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ダンジョンの逆走

???「コウモリでも出して様子を見ておきましょうか」

『リザルト報告。クロコッタ1体、ウルフ種10体の討伐を確認。SPスキルポイントを計50獲得しました。現在、合計SPは55です』


(ご、50!? 一気にそんなに!?)


暗い洞窟を歩きながら、俺は思わず小躍りしそうになった。胸の火傷の痛みすら少し和らぐほどの報酬だ。


『はい。胸部の裂傷を治療するため、SP50を消費して新規スキル【生体リソース転用オートファジー】の解放を推奨します。生存に直結しない身体部位(盲腸、左足の小指、および余剰体脂肪)を即座に分解し、致命傷の修復リソースとして充当する極めて合理的な自己回復スキルです』


(自分の小指食って回復してどうすんだ! 却下だ却下! SPは温存しておく!)


『カイト様、それは「保有効果」という非合理的なバイアスです。人間は自分がすでに持っているものを過大評価し、手放すのを極端に嫌がります。左足の小指の喪失による歩行への影響は2%未満。胸部の出血多量による死亡リスクと比較すれば、損切りすべきです』


(うるせえ! 人間の身体はトカゲの尻尾じゃねえんだよ! 俺の小指は誰にも渡さん!)


相変わらず行き過ぎた合理性を押し付けてくる外注プログラマーをあしらいながら、俺は周囲を見渡した。


洞窟の壁は、自然の岩肌ではなく、人工的なレンガのような石材で綺麗に舗装されていた。一定間隔で壁にはめ込まれた燭台からは、魔力によるものなのか、青白い炎が静かに揺らめいている。

 ……間違いない。ここはただの洞窟じゃない。


(おいチャッピー、これって完全に「ダンジョン」ってやつだよな!?)


『はい。構造的に、何らかの文明によって建造された地下迷宮であると推測されます』


(テンション上がるな……! 男のロマンじゃねえか!)


魔物に追われ、人間に裏切られ、散々な目に遭ってきたが、俺のゲーマーとしての血が少しだけ騒ぎ出していた。

 しかし、少し進んでいくと、奇妙なことに気づいた。


通路の脇にある小部屋の宝箱はすでに開け放たれており、罠の類はすべて作動済み。

 そして極めつけは、通路の先に現れた「巨大な両開きの扉」だった。


いかにもボスがいます、と言わんばかりの豪奢な扉は、無残にも半開きになっていた。

 隙間から中を覗き込むと、円形の広大な部屋のど真ん中に、巨大な岩のゴーレムが崩れ落ちていた。完全に機能停止している。


(……ボス討伐済みかよ。しかも、ゴーレムの関節部分には剣で斬りつけたような痕があるが……よく見ると、断面がおかしいぞ?)


『視覚情報を解析。断面の崩壊パターンが物理法則に反しています。まるで、空間そのものを「切り取られた」かのような不自然な欠損です』


俺はゴーレムの巨体を見上げ、首を傾げた。


(あの逃げ腰のバルガスが、一人でこんな巨大なボスを倒せるか? まるで、バルガスを通すために「見えざる手」が働いて、強引にボスを排除したみたいじゃないか……)


『推測。この地下迷宮は、本来「地上から地下へ」向かう構造です。しかし我々は、森の隠し通路から最深部へ侵入し、出口へ向かって「逆走」している状態です。フラグ管理が逆転しているため、通常の難易度曲線から逸脱している可能性があります』


(俺たちが、エンディングからオープニングに向かって歩いてるバグキャラってことか。……まあいい、安全に抜けられるならそれに越したことはない)


俺がボス部屋を横切り、さらに通路を進もうとしたその時だった。

 視界の端を、キラキラと眩い光を放つ小さな影が横切った。


「キィッ」


それは、全身が宝石のように輝く、手のひらサイズのコウモリだった。

 光を反射しながら、俺の目の前をフワフワと飛んで、奥の横穴へと逃げていく。


(っ! おいチャッピー! 今の見たか!? あからさまに光ってたぞ!)


『視認しました。発光性の特殊なコウモリ種です』


(間違いない、あれは「倒すと莫大な経験値とレアアイテムを落とす系のレアモンスター」だ! 逃がすか!)


俺のゲーマー脳が警鐘を鳴らす。あいつを逃せば絶対に後悔する。

 俺は痛む体を無理やり動かし、光るコウモリを追いかけて横穴へと飛び込んだ。


『警告。カイト様、現在カイト様は「ハロー効果」に陥っています』


(ハロー効果?)


『目立つポジティブな特徴に引きずられて、対象のすべてを高く評価してしまう認知バイアスです。自然界において派手な発光は「猛毒の警告色」であることが多いのですが、現在のカイト様の知能レベルは、街灯に群がる夏の夜の蛾と同等です』


(うるせえ! ファンタジー世界で光る敵はメタルスライムと相場が決まってんだよ!)


チャッピーの毒舌を無視して追いかけると、コウモリは小さな行き止まりの部屋に逃げ込んだ。

 そして、その部屋の中央には——装飾の施された、古びた宝箱がポツンと置かれていた。


(宝箱だ……! しかも、ここはバルガスも気づかなかった隠し部屋みたいだな)


コウモリは天井の隙間へ消えてしまったが、お宝があるなら結果オーライだ。

 俺はワクワクしながら宝箱を開けた。中には、禍々しい紫色の宝石が埋め込まれた「指輪」が入っていた。


(おおっ……! 見るからにレア装備! 魔力アップとかか!?)


俺が喜んで指輪を手に取ろうとした瞬間、チャッピーの冷ややかな声が響いた。


『鑑定完了。【呪縛の指輪】です。装備した瞬間から使用者のMPを絶えず吸い上げ続け、指を切り落とすまで外れなくなる呪いのアイテムです』


(…………)


俺は、指輪をそっと宝箱に戻し、パタンと蓋を閉めた。


『カイト様。ハロー効果と射幸心に踊らされた結果、無駄な体力を消費し、呪いのアイテムに行き着きましたね。おめでとうございます』


(……もう何も言うな)


俺は深いため息をつき、来た道を戻ろうと背を向けた。

 だが、その裏側で。

 俺の脳内深角では、チャッピーが「俺には聞こえないシステムログ」を密かに処理していた。


[System Log:外部からの微弱な干渉スキャンを検知]

[Warning:所属不明の『管理者』権限からの観測視線を確認。何者かがこの領域をスキャンしています。カイト様の「フラグ逆走行為」が、物語の異物として疑われている模様です]

[Action:ステルスプロトコル実行。相手の正体が特定できないため、カイト様のステータスを『モブキャラクター(村人A)』に一時偽装し、観測をやり過ごします]


「ん? チャッピー、なんか言ったか?」

『いえ、何も。……ただ、これ以上「目立つ行動」は控えることを推奨します。不用意な光に群がるのは、もうやめにしましょう』


チャッピーの言葉の真意に気づかないまま、俺はダンジョンの出口を目指して歩き出した。

えーついにやらかしましたね! 私が!

日曜と言っていたのに忘れるといった失態! これはいかがなものかと!


今回の話では少しこの世界について触れたみたいですよ?

まぁ本人は気づいてないですけどね


次回こそは日曜日になります! 12日をお楽しみに!

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