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脱出と平原

[システム通知:# 観察結果 * 能力平凡、動向危険]

洞窟の出口へ向かう道中は、拍子抜けするほど平和だった。


何度かゴブリンや大コウモリといった魔物とすれ違ったが、奴らは俺の横を素通りしていった。目が合っても、まるで「そこに誰もいない」かのように興味を示さず、明後日の方向へ歩いていくのだ。


(おい、チャッピー。なんでこいつら、俺を襲ってこないんだ? さっきのオオカミ共はあんなに殺意マシマシだったのに)


『解説。現在、私たちはバグとして処理されているためそれを利用したカイト様のステータスを「村人Aモブ」に偽装するステルスプロトコルを継続中です』


(チャッピーそんなことまでできたのか!? 提案以外は優秀なんだな!)


『はい。現在のカイト様のシステム上の存在価値は、「道端の石ころ」や「生えかけの雑草」と同等に設定されています。モンスターにとって、カイト様はただの背景テクスチャであり、噛みつく価値すらない無機物です。カイト様自身の能力以外は優秀ですよ』


(……安全なのはありがたいが、人間としての尊厳がゴリゴリ削られるな)


複雑な気分になりながらも、無用な戦闘を避けられるのは大歓迎だ。俺は胸の傷を庇いながら、黙々と足を動かし続けた。


やがて、前方に眩しい光が見えてきた。じめじめとした空気が、乾いた心地よい風に変わる。

洞窟の巨大なアーチを抜けた瞬間、視界が一気に開けた。


「……おおっ……」


思わず声が漏れた。眼前に広がっていたのは、見渡す限りの緑の平原だった。風が吹くたびに、背丈ほどある草が波のように揺れる。見上げれば、雲一つ……いや、ぽつぽつと白い雲が浮かぶ、抜けるように青い快晴の空。人っ子一人いない大自然のパノラマに、俺はしばらく言葉を失って見惚れていた。


(すげえ……本当にファンタジー世界なんだな……)


過酷な森と薄暗いダンジョンからようやく解放され、肩の力がふっと抜ける。


『カイト様、感動の水を差すようで恐縮ですが、環境データの解析結果を報告します。……上空の雲ですが、風速と形状の変化パターンを計算した結果、きっちり「30分周期で同じ配置・同じ動き」を繰り返しています。非常に省メモリで安上がりな空ですね』


(……おい、言うな。せっかくの感動を「手抜き背景素材」みたいに言うな!)


この世界の正体がどうであれ、今の俺にとっては命を繋いだご褒美の景色だ。俺は目を細め、平原のずっと奥に視線を凝らした。遥か遠く、地平線の手前あたりに、高い城壁に囲まれた街のようなシルエットが小さく見えた。


「街だ……! あそこに行けば、まともなベッドで寝られるし、飯も食える!」


希望の光に、俺の足取りが自然と軽くなる。


『計測完了。現在地からあの都市までの直線距離、約60キロメートル。カイト様の現在の負傷状態と歩行速度を考慮すると、到着は「明日の深夜」になります』


「……え?」


『本日のホテルチェックインは絶望的です。歩き続ければ途中で傷口が開き、確実に行き倒れるでしょう』


その非情な宣告を聞いた瞬間。俺の体から、ブツンと糸が切れたように力が抜け落ちた。


「嘘だろ……」


気が張っていたせいか気づかなかったが、バルガスに斬られた胸の傷はズキズキと痛み、焼灼した火傷は熱を持ち、足は鉛のように重い。魔力も体力も、とっくに限界を超えていた。

俺はその場に、ドサリと仰向けに倒れ込んだ。草の匂いが鼻をくすぐる。平和な場所に出た安心感が、逆に蓄積した疲労を爆発させたのだ。


「もうダメだ……一歩も動けん……」


『カイト様のバイタル低下を確認。行動不能と判断します。これより本日の野営準備に移行します』


(ああ……頼む。安全な寝床を……)


『了解しました。平原は身を隠す場所がないため、【土葬式・仮死睡眠プロトコル】を推奨します。カイト様を地中1.5メートルに埋め、呼吸用のあしの管だけを地上に出して睡眠をとります。外敵から100%身を隠せ、地熱による保温効果も抜群です。さあ、残った力で穴を掘りましょう』


「誰が冬眠するカエルだ!! そのまま永遠に起きれなくなりそうだろうが!」


『非合理的ですね。では妥協案として、風下のくぼ地に簡易的な防風壁(プロンプトによる土壁)を生成し、周囲に警戒用の魔力感知アラートを張り巡らせる通常の野営スタイルに変更します』


「最初からそっちを提案しろ……!」


俺は最後の力を振り絞って立ち上がり、チャッピーの指示通りに草むらのくぼ地を見つけ、小さな土壁を立てた。焚き火は目立つため起こせないが、今はただ、泥のように眠りたかった。

土壁の陰に丸くなり、空を見上げる。規則正しく流れる雲の向こうに、少しずつ夕闇が迫っていた。


「……色々あったけど、生きてるんだな、俺」


『ええ。しぶとさだけは、バグ並みです』


「褒め言葉として受け取っておくよ。……おやすみ、チャッピー」


俺が目を閉じると同時に、脳内に心地よいノイズキャンセリングのような静寂が広がった。相棒の不器用な気遣いを感じながら、俺は深い眠りに落ちていった。

こんにちは! ゆきミです!

楽しい楽しい街編に入っていきますよ!

来週日曜(4/12)をお楽しみに!

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