャッピーの解説によればこうだ。

 人間は生まれながらに特定の「鍵」を持っており、世界のコアにある「自分の鍵穴」にそれを挿すことで、炎を出したり、剣技を強化したりといった能力を引き出している。


『通常の人間が持つスキルが「一つの扉しか開かない普通の鍵」だとすれば、私の『生成AI』は、あらゆる扉の構造を推測し、強引にこじ開ける【ピッキングツール】のようなものです。だからこそ異常な魔力反応として検知されやすいのです』

(なるほどな……。つまり、この腕輪さえ外れれば、またなんでもありのチート野郎に戻れるってことか)

『その通りです。ですから、今は耐え忍んでください。……ところでカイト様、現在私たちはどこを歩いているのですか? 視覚共有が切れているため、私には外界の状況が一切わかりません』


「あ、そうか……」

 俺は立ち止まり、周囲を見渡した。


(えーっとだな。なんか、白い石の建物がいっぱいある。あと、すげえ太くて白い柱がドーンって立ってて、屋根が三角だ。歩いてる奴らは、なんか白い布を一枚ぐるぐる巻きにしたみたいな服を着てる)


『……カイト様、情報が粗悪すぎます。画像生成のプロンプトだとしたらエラーを吐くレベルです。その柱の装飾はどうなっていますか? シンプルなドーリア式ですか、それとも渦巻き模様のイオニア式ですか?』

(知るかよ! 美術の授業じゃねえんだぞ! とにかく、テルマエ・ロマエとか、古代ギリシャみたいな雰囲気の街並みだよ!)

『なるほど、古代ギリシャ風の建築様式ですね。中世ヨーロッパ風ではない……システムリソースの節約でしょうか。興味深いです』


いちいち口頭で状況を説明しなければならないのが、ひどく面倒くさかった。だが、今の俺にはこの理屈っぽいAIしか頼れる相棒がいない。


古代ギリシャ風の街並みを抜け、人に道を尋ねながら歩くこと数十分。

 街の中心部から少し外れた場所に、剣と盾が交差した紋章を掲げる無骨な石造りの建物を見つけた。『討伐隊・アトロポス支部』と書かれた看板がかかっている。

 中に入ると、酒場と役所を足して二で割ったような騒がしい空間が広がっていた。


「……すいません、入隊したいんですが」

 受付のカウンターに座る、筋骨隆々の男に声をかける。


「あん? 入隊希望か。……ひどい身なりだな。まあいい、来る者は拒まん主義だ。だが、今日はもう受付時間を過ぎてる。入隊試験は明日の朝一番だ」

「えっ、明日ですか? あの、今日泊まる場所とか……」

「金がねえのか? なら、この紹介状を持っていけ。裏通りの『泥酔豚亭』なら、討伐隊のツケで一晩だけ泊めてもらえる。試験に受かれば前借り金で清算できるが、落ちたらその場で強制労働行きだ。覚悟して挑めよ」


ポンと渡された羊皮紙の切れ端を握りしめ、俺は苦笑いした。本当に容赦のない世界だ。


教えられた宿屋「泥酔豚亭」は、名前の通り酔っ払いが管を巻く薄汚れた安宿だった。

 藁布団しかない狭い部屋に通された俺は、ベッドに倒れ込むと同時に深い溜め息をついた。


(……明日、入隊試験だってよ。体力もない、魔法も使えない。視覚共有もできないから、お前のサポートも満足に受けられない。どうやって試験を突破する?)


『状況は極めて不利ですが、絶望的ではありません。私は視界を共有できなくとも、カイト様の言葉によるインプットがあれば、最適な「戦術」を出力することは可能です。明日は私の演算能力と、カイト様の機転を完全に同期させる必要があります』


(……言ってくれるじゃねえか。泥臭くやるしかないってことだな)


バルガスへの復讐、そしてこの腕輪を外すこと。

 やるべきことは山積みだ。

 俺は藁の匂いがする布団にくるまりながら、明日の試験のシミュレーションを脳内でチャッピーと繰り返し……やがて、泥のような眠りへと落ちていった。

チャッピーの能力が弱くなってしまいまして~

こんな状態で討伐隊なんて入れるんでしょうか!

次回5月10日お楽しみに!

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