第2章 第18話 どうやら何かを見つけたらしい
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 南部 シキニ山地の戦い》
邪教国軍は困惑していた。
指揮官である“導師位”が敵に討たれ、軍の統率がままならない状態に陥っていたのである。
山道に敵が逃げ出したと見るや、すぐさま追撃を試みた。
しかし、鬼神の如く強い男が殿に立ちはだかり、邪教国軍は次々とその男の前に倒れ伏した。
鬼神の如く強い男とは、王国軍の常駐隊長サコンである。
そのサコンの気迫は邪教国軍の信仰心を凌駕し、邪教徒たちに恐怖心を植え付けていた。
邪教国軍は焦る。
その焦りには理由があった。
枢機卿率いる本軍が、すでに上陸しているはずである。
今頃は、こちらに向かって進軍しているであろう。
その先陣となるこの軍は、ポルファス王国に単独で攻め入ることを許されてはいなかった。
しかし、導師位の独断で、勝手に戦端を開いたのである。
導師位は、異常に出世欲が強い人物であった。
ここで、自身の手柄を示したかったのである。
導師位の指示によるものとはいえ、先陣が勝手に戦端を開いたことは咎められる可能性が高い。
しかも、その責任を負うべき導師位を失っているのだ。
何も成果がないこの状態で、本軍と合流した時の処罰は如何なるものか・・・。
枢機卿の冷酷な眼差しを想像する。
それだけで、邪教国軍は身震いしてしまうのであった。
意見が飛び交う。
このまま山道を進むか?
しかし、山道では数の有利を失うだけではなく、敵が待ち伏せしている可能性もある。
山を焼き払ったらどうか?
その為に必要となる油を駐屯地に取りに戻る間、もしも本軍が到着したら元も子もない。
戦場を離脱した敵が、駐屯地を襲う可能性はないか?
念の為に駐屯地の防衛に兵を割いた方が良いだろう。
どうする?
どうする?
どうする?
右往左往する“鱗鋼”の鎧に身を包んだ“魚”たち。
そして、決断は分かれた。
山道を突き進んで追撃を試みる兵が5千。
この場に留まって本軍の合流を待つ兵が1万。
食料や油を保管した駐屯地まで戻る兵が3千。
先陣の邪教国軍は残り1万8千。
その兵は、3つに分かれることを選択した。
結論から言えば“愚策”である。
山道を進むことを判断をした5千の兵は、導師位の独断に賛成していた勢力である。
その独断に賛成したが故、このままでは自分たちが酷く咎められるという危機感が強かった。
その5千の兵が山道に入っていく。
それは、すでにカモットが仕掛けた“網”に自ら捕らわれに行くようなものである。
そのことを“魚”たちは知らない。
一方。
山道に退却するなり、すぐに準備を整えていった王国軍。
それは“十面埋伏の陣”である。
十面埋伏の陣は、山道の要所に騎士を伏せて“奇襲”を用いることを目的とする。
しかし、その奇襲を実現させることは容易いものではない。
戦場において、奇襲の成功率は決して高いものではないのだ。
奇襲を成功させるには、敵の進軍経路を正確に読んだ上で、伏兵を的確に配置しなければ意味を成さない。
敵の動きというのは単純ではないのだ。
その場所や地形が危険だと判断すれば、敵は迂回などして然りである。
それらを全て読んだ上で、完璧に伏兵を配置するのは不可能な芸当とも言える。
しかし、それを可能とする下準備を王国軍はすでに終えていた。
サコンの存在である。
カモットは、王国軍を山道に退却させる際、あえてサコンに殿を任せた。
それこそが、この十面埋伏の陣に必要な布石であった。
サコンは、怒りに身を任せて暴れ回った。
そして、邪教国軍に対して強い恐怖心を植え付けることに成功している。
邪教国軍にとっては、サコンの存在はもはや恐怖でしかない。
その為、戦場でその姿をみたら、必ず避けるべき存在であると認識したのである。
サコンの存在を上手く使って、十面埋伏の陣に敵を誘導していく。
これが、低い成功率を確実なものへと変えるカモットの策であった。
山道に突入した邪教国軍の兵は5千。
待ち伏せを警戒して、慎重に山道を突き進んでいった。
