第2章 第17話 どうやら心を奮い立たせたらしい
- 逸脱の世界 -
カラス天狗のコ・マゾウは、自身が調査した実情を説明していた。
その横では、大賢者コマゾーが適当な石に腰を掛けた姿で、緊張感なく居眠りをしている。
世界を守る為に世界樹を破壊しようとするフロウ。
精霊王となって世界を支配する為に世界樹を守ろうとするフィーネ。
どちらが正義で、どちらが悪であるという、そんな単純なものではない。
「よって、見方次第では、悪の権化はレジスタンスを名乗る方となるのですゾ。」
カラス天狗の説明が終わる。
その説明を僕、キントン、キラリンの3人は微動だにせず聞いていた。
微動だにしない。
瞬きもしない。
息もしない。
「??」
カラス天狗は、3人の様子が変であることに気付いた。
「聞いておりますかな?」
カラス天狗がキラリンの肩を揺すろうとする。
ボンッ。
キラリンの肩に触れた途端、キラリンの身体は煙となって消え失せた。
「んなっ?なななっ?」
何が起きたのか分からずに慌てるカラス天狗。
僕とキントンの身体も同様であった。
カラス天狗が触れた瞬間、同じように煙となって消えたのである。
「なななっ!?」
その驚いた声で、コマゾーは目を覚ました。
「ふにゃ。説明は終わったかにゃ? あまり時間がないから急ぐのにゃ。」
「師よ!3人の姿が消えてしまいましたゾ!」
「んにゃ?」
コマゾーは軽やかに跳ねて立ち上がると、3人の姿が煙となって消えた場所の地面を調べた。
そして、そこに落ちていた小さな玉を拾う。
「ふむ。囮罠だにゃ。お主が一瞬目を離した隙に仕掛けたのだろうにゃ。」
「むむむ。」
キラリンは、ただの天然印のドジっ子ではない。
天才的な能力を持つトラップクリエイターであり、その魔力は大賢者コマゾーをも上回っている。
そして、瞬間移動を使うことができる。
状況的に判断して、囮罠を仕掛けた後、瞬間移動でこの場から消えたことに間違いはない。
しかも、キントンとミライを連れて。
カラス天狗がMAPを見る。
「んななななっ!?」
MAPには、異世界免許教習所に雇われし者が青色で表示される。
カラス天狗が見たMAPでは、世界樹の周り一面が青色の印で覆いつくされていたのであった。
「ふむ。慌てるでない。これもドジ娘の罠だにゃ。」
「しかし師よ。意思のある者しか印は表示されないはずですゾ?」
辺り一面を覆いつくす青印は、一斉に動き出した。
その動きに統一感はない。
「ふむ。ドジ娘がやることは、儂にも分からんにゃ。」
「これでは、どこに3人がいるのか判断がつきませんぞ。」
コマゾーは、右足で耳元を掻いた。
そして、傾奇者が着ていそうな羽織りの袖の中に腕を入れる。
「弱りましたゾ・・・。」
カラス天狗は、羽をパタつかせて辺りをウロウロと飛び回った。
「まあ、落ち着くのだにゃ。」
コマゾーは、袖の中から尋ね物を知る石を取り出した。
「石よ。オリハルコンゴーレムであるキントンの場所を示すのだにゃ。」
コマゾーは、石に魔力を込めて語りかけた。
尋ね物を知る石が輝きを見せる。
「ふむ。あの辺りのようだにゃ。」
ほっ。
カラス天狗は、脱力するかのように胸を撫で下ろした。
「ふうっ。流石にございます。」
「ふむ。3人のすぐそばには、恐らく目当ての人材もいるであろうにゃ。」
「結果的に探す手間が省けましたな。」
「ふむ。所詮、ドジ娘はドジ娘だにゃ。」
一方。
僕は、急に瞬間移動させられた。
「悪の権化は、レジスタンスを名乗る方となるのですゾ。」
カラス天狗のその言葉に驚いた直後であった。
周囲を見回してみる。
そばには、キントンとキラリンがいる。
キントンは瞬間移動を使えない。
きっとこれは、キラリンの仕業なのだろう。
キラリンは、何かスイッチがついた箱を手に持っている。
「スイッチ~オ~ン♪」
それをご機嫌で押した。
すると、次の瞬間、辺り一面には大勢のキラリンが出現した。
キラリン、キラリン、どこを見てもキラリンだらけである。
「んななななっ!?」
驚いて声を上げた僕をキラリンは見た。
「ところで、あんた誰? ウチと会うの初めてよね?」
「はい。新人のミライと言います。」
僕の名前を聞いたキラリンは、露骨に嫌そうな顔をした。
ドン引きの顔である。
「可哀そうな名前ね。その名前は絶対に変えた方が良いわよ。」
初対面なのに名前を貶されてしまった。
なぜ??
