第2章 第20話 どうやら予想を遥かに上回っていたらしい
前話に引き続いて、展開は15年前のキラリン。
キラリンは立ち上がった。
そして決意する。
「決めたわ。ウチがこの子達のママになる。」
「へっ?」
幸せそうに日の光を浴びて眠っている2人の赤ん坊。
その赤ん坊の頭を優しく手で撫でた。
とても可愛い。
「まずは、そうね・・・何からすれば良いのかしら?」
「・・・・・・。」
「あんたね。少しはウチを手伝ってあげようとか思わないわけ?」
「・・・・・・。」
「いつもデシデシ煩いくせに、こういう時は無視すんの?」
「・・・・・・。」
キラリンは、左腕につけた“八芒星”が描かれた腕章をビシバシ叩いた。
しかし、全く反応がない。
「あ!? あのバカ、勝手に1人で帰ったわね!」
プリプリと怒って地団駄を踏むキラリン。
1人になると急に不安が込み上げてくる。
しかし、辺りを見回したところで誰もいない。
キラリンの不安な気持ちを悟ったかのように、2人の赤ん坊がまた泣き出した。
「こうなったら、やるわ!ウチならやれる!ママよ!ママは強いのよ!」
心を奮い立たせる。
「でも・・・ママって、何をしたら良いのかな??」
***********
場面は15年前の異世界免許教習所に移る。
- 異世界免許教習所 -
《15年前》
大柄で白くモコモコとした生き物と幼き子供は、研究室の中を掃除していた。
雪男のアズマンと幼少期のゼフェルである。
アズマンは溜息をついた。
研究室長のキラリンが、また連絡もなしに何か月も帰ってこない。
いつものことだが、いつものこと過ぎて困る。
「・・・・・・。」
無言でじーっと見つめてくるゼフェル。
アズマンは、その大きな手でゼフェルの頭を撫でた。
「心配してくれているのかい? 大丈夫だよ。いつものことだから。」
まったく、あの方はいつもいつも・・・。
ぶつくさ言いながら、アズマンは掃除を続けることにした。
そのアズマンの左足の毛を掴んで、ゼフェルは引っ張った。
「どうしたんだい?」
ゼフェルは無言で指を差している。
その示す先には鳥かご。
その鳥かごの中には、青白く揺らめく炎があった。
「お帰り“キキ”。室長も帰ってきたのかい?」
鳥かごのそばに近寄ると、アズマンは鳥かごの中で揺らめく青白い炎に声を掛けた。
「一大事デシ!キラリンがママになったデシ!!」
「へ??」
鳥かごの中の青白い炎は、その姿を鳥の形へ変えていく。
その大きさはオウムと同じ程度。
胸には、目立つ八芒星の模様がある。
キキと呼ばれたその青白い鳥。
その実態は“不死鳥”であった。
「カゴを開けるデシ!すぐに所長に報告に行くデシ!」
アズマンは、言われるがままに急いで鳥かごの扉を開けた。
キキは、すぐさま羽ばたくと、この場を飛び去っていった。
「はぁ。また室長がトラブルを起こしたみたいだねw」
「・・・・・・。」
大きな手で頭をガシガシと掻くアズマン。
そのアズマンの足をポンポンと優しく慰めるようにゼフェルは叩いた。
急ぎ所長室に向かうキキ。
その所長室の中では、所長のゴラン、黒色ゴーレムのドルトン、大賢者のコマゾーが打合せをしていた。
「大変デシ!大変デシ!」
所長室の中に入ったキキは、コマゾーが手に持つ杖の上に着地して羽をバタつかせる。
「ふむ。また何かドジ娘がやらかしたようだにゃ。」
キキを宥めながらドルトンが尋ねた。
「今度は何をやらかしたのかい?」
「キラリンが!キラリンがママになったデシ!」
・・・・・・。
・・・・・・。
はあ??