そこに突如としてサコンが手勢を率いて現れる。
邪教国軍の兵は、すぐさまサコンから逃げ出すように進路を変えた。
そうして、確実に網の中心へと誘導されていく邪教国軍。
もはや、その網からは逃れることはできない。
【状況】
□=王国軍
■=邪教国軍
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山 ■■■■■■■■■■■■■■■■→
■■■■■■■■■■■■■■■■■■→
道 ■■■■■■■■■■■■■■■■→
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敵が網の中心に入ったところで、王国軍は四方八方から一斉に攻撃を仕掛けた。
邪教国が行った外道の仕打ち。
火あぶりにされて散っていった仲間の騎士たちの無念を晴らすべく、王国軍の勢いは凄まじさを極めていた。
敵軍を前後に分断することに成功する。
【状況】
□=王国軍
■=邪教国軍
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☆ ■■■■■■■■□□■■■■■■■■■■
サコン■■■■■■■■□□■■■■■■■■□□
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前後を分断され、完全に包囲された邪教国軍。
その後衛は、瞬時に撤退しようと試みたものの、そこにまたしてもサコンが姿を現す。
自分たちが信じる“教え”を信じない者には死を。
自分たちが信じる“教え”を信じない国には滅びを。
そう信じて疑ってこなかった邪教徒たちであるが、死を目の前にして後悔する。
命乞いする者が出始めた。
王国軍は、ここに憤怒を爆発させていた。
仲間の無念に報いを。
ポルファス王国に栄光を。
邪教国軍には逃げ場などない。
救いもない。
山道に入った邪教国の兵5千は、ここに1人残らず全滅した。
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- 万物の世界 -
ぺちぺちと頬を叩かれる感触でミックは目を覚ました。
目の前にいたのはポランである。
「大丈夫でやんスか?」
ポランは心配そうにミックの顔を覗き込んだ。
「ああ。俺は助かったのか・・・?」
何でもそつなくこなすイメージがあるミックだが、実は泳げない。
水に流されたミックを救ったのはポランであった。
ミックは辺りを見回した。
厄災はすでに終わっているようだ。
しかし、ポラン以外の仲間の姿が見当たらない。
「かなり遠くまで流されたようでやんス。MAPを見ても、近くには誰もいないでやんス。」
「そうか・・・。」
ミックはMAPを見た。
ミックはポランよりもレベルが高い。
その為、ポランよりも広い範囲をMAPで見ることができる。
しかし、そこには仲間を示す青印は表示されていなかった。
「・・・どうやら、帰還の印綬が使えなくなっているな。」
「そうでやんス。きっと、あのニャンモクの仕業に違いないでやんス。」
ポランは見ていた。
レヴィアタンが吐き出した大量の水が襲ってきた時、ニャンモクのライが全員に何かのスキルを掛けたのである。
あの時、“印” である“八芒星”を鍵して妨害したに違いない。
しかし、その目的が分からなかった。
異世界免許教習所に雇われし者である以上は、面識がなくとも仲間であることは間違いない。
・・・・・・。
・・・・・・。
沈黙する2人。
ミックは立ち上がった。
「まあ。ここにいない奴を疑っていても状況は変わらん。」
「そうでやんスね。」
ミックは、背中に担ぐ自分の武器が無事であるかを確認した。
2つの斧は無事に背中に納まっている。
「一番心配なのは・・・ミアか?」
「そうとも限らないでやんス。 ミアはああ見えても“ど根性”でやんス。」
「ははっ。確かにそうだな。」
「そうでやんス。」
「さて、どこに向かうかだな。」
「オイラに考えがあるでやんス。」
ポランは指を差した。
「・・・気になるな。」
「なるでやんス。」




