第2章 第12話 どうやらイレギュラーが起きたらしい
- 万物の世界 -
とち狂った竜獣系の暴威はまだ続く。
ミック、ミア、ポラン、ウル、カッパ、ライの6人は、避難できそうな場所を探して動いていた。
「もうダメだ。戻ろう。帰った方がいいよ。」
カッパが座り込んでしまった。
泣きべそをかきながら切実に思いを訴えている。
同調する者は、誰もいなかった。
「あんたって、ホント“あれ”がないとヘタレよね! 立つのよ!」
ミアは、恐怖が一周回って何やら興奮状態になっている。
カッパの頭の皿をペチペチ叩くと、カッパに奮起させるよう気合を注入していた。
そのミアが全員に指示を出す。
「次は、あそこまで走るわよっ!」
「おうっ!」
「了解でやんス!!」
6人はまた走って移動した。
ライカンスロープのウルが、慎重に辺りの気配を探る。
ウルのジョブはカバート(隠密)であり、危険察知にも優れているのだ。
MAPでは地下の状況が示されない。
その為、いつどこから地下に潜む竜獣系が飛び出てくるか分からない。
そこは、ウルの危険察知に頼るしかなかった。
「ウル!どう?いける?」
「ちょっと待て。」
ウルが、額に右手の2本指を立てた格好で辺りの様子を探る。
「!?」
そのウルが、驚愕と怯えの入り混じった表情を見せた。
その様子を見て不安になる他の5人。
カッパに至っては、恐怖のあまり両手で耳を覆っている。
「やばいぞ・・・近くではないが、これはやばい。」
ウルは、真っ青な顔をして遠くの空を見た。
その視線の先を全員が目で追う。
蒼紫の空は渦を巻いていた。
その空に向かって、長く超巨大な竜がゆっくりと舞い上がっていく。
「レヴィアタン・・・。」
6人は、その空に舞い上がる竜の姿に見惚れてしまった。
神々しさすら感じられる。
「最上位の竜獣系か・・・はじめて見るな。」
ミックが呟いた。
レヴィアタンは、ゆっくりとそして優雅に蒼紫色の空を舞った。
そして、その動きを止める。
「やばいっ!!」
危険を察知したウルが叫んだ。
レヴィアタンは、周囲の魔素をその身体に取り込んでいた。
超巨大な全身が光に包まれている。
次の瞬間。
レヴィアタンは大きく口を開けると、猛烈な勢いの水を大量に噴出した。
魔力で加圧された水は尋常ではない力となり、辺り一面を掃き出すかの如く押し流していく。
それは、6人が身を隠す場所に向かっても吐き出された。
「!?」
「まずいっ!」
6人は、一瞬のうちに流された。
「アババババッッッ」
真っ先に溺れてしまうミア。
「何で妖精系のあいつが溺れるんだっ!!」
ミックが、ミアの身体を掴もうとする。
しかし、その手は届かない。
「俺が行くっ!」
カッパが、急ぎ泳いでミアを追いかける。
その水は濁流と化していた。
水中の視界がとても悪い。
MAPの印だけが頼りである。
カッパの手はミアを掴んだ。
「やったぞ!」
ミアを助けたカッパ。
しかし、そこにまたしても、レヴィアタンが噴出した大量の水の猛威が襲いかかる。
2人は、さらに押し流されてしまった。
************
- 異世界免許教習所 -
《所長室》
所長であるゴランの日常は忙しい。
異世界免許教習所では、教習所として様々な仕事がある。
仕事ではなく、仕事が山積みなのだ。
所長室の建物に誰かが入ってきた。
「ゴラン所長、我が師がどこに行ったかご存じないか?」
ゴランはその声を聞くと、驚いたように顔を上げた。
所長室の建物に入って来たのは、大賢者コマゾーの8人の弟子の1人“コ・マゾウォ”である。
昔は、地下組織の頭目としてブイブイ言わせていたが、大賢者コマゾーに小突かれてから弟子になった。
赤い一つ目の黒猫、ニャンモクである。
「んんっ? どうした? もうリタイアして戻ったのか?」
ゴランは、コ・マゾウォを見て尋ねた。
「?? 戻るもなにも、今日はどこにも行っておりませんぞ。」
「んんっ?」
「んんっ??」
***********
- 魔素の世界 -
《ポルファス王国 西部 ヤークション フクダン伯爵邸》
べリオルは嫌な予感がした。
ジーニャを抱きかかえると、スキル“神出鬼没”を使用する。
神出鬼没は、瞬間移動に似たスキルである。
瞬間移動は、魔力の強さに応じて移動できる距離が変わってくる。
それに対して、神出鬼没には魔力の強さは関係しない。
自身の眷属がいる場所に限定されるものの、その場所であれば瞬時に移動できるのが神出鬼没である。
2人は、フクダン伯爵邸の庭に姿を移した。
急いで屋敷の中に入る2人。
その屋敷の中では異変が起こっていた。
全ての使用人の動きが止まっている。
「生きてはいるようさね。」
使用人たちは死んではいない。
この屋敷の中だけ、まるで時が止まっているかのように固まっている。
べリオルには、何か感じるものがあったようだ。
狼狽えるように辺りを見回す。
「どうしたのさね?」
「坊ちゃまが・・・・消えた。」
べリオルは走り出した。
ジーニャが、その後を追いかけて走る。
そして、執務室の扉を開けた。
「!!」
「!!」
執務室の中は、禍々しく渦を巻く漆黒の空間であった。
そして、手足が長く奇妙な姿をした者が立っている。
ジーニャは、その姿に見覚えがあった。
アイラの記憶で見た奴だ。
その名は終焉。
べリオルが、終焉に飛び掛かっていく。
それに対して、終焉は慌てる素振りなく指を鳴らした。
パチン。
べリオルの動きが止まった。
その場で、まるで時が止まったかのように固まっていたのであった。
終焉が被っている背の高い帽子の目が、厭らしい視線をジーニャに向ける。
幻惑
ジーニャはすぐに気がついた。
ジーニャは幻惑耐性を持っている。
しかし、それはジーニャの耐性を上回る力であった。
必死で抵抗を見せるジーニャだが、力が及ばない。
自分の意識の中に入り込まれた感覚がする。
気持ち悪い。
「あぁ・・・」
ジーニャは身を震わせた。
その意識の中で、終焉に恥辱の限りを尽くされていた。
その時。
動きを止められているべリオルの背後に、何者かが姿を現した。
第三位始祖のヴィラロアである。
終焉は、一瞬だけヴィラロアと目を合わせた。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
終焉は、またも指を鳴らした。
すると、一瞬にして姿を消したのであった。
禍々しく渦を巻いていた漆黒の空間が消えてなくなる。
「ぐはっ!」
べリオルが動いた。
屋敷の中にいる使用人たちも動き出し、何か変だと思いながらも働き始める。
終焉
ヴィラロアは、その存在を知っていた。