でも、不思議だ。
キラリンとは初めて会ったという感じがしない。
なぜだ・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
あっ!?
ミアだ!
ミアと同じ匂いがする。
きっとキラリンは、ミアと同じ類に違いない。
辺り一面を埋め尽くすキラリンが、一斉に動き出した。
その様子を見て、僕はまたも驚いてしまう。
どうなっているのだろう??
ふふん。
と、得意気な表情をするキラリン。
「これはね。匂いと囮の二重罠よ。こんなこと出来るのは、きっとウチだけよね。スゴイでしょ。」
「・・・スゴイですね。」
どうやら、辺りに漂っている食欲を誘う匂いは、この大量のキラリンもどきから発せられているらしい。
「下準備が大変だったんだから。ヘトヘトになるまで瞬間移動して、たくさんセットしたのよ!」
「・・・スゴすぎですね。」
「でしょ!これは全部撒き餌よ。敵を誘導するの。そして、別の罠で一網打尽にするはずだったのよ。」
「その罠が落とし穴みたいなもので、それを仕掛けた自分が落ちていたんですね・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「まあ、そういうこともあるわ。」
キラリンは、桃色の緩いネオソバーシュのセミロングヘアを手で靡かせた。
あれは無かったことにしたいらしい。
キントンは、罠に興味がないようだ。
「妹君、これから拙者たちは、何をすれば良いのでござるか?」
「本当に久しぶりね黄色!また会えて嬉しいわっ。」
「拙者もでござる。」
「バカネコがいなくてもアンタがいれば楽勝よ! レジスタンスに加担して、敵をバッタバッタと薙ぎ倒して頂戴っ!」
「承ったでござる。」
敵??
ヤドリガミは敵なのだろうか。
カラス天狗の言葉が脳裏に過る。
「とりあえずレジスタンスと合流するわっ!ウチと一緒に来て!」
そう言って、キラリンは走り出した。
そして、お決まりのようにコテッとコケた。
やっぱりミアだ。
ミアと同じ匂いがする。
トラブルメーカーが持つ雰囲気。
それが、キラリンからビンビンに感じられるのであった。
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- 万物の世界 -
レヴィアタンは加圧力の高い大量の水を四方八方に吐き出した。
それに流されてしまった6人。
真っ先に溺れたミアを助け出したカッパのカッパ。
しかし、そこに再びレヴィアタンが吐き出した大量の水が襲いかかった。
カッパは必死に濁流となった水をかき分けて泳いだ。
そして、彼がようやく水面から顔を出すと、そこには仲間の姿は見当たらなかった。
「へぷちっ!」
気を失っていたミアが、派手なクシャミをして目を覚ます。
「平気かい?」
「んん。 ここは?」
「溺れた君を俺が助けたのさ。もう厄災は終わったみたいだから安心して。」
「そう。ありがとうカッパ。それで、他のみんなは?」
「それが、どうやら逸れたみたいだ。MAPを見ても印が見当たらない。」
「そう。ホントこの世界は災難ね。一度、異世界免許教習所に帰る?」
「それがね・・・・。」
カッパは酷く落ち込んだ。
「あんたって、本当にアレがないと別人よね。どうしたの?」
「・・・帰還の印綬がなぜか使えないんだよ。」
「え? 何で? “綬”が切れた?」
「いや。よく分からないんだけど・・・何かに“妨害”されているようなんだ。」
ミアは、MAPにある八芒星を見た。
それは、帰還の印綬の“印”である。
「うそ・・・。」
その八芒星は、何かに妨害されているかのように鍵されている。
「どうしたら良いかな?」
不安そうな顔をするカッパ。
ミアも泣きたい気持ちになった。
しかし、それをぐっと抑えて飛び上がる。
宙を華麗に一回転すると、カッパに向けてビシッとポーズを決めた。
「まずは、次の厄災が来るまでに仲間を探すわよっ!」
「そ・・・そうだね。」
「私がいるからには大船に乗った気で安心しなさい!どんな荒波でも越えてみせるわっ!」
「泳げないのに?」
コテッとコケるミア。
「まあ、そういうこともあるわ。」
「不安だなぁ・・・。」
