第2章 第21話 どうやらスキルが発動したらしい
- 逸脱の世界 -
「はっ!?」「えっ!?」「うそっ!?」
真逆に天高くそびえ立つ世界樹に異変が起きた。
世界樹の葉の色が急速に変化していく。
まるで夕陽のような鮮やかな朱色。
世界樹は紅葉していた。
「な…なんで?」
それに気づいたのは、どうやら僕と双子の3人だけらしい。
レジスタンスとヤドリガミは戦いに集中している。
その争いは激化していた。
世界樹を目掛けて、レジスタンスは次々と真逆の空間に飛び込んでいく。
それを迎え撃つヤドリガミ。
レジスタンスは魔法。
ヤドリガミは念力。
互いに接近戦はない。
中距離からの攻撃が激しくぶつかり合っている。
レジスタンスは精霊である。
火、水、地、闇の精霊が、各々が得意とする魔法を行使している。
ヒト型の姿をした精霊は少なく、蜥蜴、鰐、鹿、鷲といった動物の姿に近い者ばかりだ。
色で各々の属性は一目瞭然である。
一方のヤドリガミは、生物と精霊が合成した存在である。
その姿は、猩猩に近い。
個体によって身体の色が様々であることから、合成された精霊の属性によって色が異なっているのだろう。
その争いの様子は、鳥獣戯画のようである。
「世界樹が怯えている・・・。」
「そんな・・・。」
ハルカとアスカが呟いた。
朱色に染まった世界樹の葉が舞い落ちた。
1枚、また1枚と舞い落ちてくる。
双子の表情を見る限り、世界樹が紅葉することは望ましくないことなのだろう。
「ねえ。キントンは何が起きているのか分かる?」
僕は後ろを振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
今さっきまで一緒であったキントンの姿が、どこにも見当たらない。
そして、キラリンの姿もなかった。
僕の目の前に、大賢者コマゾーとカラス天狗が唐突に姿を現した。
瞬間移動である。
「まずいにゃ。予想外のことが起きたにゃ。」
コマゾーが辺りを見回す。
「キントンはどこだにゃ。」
「それが・・・今の今まで一緒だったんですが・・・。」
MAPで確認しようにも、辺りをフワフワと彷徨く大量のキラリンもどきが邪魔で、一面に“青印”が表示されている。
その食欲を誘う匂いをまき散らしているキラリンもどきは、キラリンが作った罠である。
それが、辺り一面に仕掛けられているのだ。
「ふむ。尋ね物を知る石は、あっちを示しているようだにゃ。」
「師よ!見つけましたゾ!あそこに!」
カラス天狗が指差した場所。
そこは、レジスタンスとヤドリガミが争っている戦場のど真ん中である。
キントンはキラリンを背負いながら、魔法と念力の雨あられを刀で凌いでいた。
その状況でも平然としている。
そして、こちらに向かって歩いてきているのであった。
朱色に染まった世界樹の葉は、次々と舞い落ちてくる。
まるで紙吹雪のようになってきた。
僕は、何がなんやら、もう頭が混乱状態である。
「あの・・・何が起きているのでしょうか??」
コマゾーに尋ねてみた。
「説明すると長くなるにゃ。とにかく・・・っ!!」
突然、目の前の景色が歪んだ。
それは、皆も同様のようである。
目まぐるしく景色が回転する。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
まるで宙に投げ出されたかのように身体が浮いた心地がする。
世界の歪みが消えていく。
回転は鎮まった。
それとともに、水平、斜め、垂直、真逆と場所によって異なっていたねじれは、全てが正常に水平に戻っている。
これには、さすがの大賢者とカラス天狗も堪えられなかったようである。
2人ともひっくり返っていた。
もちろん、僕も盛大にコケている。
「皆々の者、大丈夫でござるか?」
キラリンを背負ったキントンが近づいてきた。
どうやら、あの眩暈がするほどの回転は、ゴーレムには影響しないようだ。
その背中には、意識を失っているキラリンがいる。
「キラリン!」
「キラリン!」
双子のハルカとアスカが駆け寄った。
目を回しているようで、フラフラな足取りで走る。
コマゾーもキラリンの容態を心配している。
どうやら仲が悪いわけではないらしい。
「何があったのにゃ?」
「それが、妹君が急に意識を失って倒れたのでござる。」
その頃。
世界が回転したことで、レジスタンスとヤドリガミの争いの手は止まっていた。
そして、全員が世界樹に起きた異変に気づく。
誰もが唖然としていた。
しかし、すぐに火の手は再び巻き起こった。
闇精霊のフィーネが、闇属性魔法でヤドリガミを打ち払ったのである。
それが引き金となった。
またも、魔法と念力の激しい衝突が始まる。
念力で飛ばされた岩石の一つが、軌道が反れたようで僕らに飛んできた。
それをカラス天狗が防御魔法で弾く。
「して、コマ殿。これは良からぬ兆候ではござらんか?」
「ふむ。恐らく出てくるにゃ。」
「何が出てくるのか分かり申すか?」
「正確には分からんにゃ。」
コマゾーとキントンは、真剣な面持ちで何やら話し合っている。
どうやら、チートな2人でも危機感を持つようなことが起こるらしい。
僕は気になって、これから何が起こるのかを聞いてみた。
「何が起こるのですか?」
「世界樹の悪魔が生まれるのでござる。」
「えっ!?」
「世界樹は感情を持っているにゃ。」
「え? 世界樹にも意志があるんですか?」
僕は改めてMAPを見た。
意志を持つ者は、何らかしらの色で表示される。