全員が斜め45度になる。
キラリンがトラブルを起こすことは、毎度のことで慣れている。
しかし、キキの報告は想像の斜め上を行っていた。
開いた口が塞がらないとはこのことである。
ようやく口を開いたのはゴラン。
「・・・・よ、よく分からんな。とりあえず、順を追って説明してくれ。」
その時。
所長室の中に入ってきた者がいた。
ジーニャである。
秘宝の世界で仕事を終えたジーニャは、それを所長に報告する為に来たのであった。
所長の前まで近づくジーニャ。
そして、そこにキキの姿があることに気がついた。
うん、これは絶対に面倒なことになるさね・・・。
ジーニャはその場で回れ右をすると、静かに所長室を後にしようとした。
「ふむ。良いところに来たのにゃ。」
それをコマゾーが引き留める。
すごく嫌そうな顔をして、ジーニャは仕方なしに振り返った。
「面倒事はごめんさね。」
気色が悪いほどに満面の笑みを浮かべているゴラン、ドルトン、コマゾー。
ジーニャは、右手で顔を覆った。
「はぁw 最悪のタイミングで来てしまったさね・・・。」
キキの説明によるとこうだ。
キラリンは、上級美容薬を作りたいが為に逸脱の世界に入った。
すったもんだして辿り着いた永久凍土の地でユキノシタ鉱石をゲットした。
次にすったもんだして辿り着いた地は常しえの密林。
そこで、見つけた艶茸を引き抜く為、キラリンは罠を仕掛けた。
それが突然の暴風雨で暴発。
何と、倒れた樹木の中からは、ヒト系-コモンの赤ん坊が2人出てきた。
周りには誰もいない。
キラリンは、その赤ん坊のママになる決意をした。
・・・・・・。
・・・・・・。
なんじゃそりゃーーーーー!!!!????
微妙な間があった後、口を揃えて驚いたゴラン、ドルトン、コマゾー。
目頭を手で押さえるジーニャ。
「あのドジ娘がやることは、もはや理外という言葉を超越しとるにゃw」
右足で耳の裏を掻くコマゾー。
「ヒト系-コモンが木の中から生まれるなんて、聞いたことがないぞ? それも光合成するなんて・・・。」
首を傾げるドルトン。
「・・・・・・。」
黙り込んだゴラン。
もうお手上げ。
ゴラン、ドルトン、コマゾーは、息ピッタシでジーニャに視線を移した。
笑顔でじーっと見つめる。
「はいはい。様子を見に行ってくるさね。」
抵抗しても無駄。
ジーニャは早々に諦めた。
「で? 逸脱の世界のどこに行けば良いのさね?」
「ふむ。ジーニャにこれを渡しておくにゃ。」
傾奇者が着ていそうな羽織りの袖から、コマゾーは尋ね物を知る石を取り出した。
「これを使って、キラリンの腕章を探せば、自ずと導いてくれるにゃ。」
キキが羽を広げた。
「じゃあ、オイラは先にキラリンのところに戻るデシ!」
キキは揺らめく青白い炎に形を変え、塵一つ残さずにその場から姿を消した。
面倒くさ気に立ち上がるジーニャ。
「じゃあ、あちきは転移の間から行ってくるとするさね。」
あとはヨロシク~。
笑顔で手を振って見送るゴラン、ドルトン、コマゾー。
ゴランが手を振ると、風を切る音がゴオンゴオンと室内に響く。
はあw
もう一度溜息をついたジーニャは、恨めしそうに3人を見てから所長室を後にした。
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時は現代に戻る。
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》
戦場を離脱したイバラン軍は、ラタの進言により軍を3つに分けることにした。
ラタは、4千の兵を率いてこの地に留まっている。
そして、邪教国軍本隊の様子を探っていた。
斥候が戻ってくる。
「戻りました。」
「ご苦労さん。早速、報告してくれるかな?」
「敵は・・・途方もない数です。」
「??」
顔を青くしている斥候。
重々しいその雰囲気を見て、ラタは只事ではないことを感じた。
「敵は、それほどまでに大軍なのかい?」
「はい。恐らくは・・10万は超えているかと。」
ラタは手で顔を覆った。
海を渡って攻め込んできた以上は、敵が大軍であることは間違いないと予測はしていた。
しかし、10万の大軍は予想を遥かに超えている。
敵は、ポルファス王国が単独で立ち向かえる数ではない。
ましては、カモット辺境伯率いる南部の兵力だけでは、どうあがいても無理だ。
そして、イバラン国とマイラン国から多少の援軍を向けたところで、圧倒的な数的不利は変わらない。
どうする?
どうするべきだ?
悩む。
そして、彼は驚くべき決断をした。
その決断が、後に戦いの行く末を大きく変えることになる。