すでに厄災は終わっており、空の景色は普通に戻っている。
この世界には国がなければ街もない。
仲間と合流できるポイントは、心当たりすら全くない。
11時間後には、また次の厄災が訪れる。
それまでには、何とか仲間と合流しなければ。
2人は立ち上がった。
なんとか心を奮い立たせる。
そして、歩み出した。
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- 逸脱の世界 -
僕とキントンは、レジスタンスとの合流ポイントに到着した。
因みに目線は水平な場所である。
今更だが一応。
「キラリン、よくやったザマス!」
全身真っ黒な服装で、ちょっと癇癪持ちっぽい雰囲気を纏う女性が、キラリンを褒め称えていた。
「へへん!どんなもんよ。」
調子に乗っているキラリン。
僕と同い年くらいの双子の女の子が駆け寄って来た。
見た目で分かる違いは髪の毛の色くらいだ。
黒髪と茶髪である。
その双子は、キラリンに抱きついた。
「もう!心配したよっ!」
黒髪の子が頬を膨らませて、キラリンに可愛く迫った。
ちょっと、ボクっ子が入っている雰囲気がする。
「アスカに心配されたら、ウチもお終いよね。」
キラリンは、満面の笑顔で言葉を返した。
どうやら黒髪の子は、アスカという名前らしい。
「お疲れさま。これ、返すわね。」
茶髪の子は左腕につけていた腕章を外すと、それをキラリンに手渡した。
「ハルカの作戦はビンゴね。敵が匂いで混乱してるわ。」
キラリンは、受け取った腕章を自分の左腕に着け直した。
どうやら茶髪の子は、ハルカという名前らしい。
「最後の罠をミスったことは、言わないで良いのデ・・・。」
その腕章が喋りだしたところを、慌ててキラリンが手で押さえる。
「もごもごごぉ・・・。」
腕章が喋った。
しかし、それに僕は気づいていない。
僕は、険悪な表情の精霊たちに囲まれていた。
「こいつ・・・生物ザマス。」
「何で生物がまだ生きているんだ。」
すごく嫌な雰囲気である。
僕は身の危険を感じた。
この逸脱の世界に生物は存在しない。
全てヤドリガミとなっている。
僕は脳内コンピューターをフル回転させて、どう弁解するかを考えていた。
「あー。気にしないで。皆に紹介するわ。私の仲間のキントンと新米よ。」
そんな脳内PCフル回転の僕をよそに、キラリンはサラッとキントンと僕をレジスタンスに紹介した。
僕だけ、新米よばわりだが・・・まあ良いだろう。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
誰も何も喋らない。
「まあ、キラリンのことだ・・・。」
「そうね。どうせ何かカラクリがあるんでしょ・・・。」
「そうだな・・・どうせ・・・。」
どうせ、キラリンのことだ。
という、不思議な納得感がレジスタンスの中で広まっていく。
「リーダーのフィーネというザマス。」
「ハルカよ。」
「アスカよ。」
どうやら、僕の存在はどうせでどうにかなったようである。
僕は胸をなでおろすと、レジスタンスのステータスを見てみることにした。
「スケベ。」
「ド変態。」
しかし、すぐに胸を突き刺さされる言葉を浴びせられてしまった。
双子は軽蔑の目で僕を見ている。
どうやら、ステータスを見る為にジッと見たことが、変な方向で誤解されたらしい。
「いやっ!ち、ちがう。」
僕は必死に弁解しようとしたが、狼狽えた地点ですでにアウト。
違うのに。
これからは、気をつけよう・・・。
すでにレジスタンスは突撃を開始していた。
真逆にそびえ立つ世界樹の周りに次々と飛び込んでいく。
魔法と念力の激しい攻防が始まった。
さて、どうしよう。
僕はどうしたら良いのだろうか?
大賢者コマゾーに言われた意味深な言葉を思い返した。
「ミライは、もっと経験を積むべきだにゃ。」
・・・・・・・。
僕はまだ新米だ。
経験が浅い。
今は出来るだけ冷静になって、まずは状況を判断することにしよう。
僕は、心を落ち着かせた。
そして、奮い立たせる。
その時。
真逆に天高くそびえ立つ世界樹に異変が起きた。
「はっ!?」
「えっ!?」
「うそっ!?」
全員が唖然として世界樹を見る。
世界樹は・・・・紅葉した。