だが、世界樹は地形の一部として表示されているだけあり、やはり色はついていない。
「意志とは違うにゃ。」
「??」
「感情があるのだにゃ。」
「??」
コマゾーの説明によると、世界樹は9つの感情を持っているらしい。
滑稽、憤怒、悲嘆、嫌悪、恐怖、勇猛、驚愕、恋情、平和
それらの感情は、“世界樹の声を聞く者”だけが理解できるそうだ。
世界樹の声を聞く者・・・・。
僕は、そのキーワードをどこかで見た覚えがある。
問題は、その感情のことではない。
世界樹には大きな3本の根がある。
世界樹の感情が異常な高ぶりを見せると、その3本の根の何れかから厄災が生まれるらしい。
それが世界樹の悪魔と呼ばれている。
僕は息を飲んだ。
「それ・・・ヤバいですよね?」
「何が生まれるかによるでござる。」
「せめて、どの感情なのかだけでも理解できれば、何とか対処できかもしれんにゃ・・・。」
僕らは無言になった。
「分かるわ。」
「分かるよ。」
同時に2人の返答があった。
ハルカとアスカである。
「あなた達、キラリンの仲間でしょ?」
「そうだにゃ。」
「キラリンから、大きな猫の妖精が友達にいるって聞いてたけど、それはあなたのことよね。」
「いつもバカネコ、バカネコって言って、笑いながら昔話を聞かせてくれたよ。」
コマゾーは、ポリポリと足で耳の裏を掻いた。
「私たち、世界樹の声を聞くことができるの。」
「世界樹は怯えているよ。」
「それは・・・本当かにゃ?」
「間違いないわ。」
「間違いないよ。」
カラス天狗が飛んできた。
「師よ。争いが激しすぎます。場所を移して頂かないと・・・。」
カラス天狗は、僕らをずっと争いの飛び火から守ってくれていたようで、かなり疲れている様子が見られる。
「お主たちは、世界樹が何に怯えているのか分かるのかにゃ?」
「分からない。」
「でも、分かるよ。」
「どっちだにゃ?」
「世界樹に直接触れることができれば、きっと感じると思う。」
「きっと分かるよ。」
・・・・・・。
全員が世界樹を見上げた。
その次の瞬間、僕らは世界樹の真下に瞬間移動していた。
そこには、眼鏡をかけた精霊が立っていた。
その雰囲気からして、話に聞いていた精霊の合成研究者に違いない。
その傍には、ひと際身体が大きい猩猩が10体ほどいる。
きっと、ヤドリガミの中でも特に強力な念力を扱う個体なのだろう。
その相手も、僕らの存在に気がついた。
「くっ! レジスタンスか!?」
精霊の合成研究者が叫んだ。
猩猩が一斉に咆哮を浴びせてくる。
「無音!」
コマゾーが魔法を行使した。
すると、猩猩の咆哮が一瞬でかき消される。
「お主らは、世界樹が何に怯えているのか、すぐに調べるのだにゃ。」
「分かったわ。」
「分かったよ。」
コマゾーに指示された双子は、世界樹に向かって走り出した。
「コ・マゾウよ。」
「はっ。師よ、何なりと。」
「ドジ娘とあの双子を外敵から守ってやるのだにゃ」
「はっ!」
カラス天狗は、気を失っているキラリンの身体を足で掴むと、重たそうに空を飛んで双子の後を追いかけて行った。
「さて、キントン。」
「心得てござる。拙者らはあの大猿を相手にするのでござるな。」
「峰打ちで頼むにゃ。」
「承知。」
・・・・・。
「あのう。僕はどうしましょう?」
「邪魔だにゃ。」
「ですよねw」
「ミライ、お主のジョブは何であったかにゃ?」
「具現制作者です。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「それでどうにかするにゃ。」
「どうにかって・・・。」
僕のジョブは具現制作者である。
そして、僕が持つ唯一のスキルは“具現変換”だ。
だが、これで何が出来るのか、自分でも理解していない。
スキルを使ったことさえないのだから。
大型の猩猩が襲い掛かってきた。
大きな手の平を振り下ろす。
すると、とんでもない重力が僕の身体に圧し掛かってきた。
まずい!潰される!
そう思ったのは一瞬。
コマゾーが杖を振りかざした途端、身体は軽くなった。
しかし、安心したのは束の間。
次の瞬間、僕の身体は大きく吹き飛ばされていた。
まるで、見えない何かに掴まれて、そのまま放り投げられたかのようである。
ドガッ!!
僕の身体は世界樹の幹に激突した。
かなり派手にぶつかった。
が、全く痛くない。
組手の時と同じで、コマゾーが補助魔法で“防御力を強化”してくれていたようだ。
良かった。
胸を撫でおろす僕の横には、双子のハルカとアスカの姿がある。
2人は世界樹の幹に耳をあてていた。
「静かにしてくれるかしら。」
「ちょっと邪魔よ。」
「・・・・何か手伝おうか?」
「静かにして。」
「静かにして。」
怒られた。
僕は、仕方なく周りの様子を見た。
コマゾーとキントンは、大猿相手に激しい攻防を繰り広げている。
あの2人とやり合っているということは、かなり強力な念力を使うヤドリガミなのだろう。
すぐ近くでは、カラス天狗が魔法の防壁を重ね掛けしていた。
それで押し寄せてくるヤドリガミを足止めしている。
レジスタンスとヤドリガミの攻防は凄惨な状態になっていた。
ヤドリガミに身体を引きちぎられる精霊。
レジスタンスに身体を焼かれる猩猩。
僕は目を背けた。
どちらかが正義で、どちらかが悪であるという、そんな単純なことではない。
それなら。
この戦いには意味があるのだろうか?
疑問に感じてくる。
「もっと、平和的に解決できないのかな・・・。」
そう思った。
その僕の心は震えた。
具現変換
それは発動した。




